前世では、とうもろこしは家に常備されていなかった。
フライパンで作るお菓子の一つに、ポップコーンがある。
前世では手作りキットがあり、弟から言われて作ったことがあった。もっとも、少し食べたら飽きたらしく、押し付けられたのでその日のクララベルの夕飯はポップコーンになった。ちなみに、前世の家族には普通に夕飯を作った。
話を戻すが、その気になればポップコーンは作れる。キットはないが、乾燥させたとうもろこしがあれば出来るし、この異世界にはポップコーンを作るのに適したとうもろこしもあるからである。
だが、しかし。
実は似たようなお菓子があり、クララベルはそちらの方が好きだったりする。
(ガラス蓋がないから……まずは出来上がりを見るのに、少量で作ろう)
そのお菓子を、クララベルは厨房を借りて作り出した。
フライパンを温める。ここまでは、ポップコーン作りでも同じだ。
違うのは、とうもろこしではなく生米を使うところである。そう、今からクララベルが作ろうとしているのは『ポン菓子』だった。
ちなみに米についてはゴーダ族と、今ではラス公国とやり取りしている商人から分けて貰った。ありがたいことにジャポニカ米だったので、ポン菓子を作るのには問題ない。
(確か、お米に圧力をかけて膨らませる時に、ポンッて音がするのが名前の由来だった……地方によっては『ドン菓子』とか『パンパン菓子』って言うらしいから、面白いわよね)
以上、ポン菓子についての前世の知識である。
前世では、とうもろこしは家に常備されていなかった。だが米なら、普通に家にあったから気が向けば作れた。尚、前世のクララベルは好きだったが、弟の好みではなかったらしく作った時、一口食べただけで後は手をつけなかった。そして両親も食べなかったので、前世ではクララベルだけが作って食べていた。
(……ここまでだと、前世の弟の優しさにも聞こえるけど)
そこまで考えて、クララベルはポン菓子を食べた時に前世の弟が言ったことを思い出して眉を寄せた。
「貧乏臭いし、みみっちい」
優しさの欠片もない言葉に、クララベルは前世の家族について考えるのをやめた。焦げないよう、フライパンを火にかけて揺すっていたが、弾ける音が落ち着いてきたのもある。
「あ、良かった。うまく出来た」
火を止めて蓋を開けると米が熱で膨らみ、ポン菓子が出来上がっていた。先にやると焦げやすくなるので、これから味付けである。
「……新作か?」
「ウィラード!」
すると、不意に背後から抱きしめられてクララベルは肩越しに振り向いた。そして、フライパンに手を伸ばそうとするウィラードに慌てて止める。
「あの! 出来立ては熱いし……これだけだと、ほとんど味がしないの! でも、塩か砂糖か悩んでて」
「両方」
「もう……でも、そうね。両方の味を作るから、食べてみて?」
クララベルの手料理限定の食いしん坊ぶりに、クスクスと笑う。それから、笑顔のままクララベルがそう言ったのに、彼女を抱きしめたままのウィラードも微笑んだ。
……前世の家族の記憶は、すっかりクララベルの脳の片隅に追いやられ、浮かんでこなくなったのだった。




