第十五話 英雄と騎士
柔らかな陽が降り注ぐ中、俺は墓の前に立っていた。
白い墓石は、もうずいぶん年季が入っている。手向けられた花の中に、俺もそっと自分の花を加えた。
ひらり、と小さな蝶が飛んできて、花に止まる。その様子を眺めながら、俺は静かに口を開いた。
「……あれから、いろいろありました」
王と白の研究所がやっていたこと。
罪人を使った実験。生命力の譲渡。騎士への“儀式”。
全部、明るみに出た。
王は幽閉されて、関わっていた研究員たちも捕らえられた。民への影響は大きくて、今も国の立て直しは続いている。
それでも――
あの獣が、もう現れない。
それだけで、救われた気がした。
ふっと息を吐いて、俺は少しだけ笑う。
「新しい王はアウルム様です。レークス様が動いてくれて……モレースさんも、騎士たちをまとめてくれました」
俺がやったことなんて、大したことじゃない。
「俺は……噂を流したくらいです」
思い出して、少し苦笑する。
「色んな店で飯を食いながら噂を広めろ、って言われたときは驚きましたよ」
同期や友人と店を回って、話をして。
結果――
「ちょっと太りました」
思わず笑うと、蝶がふわりと飛び立った。
空へ上がっていくそれを見送りながら、俺は目を細める。
「グロウは、研究所を立て直すって言ってました。ちゃんと、正しい場所にするって」
「緑の研究所も、新しい研究を始めるみたいです」
「レークス様も……アウルム様と一緒に、忙しくしてます」
みんな、それぞれの場所で前に進んでいる。
俺は、ゆっくり息を吸った。
「もう、獣は現れません。あの儀式も、終わりました」
言葉を区切って、墓石を見る。
「……あなたみたいに、誰かを命がけで救うことはできませんでした」
少しだけ、胸が痛む。
それでも。
「でも――」
顔を上げる。
「騎士として、この街を守ることは……できたと思います」
俺は、拳を軽く握った。
「俺は英雄にはなれない」
「でも」
「騎士には、なれた」
静かに言葉を置く。
「そう、信じてます」
風が吹いて、髪が揺れる。
「これからも、騎士であり続けたい」
「――もう二度と、“獅子の英雄”が必要にならないように」
しばらくその場に立ってから、俺は踵を返した。
陽の差す街へ、歩き出す。
腰には、いつもの剣。
今日もまた――誰かを守るために。
――完
読んでいただきありがとうございます。
後日談が続きます。




