第十一話 二人の邂逅
闇の中で、俺は息を殺していた。
心臓がうるさい。ばくばくと鳴って、指先は冷えているのに、体は妙に熱い。できることなら見間違いだと思いたかった。でも――俺は確かに見た。
城から罪人を運び出し、研究所へと連れていく騎士の姿を。
(……白の研究所で、何が行われてる?)
歯を食いしばる。
エアフォルの話では、あの獣は人為的に作られている。しかも白の研究所が関わっている可能性が高い。
じゃあさっきの光景はなんだ? 騎士と罪人は、どう繋がる?
考えても考えても、ピースはバラバラのままだ。
足りない。圧倒的に情報が足りない。
(……白の研究所も探るしかない)
そう結論づけた、その時だった。ガサ、と物陰で音がした。
「っ!?」
反射的に振り向く。
見つかったか――そう思って目を凝らすと、そこにいたのは。
「あ、あなたは……」
「騎士の……!」
白の研究所で俺を診た男だった。腕に残る深い傷跡が、記憶と一致する。互いに距離を取り、警戒したまま様子をうかがう。
男は俺の隊服を見て、一歩後ずさった。
……どう誤魔化す?
考えかけたところで、男の方が先に口を開いた。
「あなた方は、一体……どうしてこんなことをしているんですか!」
「こんな……?」
「とぼけないでください!」
声が震えている。よく見ると髪は乱れ、服も皺だらけで、肩で息をしている。
――冷静じゃない。
「……一度、落ち着いて」
「こんな時に、落ち着いてなんて……! 私は、私は……!」
取り乱し方が尋常じゃない。
何かを知ってるのは間違いない。でも、このままじゃ会話にならない。
俺はゆっくり、言葉を区切る。
「ここで騒いでも、いいことはない。落ち着いて。息を吸って」
「はっ……はっ……」
男は必死に呼吸を整えようとする。目はまだ泳いでいるが、声は出さなくなった。
――今なら話せるか。
そう思った瞬間、男はその場に崩れ落ちた。
「な……」
「私が……私がいたせいで……! こんなことに……!」
涙をこぼす男を前に、俺はただ立ち尽くすしかなかった。
気づけば夜は明けていた。
街の外れ、教会の前に立ちながら、俺はぼんやりと空を見上げる。
隣には、あの男――グロウがいた。
人の少ない朝の教会。恩人の墓の前で、俺は静かに立つ。
眠気も疲れもある。でも、それ以上に――覚悟の方が勝っていた。
エアフォルの話。
昨夜見た光景。
全部が繋がりかけている。
(……もう、引けない)
瞼を閉じて息を吐く。
その時、背後から足音がした。振り返ると、グロウが立っていた。
「……お待たせしました」
さっきよりは落ち着いている。けど、目は沈んだままだ。
「お騒がせを……しました」
「いいえ」
短く返すと、少しだけ空気が緩んだ。
グロウは視線を落とし、それから墓の方へと目を向ける。苦しそうに眉を寄せて、ゆっくりと口を開いた。
「ジャージダさんは……どこまで知っているんですか」
「ほとんど何も。昨日見たことと……白の研究所が怪しいってことくらいです」
グロウは小さく頷いた。
そして、ぽつりと――
「私が……すべての始まりだったんです」
「始まり……?」
「私がいなければ、あの獣も……英雄が死ぬこともなかった」
頭が追いつかない。
グロウは自分の腕を強く掴み、震える手で顔を上げた。
「お話しします。私のことを――」
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。




