第三話 白と緑の研究所
マサダには、いくつか研究機関がある。
その中でも一番大きいのが、“白の研究所”。治療に関する研究をしている場所だ。
騎士も、住民も、みんな世話になっている。評判もいい。……らしい。
正直、俺はまだ詳しくは知らない。ただ、今日みたいに来ると分かる。ここは――ちゃんとしてる場所だ。
「はい、ジャージダさん。視力も聴力も問題ありません」
「ありがとうございました」
白衣の人に礼を言って、椅子から立ち上がる。
「次は二か月後ですね」
「分かりました」
軽く会釈して、部屋を出た。
廊下はやけに綺麗で、少し独特な匂いがする。薬品の匂い、だろうか。広いスペースに出ると、椅子に座っている人たちが目に入った。検査待ちや付き添いだろう。
奥には受付。そこから三つの通路に分かれている。検査や治療をする場所。薬を扱う場所。
そして――研究棟。
ちらっとそっちを見る。窓の向こうに、檻みたいなものや、書類の山が見えた。
その奥にあるのが、“緑の研究所”。植物とかを扱ってるって聞いたことがある。……なんというか。こっちより少し、散らかって見えた。
ふと前を見ると、小さな子どもが走り回っていた。
危ないな。
進路を少しずらす。案の定、急に方向を変えてきたが、問題なく避けられた。そのまま受付へ向かう。
「お疲れ様です。報告ですね?」
「はい」
名前を伝えると、すぐに書類を用意してくれた。
もう慣れたやり取りだ。こうして何度も来ていると、流れ作業みたいになる。書類を受け取って、外へ向かう。
その途中。ふと、目に入った。
白衣の男が、椅子に座る別の男に話しかけている。その人の足には、包帯がぐるぐる巻かれていた。
「今回のお薬です」
袋から取り出されたのは、いくつかの薬と――
葉っぱ?
ギザギザした形の植物だった。
「夜、ここに当ててください。朝には外して大丈夫です」
そんな説明が聞こえてくる。
植物で治療するのか。少し不思議に思う。でも、相手の男は安心した顔をしていた。白衣の人も、丁寧に対応している。
……なるほど。
評判がいい理由、分かる気がする。
扉に手をかける。
いい場所だな、ここは。
そう思いながら、外に出た。
******
白の研究所の隣には、広い土地がある。
一面、緑だ。植物がびっしり植えられている。さっき見た葉っぱもあるし、それ以外にも色々ある。ここが、“緑の研究所”の管理している場所らしい。すぐ横には、小さな建物が並んでいる。
白衣の人や、作業着の人たちが何か話していた。騎士の姿もちらほら見える。
警備、か。
俺はその一つに近づいた。
「アミック、お疲れ」
「お、ノードか。検査帰り?」
「ああ」
軽く言葉を交わす。アミックは笑っているが、視線はちゃんと外を見ている。真面目なやつだ。
「まだ昼番か?」
「下っ端だからな」
そう言って笑う。
この場所、思っていたより厳重だ。それだけ重要ってことか。
……たしか。ここで育ててる植物は、“生命力”がどうとか聞いたことがある。詳しくは分からないけど。体を治すのに使うらしい。普通の薬より早く効く、とか。だから、こんなに警備がいるのかもしれない。
「じゃ、俺は行くわ」
そう言って背を向けたとき。
「なあ、ノード」
呼び止められる。足を止めた。
「緑の研究所と、例の獣の噂。知ってるか?」
「……噂?」
思わず振り返る。アミックは前を見たまま、続けた。
「最近な、変な話が出てる」
あの異常な獣。
あれが出た場所に、不審な奴らが現れるらしい。
何かを回収してるとか。土とか、残骸とか。
……で。
「それが、緑の研究所の連中じゃねえかって話だ」
「……」
思わず、視線がそっちに向いた。
研究員が、動物を連れた人と話している。普通に、笑っている。
……本当に?
「まあ、噂だけどな」
アミックが軽く言う。
「誰かの思惑かもしれねえし」
「……ありがとう。聞けてよかった」
「おう」
アミックは笑った。ちょうど交代の騎士が来る。
空は、少しずつ暗くなっていた。――そういえば。
モレースさんは言っていた。
考えるのをやめるな、と。
俺はもう一度、緑の研究所の方を見た。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
少しずつですが、ノードの見ている世界や、この国の違和感が見え始めてきました。
まだ静かな物語ですが、この先、少しずつ動いていきます。
よろしければ、もう少しだけお付き合いいただけたら嬉しいです。




