第二話 希望の再会と不穏な噂
ブワール・グラウベ。
その名前を知らない人はいない。
人々を守って死んだ騎士。
“獅子の英雄”。
……そう、教えられてきた。
でも――
最近は、あまり聞かなくなった気がする。
理由は、たぶん。
今、目の前にあるこれだ。
街を歩く人たちの多くが、白いふわふわした上着を着ている。流行り、なんだろうか。黒い騎士服を着た俺だけが、やけに浮いて見えた。なんだか落ち着かなくて、視線を逸らす。
人混みを抜けて、俺はそのまま街の外へ向かった。行き先は、決まっている。教会だ。入口で警備の人に声をかけられる。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です!」
敬礼を返す。
……できた。
昔はお辞儀しかできなかったのに。それだけで、少しだけ胸が熱くなる。
教会の奥へ進む。あの場所へ。
――墓は、変わらずそこにあった。
白い石。花に囲まれている。
でも。
……少し、くすんだ気がした。
その前に、一人の男が立っている。
見た瞬間、息が止まりそうになった。
「……お疲れ様です! モレース殿!」
声が少しだけ震えた。
「ノード・ジャージダ、参りました。お待たせしました!」
振り返ったモレースさんは――
……少し、違って見えた。
髪は白くなっていて、杖をついている。前みたいな圧はない。けど、笑った顔は変わらなかった。
「いいや、今来たところでね」
その言葉に、少しだけ安心する。
「おめでとう、ノード君」
「……え?」
「君なら必ず騎士になると思っていたよ」
胸が詰まる。
「……ありがとうございます」
そう言うしかなかった。モレースさんは、ふっと息を吐く。
「もしこの目が無事だったらな。一緒に剣を振るいたかった」
杖を軽く持ち上げる。
「剣を置く日が、こんなに早いとは思わなかったよ」
……あの噂のことだ。
「例の、獣の討伐のときですか?」
「おや、知っていたか」
当然だ。知らないわけがない。
今、この街で一番話題になっていることだ。
「詳しく、教えてもらえませんか」
「いいとも」
モレースさんは、少しだけ考えてから話し始めた。
――最初に見つかったのは、獣の死骸だったらしい。
それも一体じゃない。いくつもの獣が、ひどい状態で転がっていた。
切り裂かれ、砕かれ、原形も分からないほどに。骨に穴が開いていた、なんて話もある。普通の獣同士の争いじゃ、ありえない。
そんな中で、一匹だけ。血まみれの獣が現れたらしい。目を閉じたまま、ふらついて。
でも――
騎士たちに向かって、一直線に突っ込んできた。その速さも、力も。明らかに、普通じゃない。
……なのに。戦いになる直前で、急に倒れた。そのまま、動かなくなったらしい。
それが最初だった。
それから何度も、同じような“異常な獣”が現れた。強くて、速くて。騎士でも傷を負うほどの相手。だから今、国は騎士を増やしている。訓練も、前よりずっと厳しくなった。
「……どうして現れたのかは、分からない」
モレースさんが、静かに言う。
「それが一番恐ろしいことだ」
その顔は、どこか読めなかった。視線が合っていないからか。
それとも――
「騎士になれば、色んな情報が入ってくる」
モレースさんは続ける。
「正しいかどうか分からないものも、な」
「はい」
「全部を見極めろとは言わない。ただ――考えるのをやめるな」
「……はい!」
強く頷く。
分からないことだらけだ。でも、それでも。俺にできることはあるはずだ。
モレースさんは教会を去っていった。その背中を見送りながら、俺は街へ向かう。
空はいつの間にか曇っていた。少し、暗い。足を速める。目の前には、あの門。
獅子が、じっとこちらを見ている気がした。
少しずつ世界に違和感が出てきました。
この先も楽しんでいただけたら嬉しいです。




