表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

第二話:系譜の選択と、最初の一撃

ボロ小屋の隙間から吹き込む風が、獣の唸り声のように鳴っている。


カイの目の前には、黄金のツリーが浮かび上がっていた。吹雪の中でも消えず、むしろ闇が深まるほどに光を増していく。


握りしめたハナの手から、熱が伝わってくる。高熱に浮かされた、命を燃やし尽くすような熱だ。


(……夢じゃない。これは、本当に俺の頭の中にある「力」だ)


【保有SP:10。習得可能なスキルを表示します】


無機質な声と共に、黄金の枝葉が文字を紡ぎ出す。水呑のカイが知るはずもない言葉なのに、なぜか意味が直接、魂に流れ込んでくる。


【習得可能スキル】


1. 『野性の勘(Lv.1)』 必要SP:5

 ・触れずとも周囲の生命反応・気配・殺気を察知する。

 ・敵の動きの予兆や、対象の急所を直感的に捉える。

 ・ステータス数値までは読み取れない。


2. 『剛力(Lv.1)』 必要SP:5

 ・発動中、武力に+25の補正を加える。

 ・代償として、発動の度に現在体力の一割(端数切上げ)を消費する。

 ・効果時間は30秒。クールタイムは30分。


3. 『冷静沈着(Lv.1)』 必要SP:5

 ・恐怖や怒りといった感情を一時的に遮断する。

 ・思考を加速させ、論理的な判断を可能にする。

 ・常時使用可能だが、使用中や野生の勘や剛力などの効果がなくなる


(……武力。剛力は、武力ってやつに足してくれるのか)


カイは、自分のステータス欄に並ぶ「武力20」という数字を、もう一度見つめ直した。


意味は、まだ分からない。だが、ここに「+25」が乗るなら、その瞬間、自分の武力は「45」になる。


(……二倍、いや、それ以上だ)


数字の上で、自分が何倍にも膨れ上がるという事実だけが、カイの胸の中で確かな感触になった。具体的に何ができるかは、分からない。だが、今の自分のままでは、雪山で凍え死ぬしかないのも分かる。


(選べ……選べと言うのか。今この瞬間に必要な、武器を)


カイは、ハナの掠れた呼吸に耳を澄ませた。


ハナの命の灯が、もういくらも残っていない。それは、兄として肌で分かる。


村に戻って五郎から薬を奪い返すなど、不可能だ。武力が足された自分でも、太刀を持った五郎と取り巻き三人に勝てるかは分からない。返り討ちに遭えば、ハナの死に目にも会えない。


(……奪うしかない。それも、村の外から)


カイの脳裏に、村の猟師たちが畏れと共に語っていた怪物の姿が浮かんだ。


北の森の主——片目の黒熊。


その胆嚢たんのうは万病に効く薬になり、肉は凍えた身体に活力を与えるという。熟練の猟師でさえ返り討ちに遭う、森の絶対王者。本来なら、ひ弱な水呑が狩ろうなど狂気の沙汰だ。


だが、今のカイには、黄金の枝が見えている。


(『野性の勘』がなければ、この吹雪の中で奴を見つけることすらできない。『剛力』がなければ、鉈一本で奴の毛皮を裂けない。……この二つだ)


カイは、意識のすべてを黄金の樹に叩きつけた。


【スキル:『野性の勘(Lv.1)』『剛力(Lv.1)』を習得】

【SP:10 → 0】


その瞬間、雷が落ちたような衝撃が、カイの脳内を走った。


「……ぐっ、あぁぁぁぁッ……!」


視界が白く濁る。全身の神経が作り替えられていく激痛。耳の奥に、それまで聞こえなかった「音」が爆発的に流れ込んできた。


雪が枝から落ちる音。

床下の土が凍りつく、極小さな軋み。

そして——。


(……聞こえる。森の奥で、巨大な心臓が打つ音が……!)


世界の解像度が、一段階上がった。


カイは深く息を吐き、立ち上がった。壁に立てかけられた、刃の欠けた古いなたを手に取る。


「ハナ、待ってろ。必ず戻る」


ボロ布の布団を妹にかけ直し、カイは凍てつく戸外へ飛び出した。


——


雪は止んでいた。


代わりに、薄暗い空に雲が低く垂れ込めている。


カイは、村の外れへ向かう細い雪道を、北の森を目指して歩き始めた。


『野性の勘』を発動したまま歩くと、世界の見え方が違う。


雪に半ば埋もれた野兎の巣。

凍った沢の下で、まだ動いている小魚の気配。

遠くの林で、餌を漁る狐の足取り。


これまで「ただの白い荒野」でしかなかった景色に、生命の点が無数に灯っていた。


(……なるほど、これが「勘」か。数字じゃない。だが、確かに、わかる)


その時。


カイの背後、村の方角から、三つの「殺気」が近づいてくるのを、勘が捉えた。


(……来たか)


カイは振り返らずに、雪道の脇の倒木の影に身を寄せた。


吹雪は止んでいるとはいえ、視界はまだ白っぽい。倒木に身を伏せれば、村の連中の目では気づくまい。


「おい、本当にこっちに来たのか、あの泥ネズミは」


「五郎様が見たって言うんだ、間違いねえだろ。北の森に向かったって」


「あんな水呑、どうせ凍え死ぬだろうに、わざわざ追いかけてどうすんだよ」


「お前、馬鹿か。五郎様の言いつけだ。あいつが妹のために何か取りに行ったなら、それを横取りして手柄にしろってよ」


声は三つ。


カイは、倒木の影から、そっと首だけ伸ばして確認した。


五郎の取り巻きの男が三人。先頭の一人だけが、五郎から借りたらしい古い槍を持っている。残り二人は丸太を削っただけの棒切れだ。


『野性の勘』が、三人の動きの「重さ」を伝えてくる。槍の男が一番動きが鈍い。寒さで関節が固まっている。残り二人は若く、機敏。


(……野生の勘がこの三人は「俺より格下」と言っている)


逃げ切れる相手じゃない。雪道で追いかけられたら、消耗するのは自分の方だ。なら、ここで叩く。


カイは、倒木の影で鉈を握り直した。


賭けるのは、最初の不意打ち、一撃のみ。


カイは静かに息を整え、男たちが目の前を通り過ぎる瞬間を待った。


槍の男が、先頭で倒木の脇を通過する。


その背中が、最も無防備になった刹那——。


「『剛力』」


カイは囁くように発動の言葉を吐き出した。


【スキル:『剛力(Lv.1)』を発動】

【現在体力 13 の一割を消費——切上げ2消費】

【体力:13 → 11 / 20】

【一時補正:武力 20 → 45(+25)】


体内で熱が爆ぜた。


血管が浮き上がり、皮膚の下で筋肉が膨れ上がる。鉈を握った腕が、今までとは比べ物にならない重さで動いた。


カイは倒木の影から飛び出し、槍の男の後頭部めがけて、鉈の峰を叩き込んだ。


ゴッ、という、重い音。


「……ぐっ……」


短い呻き声を残し、男はそのまま雪の上に崩れ落ちた。気を失っただけだ。殺してはいない。殺せば、村に帰れなくなる。


「な、なんだッ!?」


「カイ、お前——!」


残り二人が、棒切れを構えて振り返った。


カイは、倒れた男の槍を蹴り上げて、左手で掴んだ。


剛力の効果はもう切れる。たった30秒。だが、それで十分だった。


「動くな」


カイは槍の穂先を、一番手前の男の喉元に向けた。


「動けば、刺す」


声は、自分でも驚くほど低く、冷えていた。


二人の男は、棒切れを握ったまま、動けなくなった。


(……『勘』が、こいつらの目の動きを教えてくれる。手前の奴、左に逃げようとしてる。……奥の奴は、棒を投げる気だ)


『野性の勘』が、二人の身体の重心の移動を、前もって教えてくれていた。


カイは奥の男に向けて、槍の柄をぶん投げた。


「いてっ!」


棒を投げようとした男の額に、槍の柄が直撃した。男はその場にしゃがみ込む。


その隙に、カイは手前の男の腹を、空いた左手で殴った。剛力なしの、ただの拳。だが、雪の中で痩せ細った男の腹には十分だった。男は膝をついて咳き込んだ。


「……お、お前、何しやがる……っ!」


カイは、転がった鉈を拾い、槍を肩に担ぎ直した。


そして、何も言わず北の森の方角へ走り出した。


背後で、男たちが何か叫んでいたが、カイは無視し、北の森に向かった。


——


雪を踏みしめて走りながら、カイは自分の身体の異変を確かめていた。


(……『剛力』、武力+25の補正は、確かに30秒で切れた。けど、その数呼吸で全部が決まる)


体力11、武力20。


だが、剛力を使えば数呼吸の間だけ別人のように動けることは、肌に刻まれた。


槍は、五郎の家から持ち出した古物だろう。穂先は錆びているが、まだ刺さる程度の鋭さはある。


これで、カイの「武器」は、鉈と槍の二つになった。


カイは雪を蹴って、北の森へと向かった。


森の奥から、巨大な心臓が打つ音が、勘を通じて聞こえてくる。


ドク、ドク、ドク——。


それは、まだ遠い。だが、確かにそこに「在る」。


(……行くぞ、山の主)


カイの息は白く、しかし、その目に怯えはなかった。


水呑百姓だった少年は、雪の道に、生まれて初めて自分の意志で「敵」を選び、足を踏み出した。


——


■ 第二話・終 現在のステータス


【対象:カイ】(17歳)

【職】:水呑百姓

【体力】:11 / 20

【武力】:20(剛力使用時:45)

【知力】:30

【魅力】:50

【統率力】:20

【SP】:0


【保有スキル】

 野性の勘(Lv.1)/剛力(Lv.1)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ