楽しいことは、一緒に出来ればもっと楽しいから
ウィラードの亡きお母様は、元々帝都出身の令嬢だったと言う。
下位貴族であり金髪でこそなかったが、小柄で華奢だったのでドレスはクララベルのサイズとピッタリだった。だから、ひっそりと式だけを行うつもりだったので、形見のウェディングドレスを着ようと話していた。
「とは言え、今となっては全く人目を憚る必要はない。少し時間は貰うが、新しくドレスを作ることも」
「私は、亡きお義母様のドレスが良いわ。あ、でも、今更だけどグローリアは? 私がお義母様のドレスを着ても、良かったのかしら」
「お気持ちは、ありがたくいただきますが……私には少し、サイズが。あと私も、ハーラルのお義母様のドレスがありますので、ご安心を」
ウィラードの申し出を辞退し、今更ながらのことに気づいてクララベルは焦った。
そんなクララベルに、グローリアが笑って答えた。その返事についグローリアの高身長と、豊かな胸を見てしまった。クララベルも全くない訳ではない。しかし自分にちょうど良いサイズだと、確かにグローリアだとドレスの丈もだが、胸元がまるで合わないだろう。
クララベルが納得したところで、ふとグローリアが何かを思いついたように顔を上げて言う。
「そうですね。私も、ドレスはあります……いっそ、私とお義姉様とで合同結婚式にしましょうか」
「え」
「落ち着け。上げた並びがおかしいし、お前はともかくハーラルの衣装がないだろう」
「あら、結婚式なんて男性は添え物ですから……お兄様だって新品じゃなくて、帝都にも着ていった礼服なのでしょう? ハーラルも、全裸じゃなければそれで」
「あ、あの」
話がどんどん進んでいくのに、クララベルはついていけずにいた。
元々は、ウィラードは軍服を着る予定だった。それを、自分はこだわりがないが少しは華やかに、と軍服を模した礼服を着ることになったのである。
その理屈で言うのなら、ハーラルの衣装を問わなければ確かにすぐ式は出来る。出来るが、ハーラルは自分とグローリアの式なのにそれで良いのだろうか?
そう思ってハーラルへと目をやると、ハーラルもまた隻眼をクララベルへと向けていた。
「まあ、全裸は勘弁してほしいですが、軍服でいいのなら。俺はグローリア様が良ければいいですが、大公妃様はいかがですか?」
「え」
ハーラルから、決定権を委ねられてしまった。ウィラードとグローリアも、クララベルの返事を待ってこちらを見ている。
……元々の物語では、そもそも存在しない式だった。だからクララベルとしては、ひっそりだろうとそうでなかろうと、挙げられるだけでありがたいと思っていたのだが。
「楽しいことは、一緒に出来ればもっと楽しいから……ウィラード、いい?」
「いい」
「かわいい」
黙っているウィラードを見上げ、おずおずと尋ねると──ウィラードと、その隣にいたグローリアが感極まったように言い、それぞれ手で顔を覆った。
クララベルが戸惑う中、ハーラルはそんな二人にやれやれというように肩を竦めていた。
※
クララベルが着たのは、高い襟や肘回りまでの袖にレースを使ったスタンドカラードレスだ。襟で上品さを、そしてハーフスリーブで甘さを表現していて、自分で言うのも何だがクララベルに似合っている。
一方、グローリアは四角い襟元の、スクエアネックのウェディングドレスを着ている。デコルテや鎖骨の美しさを演出しつつ、胸元が開きすぎないのでこれはこれで上品な印象を与えていた。単純にサイズ以外でも、ハーラルの母のドレスのデザインの方がグローリアにはよく似合っていた。そしてクララベルは以前からだが、グローリアも嫁ぐので長い髪を結い上げてヴェールをつけた。
(今回みたいにいつか、私の娘か息子のお嫁さんにもこのドレスを……って、気が早すぎるわね)
移動しながらそこまで考えたのに、クララベルは下を向いてこっそりと照れた。
ちなみに、この異世界での結婚式は民や招待客が見守る中、教会の前で式を行う。余談だが、教会の中を使うのは、葬儀や週に一度の神父のミサである。
話を戻すが、そんな訳でウェディングドレスに着替えた花嫁は馬車で教会にやってくるのだが、花嫁をエスコートし先に到着していた新郎達に引き継ぐのは、普通は父や兄が多い。
しかし今回の二人のエスコート役は、ウィラードがグローリアのエスコート役を務められないからと、代わりに近衛騎士の制服を着たシグネが引き受けることになった。花嫁や花婿もだが、ゴーダ族の容姿に慣れた民達は、シグネの凛々しさにも惚れ惚れとしている。
「二人とも、幸せにな」
「「ええ」」
笑顔で送り出されたクララベルとグローリアは、それぞれ差し出された夫の手を取った。
そんなクララベルの手をそっと握って、ウィラードが尋ねてきた。
「これからもフライパンで、美味いものを食わせてくれるか?」
それは、武器としてフライパンを持ち出す為の口実だった。
けれど今では、ウィラードに手料理を振る舞うのが大好きなので、まぎれもない本心だ。
「ええ! ……って、ぅわっ!?」
「確かに、楽しいことは一緒にやればもっと楽しいな!」
満面の笑みでクララベルが頷くと、ウィラードは彼女を抱き上げた。
「おめでとう、お義姉様」
「おめでとうございます」
「「「おめでとうございます!」」」
結果、式を始める為に神父が声をかけてくるまで、クララベルはお姫様抱っこされたまま、自分達は巻き込まれないように距離を置いたグローリア夫妻や、喜ぶ民達からの祝いの言葉を受けるのだった。
ここまでお付き合い、ありがとうございました!
本編完結したので完結設定にしますが、ほのぼの小話や前世の家族のその後など書く予定なので、また見かけたらよろしくお願いしますm(__)m




