ゴーレムとの決着と奇妙な部屋
漸くゴーレムを倒し終えました。
紫紅の魔力が渓谷の底を真っ白に焼き尽くした。
二連の複合術式は、寸分の狂いもなく二体のゴーレムの「核」を同時に貫いていた。残響を分かつ糸を絶たれたゴーレムたちは、最後の力を継承する器を見失い、ただの冷たい石塊へと還っていく。轟音と共に崩れ落ちる瓦礫の向こう側で、ルナは膝から勢い良く、降り積もった雪へと崩れ落ちた。
「はっ、……く、……」
肺の奥が焼けるように熱い。右腕の感覚は麻痺し、コートのあちこちから生暖かい血が滴り落ちて雪を赤く染めている。肩の上では、魔力を極限まで絞り出したホークアイが、微かに羽を震わせながらルナの頬にそっと嘴を寄せた。限界を超えたホークアイの温もりが、辛うじてルナの意識を繋ぎ止める。
「大丈夫……ありがとう、ホークアイ。これで、先へ進める」
ルナは倒れそうな身体を執念だけで支え、再び立ち上がった。視線の先、崩壊したゴーレムたちの背後には、かつて「星詠みの塔」の本拠地へと続いていたであろう、暗い洞窟の口がぽっかりと開いていた。
外界の風に舞う灰から逃れるように、ルナはふらつく足取りで、その闇の奥へと足を踏み入れた。
外の騒乱が嘘のように、洞窟の内部は深い静寂に満ちていた。
傷口を叩く冷たい風がが和らぎ、代わりに漂ってきたのは、乾燥した土の匂いと、どこか微かに甘い、生活の残り香。
奥へ進むにつれ、ルナの瞳は驚愕の目へと細められていった。
そこは、ルナが想像していたような、埃に塗れた古代の祭壇でも、冷徹な石造りの迷宮でもなかった。通路の先は広大な空間へと繋がっており、そこには信じられない光景が広がっていた。
「……何、ここ……?」
洞窟の壁面には、柔らかい光を放つ魔導灯が規則正しく並び、人の手で丁寧に掃き清められた形跡のある一本の道が奥へと続いている。進んだ先に見えたのは、頑丈な木製の丸テーブルと、座り心地の良さそうな一脚の椅子。テーブルの上には、つい数時間前まで誰かが使っていたかのように、半分ほどミルクが残った陶器のマグカップが置かれ、その傍らには、丁寧に使い込まれた万年筆と、書きかけの羊皮紙が広がっていた。
部屋の隅には、小さな暖炉。今は火が消えているものの、中には新しく熾されたであろう薪の灰が燻っており、その上にはスープを温めるための鉄鍋が吊るされていた。
それは、数千年の時を止めた遺跡の奥深くとは到底思えない、あまりにも鮮やかで、人が住んでいる、若しくは人と近い習性を持つ生き物が住んでいるとわかるような部屋だった。
「誰かが、ここで暮らしている……? 最近まで、確実に」
ルナは息を詰め、傷を負った右腕を庇いながら、ゆっくりとテーブルへと近づいた。かつてヴァレンタイン家の屋敷で過ごした、あの温かくも何気ない日常の断片が、この見知らぬ誰かの生活の跡と重なり、自身の胸を締め付ける。
感傷に浸っていたその時、ホークアイが、低く警戒の鳴き声を上げた。
生活感に満ちたその空間のさらに奥、帳帳で仕切られた闇の向こうから、誰かの静かな足音が近づいて来ていた。
一難去ってまた一難。足跡の持ち主は誰なんでしょうか?




