殺戮には二つの意味がある。
ウィラード視点
ウィラードが初めてクララベルを見た時、彼女はドレスを膝上で縛って動きやすくし、襲撃者相手にフライパンを振り回していた。
最初は何故、剣ではなくフライパンなのかと思ったが──肩を掴まれ、倒れた姿を見て素人だと判断した。そして殺される前に、弓兵に命じて男達を射て彼女を救った。そして声をかけつつ、駆け寄って手を差し出した。
「は、はい。大丈夫です……ありがとう、ございます」
お礼を言ってウィラードの手を取った途端、彼女の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
最初は、庇護欲だったかもしれない。
だが、その涙と見上げてくる青い瞳を綺麗だと思った時にはもう、ウィラードの心はすっかり彼女へと傾いていた。
※
そんなウィラードは今、石造りの壁の上からやってきた皇帝軍を見下ろしている。彼の左右には、弓兵がずらりと並んで構えているし、今は閉まっている門にもハーラルを始めとする騎士達や、ゴーダ族の戦士達が戦闘になった時の為に構えている。ちなみに、相手の騎士達と戦う為にハーラル達は馬に乗っている。
(クララベルも来ると言った時には、焦ったが)
フライパンを握って言われたが、今回はグローリアと城に待機させた。そんな彼女達を守る為に、シグネも城にいるのでまずは一安心だ。
(面倒ごとは俺が片づける)
そう決意して、ウィラードは予想通りにやってきた、オルランド帝国皇帝・ルチアーノを観察した。
ウィラードの領地は、樹海を切り拓いた土地である。
集まった領民達に土地は与えたが、彼の祖父や父は土地を『開拓しすぎない』ようにしていたし、ウィラードもそれに倣った。樹海の中、領主の城があるところまでの道は広げすぎず、敵の襲撃があっても一気に攻め込まれないように、馬車が通りすぎられるだけの幅にしていた。
……この場合に想定している敵は、他国や他民族ではなく今回のように皇帝や貴族達である。自分達を辺境に追いやり、戦に助力してくれない皇帝や他の貴族達を、辺境伯家では全く信用していなかったのだ。大正解である。
「ここからなら、矢で狙い放題だ。何なら、燃えるように油と炎も撒こうか?」
脅しではない。用意はしている。それこそ「汚物は消毒」だ。
笑って煽るウィラードを、ルチアーノが睨みつけてくる。
「貴様!」
「仮に矢を突破しても、門の向こうには我らとゴーダ族の精鋭がいるぞ」
「……義父と呼んでおいて、この仕打ちかっ」
「呼んだのは、単なる嫌がらせだ……もっとも、このまま戻って二度と来なければ手は出さん。逆に我らに歯向かうのなら、遠慮なく焼き尽くすし叩き潰す」
情けないことを言う皇帝に、前半は笑い──後半は、笑みを消して最終通告を出した。流石に大人数相手なので、全く被害を出さないのは不可能かしれない。しかし、ウィラードはクララベルを守りたいし、領民達やゴーダ族も納得してくれている。
……ウィラードは『殺戮伯』と呼ばれている。
そして、殺戮には二つの意味がある。
ゴーダ族と戦っている間は、一つ目の『多くの人間を殺す』の意味で称されていた。
けれど殺戮にはもう一つ意味があり、ハーラルは二つ目の意味である『一方的に殺す』も適していると言われた。まあ、退却を受け入れないのならどちらも実施する予定なので問題ない。
覚悟が決まっているウィラードに悲鳴を上げたのは、ただ皇帝への忠義により参戦しただけの貴族や平民達だった。
「何て残虐な!」
「殺戮伯なら、絶対やる……これだけの人数がいれば、すぐ降参するって言ってたのに!?」
「降参どころか、嬉々としているじゃないかっ」
「くっ……」
背後から上がる悲鳴に、ルチアーノは悔しそうに歯噛みする。
「……狂人が! 我が民への、手出しはさせんっ……独立したことを、後悔するといい!」
「ハハッ」
そして、ルチアーノ達皇帝軍がもっともらしい捨て台詞を吐いて、退却していくのにウィラードはたまらず笑い声を上げるのだった。
弓兵も追加したので、前話も追加・修正しました(話の流れに修正はありません)




