閑話:緑の研究所
正直、片手で持ち続けるにはちょっとしんどい量の資料だ。机の上にどさっと置いて、前回までのまとめと今回更新したデータを手分けして配っていく。
集まっているのはいつもの面子。広くない部屋の中で、全員が真剣な顔をして資料に目を通している。他の班の進捗も頭に入れようとしているあたり、相変わらず真面目だ。
ひと通り目を通したな、というタイミングで声をかける。
「そろそろいいかな。それじゃあ会議を始めましょう。まずは前回からの進展の報告を」
「はい、生態系担当からです」
青い瞳の彼が軽く視線を送ると、別の研究員がすぐに口を開いた。
「付近の生態系では、例の獣に似た形跡は確認されていません。ただ、小型の獣の数が例年より少ない傾向があります。生息地の変化か、個体数の減少か……原因については引き続き調査を進めます」
他のメンバーも資料と照らし合わせながら聞いている。いい流れだ。
「分かりました。では次、解析班」
「はい。前回議題に上がっていた成分分析の結果が出ました。脳を直接破壊するような成分は確認されませんでしたが、麻酔に分類される成分が検出されています。今後は成分の特定と、その入手経路の調査に移ります」
「麻酔、か……分かりました。では最後に情報班」
「はい。騎士団の動きとして、訓練強化の指示と、隊長・副隊長の招集が確認されています。そこから何か掴めないか調べてみます。また、他地域で同様の事例は今のところ確認されていません。過去の記録も遡って調査を進めます」
全ての報告が終わると、自然と意見交換が始まる。疑問点の確認や補足が飛び交い、部屋の空気はさらに引き締まった。
その様子を聞きながら、頭の中で情報を整理する。
本来の業務と並行してこの調査を進めるのは、正直無理をさせている自覚がある。それでも誰一人文句を言わず、ここまでやってくれている。
……別に、私に人望があるわけじゃない。
ただ、ここにいる連中は皆、同じものを見ているだけだ。
――動物たちを助けたい。
その気持ちだけで動いている。
だからこそ、ここにいる。
「……そうですか」
一度全員を見渡してから、小さく頷いた。
「皆、今回もよくやりました。引き続き――動物たちを助けるために、尽力していきましょう」
その言葉に、誰も大げさな反応はしない。ただ静かに、それぞれが頷いた。




