第九話 真実を求めて
あちこちから、生き物の声が聞こえる。
か細い鳴き声、低く唸る威嚇、ケージの中で落ち着きなく動く音。
視線を奥にやると、ガラス張りの部屋に植物が並んでいた。
日差しを受けて、葉も花もやけに鮮やかに見える。静かなはずなのに、そこにあるだけで「生きている」と主張してくるみたいだ。
その間を縫うように、研究員たちが忙しなく動いている。
一瞬一瞬を見逃さないように、記録を取り続けているのが分かった。
……すごいな。
見慣れない光景に気を取られながら、俺は前を歩く男――エアフォルの背中を追った。
揺れる金の髪がやけに目につく。
落ち着け、と小さく息を吐く。
心臓がうるさい。
*****
俺は今、『緑の研究所』の前に立っていた。
白の研究所と栽培所のすぐ隣。動植物の研究をしている場所だ。
今日は騎士の隊服じゃない。白いシャツに紺の上着。ぱっと見じゃ、ただの一般人だ。
……いや、それでも緊張するけど。
手に持った紙――エアフォルの名前が書かれたそれを見て、覚悟を決める。ゆっくり扉に手をかけて、中へ入った。
――その瞬間、動物たちの気配に一気に飲まれた。
思わず立ち止まる。視線が右へ左へと忙しく動いた。
「気になりますか?」
不意に横から声がかかる。
びくっとして振り向くと、そこにいたのはやっぱりエアフォルだった。あのときと同じ、穏やかな顔。
……穏やか、なんだけど。
なんというか、見られてる感じがする。
「あ……すみません。初めてで」
ちょっとだけ言い訳みたいに答えると、エアフォルは小さく笑った。
「構いませんよ。見られて困るなら、最初から呼びません」
さらっと言って、歩き出す。
「まずは移動しましょう」
俺は慌ててその後を追った。……歩幅、でかいなこの人。少し早足になりながらついていく。途中ですれ違う研究員たちは、こっちをほとんど見ない。みんな、自分の仕事に集中してる。
変に目立つ心配をしてたのが、ちょっとバカみたいに思えた。しばらく歩いて、奥の部屋に入る。そこは広くはないけど、資料がぎっしり並んでいた。
「改めて。私はエアフォル。緑の研究所で副所長をしています」
そう言って差し出された手。
「ノード・ジャージダです。よろしくお願いします」
軽く握手を交わす。
手は、思ったより硬かった。外で作業してる人の手だ。
エアフォルはすぐに資料の方へ向かいながら言った。
「さて……何から話しましょうか」
穏やかな顔のまま、まっすぐこっちを見る。
――試されてる。
そんな気がした。
*****
気がつけば、外はすっかり暗くなっていた。冷たい空気が頬に刺さる。
俺はほとんど走るような勢いで、道を進んでいた。頭の中が熱い。
――知ってしまった。
だったら、やるしかない。憧れたあの人みたいに。迷ってる場合じゃない。
寮の前まで来て、ようやく足を止める。
荒くなった呼吸を整えながら、目を閉じた。
……落ち着け。
ゆっくり息を吐く。
そして目を開く。
――もう、迷いはない。
*****
一方その頃。
エアフォルは一人、資料室に残っていた。静かな部屋で、ペンを走らせる。必要な情報だけを、淡々とまとめていく。
表情は柔らかいまま。けれど、その空気はどこか冷たい。書き終えると、そのまま部屋を出た。近くにいた研究員に声をかける。
「例の獣の件で新しい情報が入りました。半刻後に会議を」
「承知しました」
研究員が動き出す。ふと、思い出したように聞いてきた。
「さっきの子、もう帰ったんですか?」
「ええ」
エアフォルは一瞬だけ入口の方を見る。
そして、すぐに視線を戻した。
「とても素直な、いい子でしたよ」
穏やかに、そう言った。
緑の研究所での出来事と、ノードの決意が描かれる回でした。
物語が少しずつ動き始めています。
今後も楽しんでいただけたら嬉しいです。




