第五話 意外な交流
柔らかな風が草木を揺らす、穏やかな夜だった。人の気配が消えた部屋で、机に向かっている、白髪混じりの金髪に、同じく金の瞳。上質な服を身にまとった男は、手にしていた書類を無造作に机へ落とした。
乾いた音が、やけに響く。男はそれを一瞥もせず立ち上がり、窓へと歩み寄った。
視線の先には、暗闇に浮かぶ赤煉瓦の建物――騎士団の訓練場がある。
その瞳には、何の感情も浮かんでいなかった。
******
その頃、俺――ノードは訓練場に来ていた。
いつも通り剣を振るうつもりだったけど、今日は妙に空気がざわついている。皆どこか落ち着かない様子で、視線が一点に集まっていた。なんだ? と思ってその先を見ると――
「レークス様! またこんなところに!」
思わず声が出た。
「おお、ノードか。今日も一緒に飯に行くか?」
「行きます! じゃなくてですね」
俺の言葉に、レークスは楽しそうに笑う。
艶のある金髪に紫の瞳。周囲の騎士たちが固まってる中で、この人だけやたら気軽だ。
「せめて護衛を、と怒られますよ」
「喜べノード、今日の護衛はお前だ」
「わーい、とでも言うと思いましたか?」
「報酬は今日の昼飯代」
「わーい!」
「お前そんな声出せたのか」
「やらせといて何を」
ぽんぽん言い合う俺たちを、周りの騎士たちが口を開けて見ていた。
……いや、そんな驚くことか?
*****
「くっくっ」
「楽しそうですね」
「若いやつらの反応が面白くてな」
「急に王子が来たらそりゃ驚きますよ」
「いや半分はノードのせいだぞ」
「えっ」
そんな話をしながら、俺たちは街へ出た。
大通りは素通りして、向かうのはいつもの大衆食堂。席につくなり、メニューを広げる。
「今日はバランスよく肉と魚と野菜にしようか」
「俺はおごりなんで好きなだけ食べます」
「おお、食え食え」
その一言で、遠慮は消えた。
料理がどんどん運ばれてきて、あっという間にテーブルが埋まる。
「この肉饅頭うまいですよ」
「一つくれ」
「それにしてもよく食いますね」
「お互い様だろう」
「気が合いますね」
「この魚の団子もうまいぞ」
「二つください」
「遠慮がなくていいな」
……いや、おごりって言われたら遠慮しないだろ。
そんな感じで、皿は綺麗に空になった。
*****
店を出ると、太陽はまだ高い位置にあった。
「ごちそうさまでした」
「おう」
「訓練場寄ります?」
「さっき行ったからいい」
「じゃあ護衛らしく城までお送りしますよ」
並んで歩きながら、ふと違和感に気づく。レークスが、珍しく静かだった。
俺から無理に話しかけることはしない。待っていると、やがてぽつりと口を開いた。
「なあ、ノード」
「はい」
「最近は忙しいか」
「そうですね。例の獣の対策で訓練が増えてますし」
「……そうだよな」
歯切れが悪い。
そのまま少し歩いたところで、強い風が吹いた。木々がざわりと揺れて、俺たちの髪を乱す。
「お互い、何もないといいな」
「……そうですね?」
何のことだろう。
聞き返す前に、レークスは城へと入っていった。
その背中を見送りながら、俺は小さく息をついた。
*****
城の中を歩くレークスの前に、一人の男が現れる。
「兄上」
「ああ、レークス。今日も外に?」
藍の長い髪に、金の瞳。穏やかな笑みを浮かべたその人は、分厚い資料を抱えていた。
「騎士団を見てきました。皆、よく訓練しています」
「それは良いことだ」
「兄上は?」
「例の獣の件でね。仕事が増えている」
軽く眉間を押さえる仕草に、疲労が見えた。
「……そうですか」
レークスは小さく息を吐く。
ずっと胸に引っかかっている違和感。
正体の分からない脅威が、じわじわと近づいてくるような感覚。
――何が起きている?
レークスは、わずかに目を細めた。
レークス様登場回でした。
にぎやかな日常の中に、少しずつ不穏な気配も混じってきています。
続きも楽しんでいただけたら嬉しいです。




