表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獅子の英雄―語られなかった真実と、小さな騎士の物語―  作者: ぽぷら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/20

後日談 穏やかな日々の中で

 朝の空気は、少しだけひんやりとしていた。

 騎士寮の中庭で、俺はいつものように剣を振る。カン、と鈍い音が響いて、手のひらにじん、とした感覚が残る。


「……よし」


 一息ついて空を見上げる。

 青く澄んだ空には、あの日のような不穏な気配はどこにもなかった。

 

「朝から精が出るな」


 振り向くと、見慣れた顔が立っていた。


「モレースさん」


 杖をついたその姿は、もう騎士ではない。

 けれど、立ち姿は相変わらず真っすぐだった。


「最近は新人の指導もしているそうじゃないか」


「見様見真似ですよ。まだまだです」


 肩をすくめると、モレースさんは小さく笑う。


「それでいい。誰も最初から完璧な騎士ではない」

 

 その言葉に、少しだけ胸が軽くなる。

 

「そういえば、グロウから手紙が来てな」


「本当ですか?」


「ああ。研究所もだいぶ落ち着いたらしい。忙しいが、やりがいはあると書いてあった」


 想像して、思わず笑みがこぼれる。


「……あいつらしいですね」

 

 あのときのことを思い出す。

 泣き崩れていた姿も、覚悟を決めた顔も。

 きっと今は、自分のやるべきことを見つけて進んでいるんだろう。

 

「エアフォル殿も相変わらずだそうだ」


「でしょうね」


 あの人は、多分ずっとあのままだ。

 

「レークス様は?」


「忙しそうですよ。アウルム陛下の補佐で、休む暇もないとか」


「はは、想像できるな」

 

 少しの沈黙。

 風が吹いて、木々が揺れる。

 

「……平和ですね」


 ぽつりと呟くと、モレースさんは空を見上げた。


「そうだな」

 

 それだけの短い言葉だったけど、重みがあった。

 

 あのとき守ろうとしたものが、ちゃんとここにある。

 

「ノード」


「はい」


「お前は、いい騎士になったな」

 

 思わず、目を瞬かせる。


「……まだまだですよ」


 少し照れくさくて、視線を逸らす。

 

「それでもだ」


 モレースさんは穏やかに言った。


「“なろうとしている者”は、もう騎士だ」

 

 その言葉が、胸にすとんと落ちた。

 

 遠くで鐘の音が鳴る。

 朝の始まりを告げる音だ。

 

「さて、今日も仕事だな」


「はい」

 

 剣を握り直す。

 重さは変わらないのに、不思議と軽く感じた。

 

 もう、英雄はいらない。

 だからこそ――

 

 俺は今日も、騎士としてここに立つ。

 

 誰かの日常を守るために。






今度こそ完結です。

読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ