術式展開中でのゴーレムの攻撃
少し主人公が痛い目にあうシーンがあります
血の匂いが、灰の冷気と混ざり合って鼻腔を突く。
ルナの細い指先が、空間に銀色の軌跡を描きながら、必死に二連の複合術式を編み上げていく。それは、自身の命を削るような禁忌の術。二体のゴーレムを結ぶ「双生共鳴」の糸を同時に、かつ瞬時に両断するための、極限まで圧縮された銀月の術式だった。
(……あと、二節。これで、終わらせる……!)
しかし、高鳴る鼓動が彼女の集中をほんの一瞬だけ乱した。その僅かな隙を、強化された巨像が見逃すはずもなかった。
左側から迫る個体が、大気を爆裂させながら、赤黒い光を纏った拳を突き出す。回避は間に合わない。ルナは唇を噛み締め、術式の構築を維持したまま、右腕の防具でその一撃をいなそうと試みた。
凄まじい衝撃がルナの身体を襲う。
骨が軋む不快な音が響き、ルナの身体は無残に弾き飛ばされた。編み上げていた銀色の魔法文字が、ガラスが割れるような音を立てて空中へと霧散していく。術式崩壊の反動が、ルナの細い体内を駆け巡り、内臓を焼き焦がすような激痛が走った。口から鮮血が噴き出し、白い雪原を禍々しく染め上げる。
「が、はっ……!」
重力に従い、地面へと叩きつけられる寸前、彼女の視界が歪む。迫り来るのは、もう一体のゴーレムが振り下ろす、容赦のない巨足。このまま潰されれば、肉塊に変わることは明白だった。
その刹那、ルナの魂の奥底から、凍てつくような冷徹さが湧き上がった。恐怖に塗りつぶされかけた意識を、彼女は力ずくで引き戻す。
「まだ……折れるわけには、いかないのよ……!」
着地の直前、彼女は残された全ての膂力を振り絞り、身体を極限まで捻った。背中のコートが雪を噛み、凄まじい勢いで地を滑る。彼女が先ほどまでいた場所には、巨足が文字通り大穴を穿ち、爆砕した石礫が散弾となって彼女の身体を容赦なく打ち据えた。
頬を裂かれ、そこから新たな血が流れ落ちる。しかし、ルナの紫の瞳からは、光が消えるどころか、むしろ底知れぬ狂気が宿り始めていた。
滑り込みながら、彼女は既に動いていた。
右腕の激痛を精神の檻に閉じ込め、血に濡れた左手で、再び虚空を鋭く引っ掻く。
「ホークアイ、今よ!!」
彼女の叫びと同時に、肩の上の使魔が、その命を燃やすかのように銀色の光を放って羽ばたいた。ホークアイの「真実の眼」が、過負荷で焼き切れそうになりながらも、二体のゴーレムの視覚回路を一時的にハッキングする。巨像たちの動きが、ほんの数秒だけ、不自然に凍りついた。
そのわずかな静寂は、ルナにとって十分すぎる時間だった。
雪に塗れ、満身創痍の姿のまま、彼女は膝を突いた姿勢で再び術式を展開し始める。今度は先ほどよりも速く、より鋭く。彼女の指先から溢れ出るのは、もはや綺麗な銀色の光ではない。彼女自身の血と執念が混ざり合った、禍々しいまでの紫紅の魔力。
飛び散った彼女の血液が、空中で魔法文字の触媒となり、驚異的な速度で二つの円環を形作っていく。傷口から滴る生暖かい液体が、凍てつく大地に触れてジュウと音を立てる中、ルナは消え入るような、しかし確固たる殺意を込めて、最後の呪文を紡ぎ出した。
「我が血を糧に、夜を分かち、光を拒む刃となれ……!」
展開された術式が、二体のゴーレムの胸元を正確にロックオンする。これ以上の失敗は許されない。ルナの全てを賭けた、本当の、最後の一撃が、完成を迎えようとしていた。
戦闘シーンが長く申し訳ございません。




