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転生皇女はフライパンで生き延びる  作者: 渡里あずま


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早っ!? え、嬉しいけど、早くない!?

クララベル視点 / ウィラード視点

 ウィラードの城には、見張り台と鐘がある。かつてはゴーダ族を、そして現在では帝都からの襲撃に備えており、その鐘の音の数には意味がある。

 一回は、警戒。二回は、屋内への避難と待機。それから、三回は敵の突破に対しての総攻撃で、四回は領主軍、いや、今は公国軍の勝利を示すものだ。

 今日、一度目の鐘の音は二回で、ウィラード達はすぐに鎧を身に着け、ハーラルや騎士達、更にゴーダ族を連れて出陣した。父親であるルチアーノがいると思われたので、クララベルもフライパンを持ってついていこうとした。しかし、ウィラードからもまわりからも止められてしまったので、今は城で待機している。


「これは、総攻撃じゃないの?」

「総攻撃とは、非戦闘員……赤子以外、それこそ私やお義姉様も戦いに参加する状態です」

「う」


 自分だけではなく、淑女であるグローリアまで。それは、本当に玉砕覚悟だ。

 そう思い、絶句したクララベルは、グローリアが弓や乗馬を得意にしていることを知らない。か弱い(ように見える)グローリアを守ろうとして、クララベルもまた一歩引いてくれるならと、ウィラードもグローリアも勘違いを訂正しない。

 ……そんな中、見張り台の鐘が四回鳴った。


「早っ!? え、嬉しいけど、早くない!?」

「おそらくですが、戦闘にならず『お話し合い』で解決したと思います」

「そうなの? あの意地の悪い皇帝に口で勝つなんて、スゴいわね!」

「……そうですね」


 実は、小説のウィラードは現実のウィラードより、マイルドな言動をしている。毅然とした態度を取るのは小説と変わらないが、戦場で敵を煽ったり脅したりする彼の一面を、クララベルは知らない。おそらくだが、これからも知ることはないだろう。

 それ故、グローリアの言葉を素直に受け止めたクララベルに、しばし沈黙しながらもグローリアはさらりと受け流し。

 戦場のウィラードをよく知り、今は二人の護衛であるシグネは「妖精は、本当に清らかで愛くるしい」と、クララベルを微笑ましく見守った。


「あ」


 そんな彼女達の視線の先で、不意に何かを思いついたようにクララベルは顔を上げた。



「ん?」


 皇帝軍が退却し、完全に姿を消し。どさくさに紛れて、入り込もうとする皇帝の『影』もいないことを確認した上で、ウィラード達は城へと帰還した。

 鐘の音を聞いた城下町の民達が、そんな彼らを祝って見送る──のではなく、一緒に城へと向かうのに気づき、ウィラードは声を上げた。同じく気づいたハーラルが部下の騎士を先に行かせると、しばらくして馬を走らせて戻ってきた。


「若奥さ、いや、大公妃様が料理をされておりました!」

「何?」

「城門の外で勝利の祝いにと我々と、訪れた民達に料理を振る舞う支度をしておりますっ」

「……先に、戻るぞ」


 それだけ言うと、ゆっくり馬に乗って進んでいたウィラードは、一気に城へと馬を走らせた。そして報告通り、城の料理人達と共にクララベルがフライパンを手に、何かを焼いているのが目に入った。


「クララベル!」

「ごめんなさい、ウィラード! 少しだけ、待ってね?」


 馬を降り、駆け寄ったウィラードをクララベルは止めた。そして、フライパンで焼いていたものをターナー(フライ返し)で掬い、皿に載せたところでクララベルはパッと顔を上げた。


「今、クレープを焼いていたの。この皮に、甘いものもおかずも包めるのよ? あ、お帰りなさい、ウィラー……どぉ!?」


 フライパンと皿をそれぞれ置いたところで、ウィラードはクララベルを抱きしめた。火や包丁を使っている時だと、抱き着いたり触れたりすると怒られるのだ。

 面白い声を上げながらも、大人しく腕の中に収まっているクララベルに、ウィラードは言った。


「結婚しよう」

「……もう、してるわ?」

「いや、まだ式を挙げていない。式を挙げよう」


 元々、今年にひっそり挙式する予定だったが、帝都に呼ばれたり独立宣言をしたりで、結果として後回しになってしまった。しかし皇帝軍に勝利した今、もう邪魔する者はいないし、何ならひっそりする理由も無くなった。


(元々、皇帝の目を気にしてだったからな)


 そう思うウィラードの背に、クララベルの細い腕が回される。


「はい」


 短く、けれど確かに頷かれただけで、ウィラードは永遠を誓いそうになったが──結婚式を挙げるからと、何とか踏み止まるのだった。

次で本編完結予定ですm(__)m

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