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獅子の英雄―語られなかった真実と、小さな騎士の物語―  作者: ぽぷら


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第一話 小さな騎士

 ここはマサダ。

 国で一番大きな町で、戦もほとんどない、平和な場所だという。


 ――らしい。


 正直、俺にはまだよく分からない。

 ただ、目の前の門がすごいってことだけは分かる。


 大きくて、黒い門。中央には、牙をむいた獅子が刻まれていた。何かを守るみたいに、睨みつけている。


 なんとなく落ち着かなくて、俺は門に背を向けた。木陰に入って、ぼんやりと遠くを見る。日差しは強いのに、心の中は冷えたままだ。

 ……暑いな。

 髪をかきあげると、日に当たっていたところがじんわりと熱い。

 ――そのとき。

 誰かが近づいてくるのが見えて、慌てて姿勢を正した。

 やって来たのは、一人の男。

 黒い服。騎士の証。背筋はまっすぐ伸び、年は取っているのに、不思議と大きく見えた。


「待ったかい?」


「い、いいえ!」


 声が裏返りそうになる。落ち着け、俺。男――モレースさんは、少しだけ目を細めた。


「さあ、行こうか」


「はい!」


 俺は頷いて、その後を追う。


 門はくぐらない。町の外れへと向かう。やがて見えてきたのは、塀に囲まれた教会だった。

 中に入る前、警備の人が声をかけてくる。


「お疲れ様です、モレース隊長」


「ああ、お疲れ」


 短いやり取り。

 俺も慌てて頭を下げた。こういうのは、まだ慣れない。

 教会の奥まで進み、そこで足が止まる。

 ……墓だ。白く、大きな墓。周りには花が植えられていて、やけに綺麗だった。

 モレースさんは何も言わず、目を閉じる。俺も真似して、胸に手を当てた。


 風が吹く。

 草の揺れる音だけが、やけに大きく聞こえた。


 しばらくして、目を開ける。


「ここに来るのも、何度目だろうか」


 モレースさんは、墓の上の枯葉を払った。


「騎士はな、国と未来を守るために剣を振るう。……あいつも、そうだった」


 視線の先には、墓碑。


『獅子の英雄 ここに眠る』


「英雄、か」


 小さく呟く声。


「あいつはきっと笑うよ。幸せ者だって、大声でな」


「……そう、ですか」


「ああ。ひっくり返って笑うだろう」


 少しだけ、想像してみる。そんなふうに笑う人だったのか、と。


「君も、抱きしめられるかもな」


「折れますか」


「いい音はするだろうね」


 思わず、少し笑った。

 ……そのとき。


「モレースさん」


「なんだい?」


 息を吸う。


 ――ちゃんと、言わなきゃいけない。


「俺……夢があります」


 モレースさんは、黙って頷いた。


「次に来るときは、騎士になって……一緒にここに来ます」


「おお……」


「絶対、なってみせます」


 モレースさんは、目を細めて笑った。


「楽しみにしているよ」


 差し出された手を、握る。


 大きくて、固い手。俺の手は、まだ全然違う。

 でも――

 いつか、同じになる。


 教会を出て、俺は一人で歩き出した。送ると言われたけど、断った。

 ……もう、守られるだけは嫌だから。

 気づけば、走っていた。

 目の前には、あの門。

 獅子が、じっとこちらを見ている気がする。息を整え、大きく吸い込む。胸に手を当てて――叫んだ。


「ノード・ジャージダ! 騎士になります!」


 一瞬、言葉が詰まる。それでも、続けた。


「この街を守る騎士に――必ず!」




ここから騎士としての物語が始まります。

よければ見守っていただけると嬉しいです。

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