第四話 騎士の訓練と広がる噂
剣と剣がぶつかる音が、何度も響く。
空は高くて、少し雲がかかっている。風は冷たいのに、体は熱い。
……暑いな。
額の汗をぬぐって、袖をまくる。視線の先では、隊長と若い騎士が打ち合っていた。
――強い。
見ているだけで分かる。動きに無駄がない。構えも、足の運びも、まったく崩れない。対して、若い騎士はもう限界に近そうだ。息が荒い。剣も重そうに見える。やがて、隊長が剣を下ろした。それだけで、勝負が終わったと分かる。若い騎士も剣を収めて、敬礼した。すぐに次の相手が名乗り出る。
……ほんと、化け物みたいだな。
訓練場の端に下がる。そのとき。
「隊長強すぎだろ……!」
アミックが息を切らしながら近づいてきた。
「お疲れ」
「勝てる気しねえって……!」
髪がいつも以上に跳ねている。それでも、ちゃんと目はまだ訓練を追っていた。
「本気じゃなかったんだな、今まで……」
「獣との戦いでも、動きが違ったしな」
アミックがぼやく。気持ちは分かる。俺も、あそこまでいけるのか――って思う。少し休んで、もう一度剣を握る。考えても仕方ない。
やるしかない。
******
訓練のあと、アミックに誘われて街に出た。
門の近くの大通りは、相変わらず人が多い。値段も高めの店が並んでいる。そこから外れて、少し奥へ。
人通りが落ち着いたあたりで、足を止めた。小さな店。見慣れた扉。いつもの場所だ。
中に入ると、空いていたカウンターに座る。
「今日はミルク煮がいいよ」
奥さんがにこやかに言う。
「新鮮なのが入ったからねえ」
「俺は肉のやつで」
「俺はミルク煮、大盛りで」
「はいよ」
奥に戻っていく背中を見送りながら、水を飲む。
店の中はあったかい。なんだか、ほっとする。
「さすがに疲れたな」
「訓練増えてるしな」
獣の件があってから、明らかに厳しくなった。
隊長たちも本気だ。
「自主的にやってるやつもいるらしいぞ」
「いや無理だろ……」
アミックが笑う。
「お前は冷静だな」
「褒めても奢らねえぞ?」
「残念」
そんなことを話していると、料理が運ばれてきた。湯気が立っている。いい匂いだ。さらに、小皿が追加された。
「これ、サービスね」
「いいんですか?」
「昨日の残りを漬けただけさ」
野菜の酢漬け。一口食べる。
……うまい。
酸味が、疲れた体にちょうどいい。
「これいいな」
「だろ?」
気づけば、会話も弾んでいた。
******
店を出たとき、日は少し傾いていた。
「ごちそうさまでした」
満足だ。……ちょっと食べすぎたけど。
歩きながら、奥さんの言葉を思い出す。
「緑の研究所が悪いことしてるって噂、か」
思わず口に出た。横でアミックが少し黙る。
「……広まるの、早くねえか?」
「そうか?」
「普通、“騎士が調べてる”って話になるだろ」
たしかに。
「なのに、“研究所が悪い”って断定だ」
言われて、引っかかる。
……おかしいな。何かが、ずれている気がする。
寮に着くころには、空は暗くなり始めていた。
「とりあえず今日は休もうぜ」
「ああ」
部屋に戻る。
体は疲れているのに。
頭の中は、妙に引っかかっていた。
――嫌な感じだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
訓練や何気ない日常の一幕でしたが、少しずつ違和感も混じり始めています。
何が正しくて、何が違うのか。
そのズレが、これからどう繋がっていくのか見守っていただけたら嬉しいです。




