ゴーレムとの戦闘一体目
ゴーレムとの戦闘開始です
一体目のゴーレムが放った破壊光の残光が、雪と灰を蒸発させ、視界を白く染め上げる。その一瞬の隙を、ルナは決して逃さなかった。ホークアイから共有された視界には、ゴーレムの胸部奥深く、岩の装甲の継ぎ目に、鼓動を刻む「核」が一時の防護を解かれた状態で露わになっている。
「……そこ!」
ルナは魔導短剣を逆手に握り直し、全身の魔力を一点に集中させた。彼女の紫色の瞳が、銀色の燐光を帯びて輝く。ルナは地面を蹴り、重力に逆らうように巨像の懐へと飛び込んだ。
短剣の刃が、ゴーレムの胸部の継ぎ目に吸い込まれる。金属と石が噛み合う不快な音が、一際高く響いた。
「『解』……!」
ルナの唇から、静かだが、鋼のような意志を秘めた言霊が放たれる。短剣から流し込まれた銀色の魔力が、ゴーレムの動力源たる術式回路を内側から爆破した。ゴーレムの巨像の胸部に深く突き立てられた魔導短剣が、溜め込まれた魔力を一気に逆流させる。内部の「核」が耐えきれぬ高音を上げ、ひび割れた石の隙間から眩い琥珀色の光が溢れ出した。次の瞬間、轟音と共に巨躯が内側から崩壊し、数千年の時を繋ぎ止めていた術式が霧散する。瓦礫となって雪の上に伏したその姿を見届け、ルナは小さく息を吐いた。
「……まずは一体。ホークアイ、次よ」
だが、ルナが次の標的に視線を向けた直後、戦場を支配する空気が一変した。
倒れ伏したゴーレムの残骸から、行き場を失った膨大なマナが、霧となって消える代わりに、残された二体の巨像へと吸い込まれるように流れ込み始めたのだ。それはまるで、倒された同胞の意志と力を、残った個体が強制的に継承するかのような、歪な連携術式であった。
「……っ、そんな!? 術式の連結が生きているの!?」
ルナの紫色の瞳が驚愕に揺れる。残された二体のゴーレムの表面に刻まれた古代語が、これまでの鈍い光を脱ぎ捨て、どろりとした赤黒い輝きへと変貌を遂げていく。石造りだった皮膚は、マナの過負荷によって高熱を帯び、周囲の雪を瞬時に蒸発させて白い霧を立ち昇らせた。その硬度はより増し、節々からは高密度の魔力が稲妻となって弾けている。
一体が、先ほどとは比較にならない速度で地を蹴った。
その巨大な質量が、残像を残すほどの俊敏さでルナの眼前に迫る。
「くっ……!」
ルナは咄嗟に短剣で防御の姿勢を取ったが、繰り出された重い一撃は、ルナの華奢な身体を紙屑のように弾き飛ばした。背後の岩壁に叩きつけられる寸前、ルナは空中で身を捻り、マナを足場にして辛うじて着地する。だが、その衝撃で手袋の先から血が滲み、呼吸が熱く乱れた。
ゴーレムの咆哮のような駆動音が、渓谷の底を震わせる。強化された二体は、もはや単なる石の人形ではない。倒された仲間の残響を糧に、より殺戮に特化した「殺意の塊」へと進化していた。
「……なるほどね。一族を屠った奴らと同じ、卑劣な仕掛け」
ルナは口元に滲んだ朱を親指で拭い、再び立ち上がった。フードの奥で、ルナの瞳は凍てつくような冷徹さを取り戻している。肩で羽を逆立てるホークアイもまた、敵の急激な変化に対応すべく、その琥珀色の瞳を極限まで見開いていた。
二体の巨像が、赤黒い光の奔流を纏いながら、左右から同時に踏み出す。
絶望的な戦力差。しかし、ルナの指先は、絶望とは無縁の精密さで、次なる術式の構築を始めていた。夜明けを拒んだルナにとって、この窮地さえも、復讐へと至る道の通過点に過ぎないのだから。




