ごきげんよう、義父上
ルチアーノ視点
辺境伯とゴーダ族との戦はルチアーノ、いや、先代や先々代の皇帝にとってもありがたいものだった。
武に長けた辺境伯とゴーダ族、両方の戦力を常に削ぐことが出来る。そしてゴーダ族と戦っている間は、辺境伯が皇帝に逆らうことはない。そもそも、そんな余裕などないからだ。
(しかし、戦は終わってしまった)
それ故、ルチアーノはクララベルの死や、辺境伯の妹を盾に彼の動きを封じようとしたのだが──その結果が、貴族達の前での独立宣言である。
(許さん……絶対に、許さんぞ!)
とは言え、ウィラードは勿論だが近衛騎士だけでは辺境の騎士達、更にその配下となったゴーダ族に全く歯が立たない。
だから急遽、国中から騎士となる貴族達と、兵士となる民達を集めた。そして金属の板を連ねた鎧に身を包んだルチアーノは念の為、皇太子であるアンドレアを帝都に残し、各領地を進むごとに増えていき大軍となった者達を引き連れて、馬で辺境伯領へと向かったのだが。
「人が……いない……?」
辺境伯領に入ったところでルチアーノは、そして背後の騎士や兵士達も戸惑った声を上げた。
かつての村なので、家らしい建物はある。
あるが、そこには誰もいない。いや、いないだけではなく家具こそ置いてあるが、食料も畑の作物も残っていない。冬の間に、村人達が新しい住処へと持っていったからである。
(予想外だ)
声に出さずに、ルチアーノは呟いた。
今までは、各領主から水や食料を得ていたが──誰もいないのであれば、せいぜい水か木の実くらいしか奪えない。ルチアーノや騎士達は馬に乗っているが、民達からなる兵士は徒歩なのと、道幅があまり広くないので一気に馬で駆けていくことが出来ない。結果、急激にではないが少しずつ、けれど確実に体力が消耗する。
(腹が減った……少しでも早く着いて、この大軍で平定し……食料を、手に入れよう)
……そう思っていたルチアーノだったが、他の村々も同様に無人が続き。
やっと、目的地に到着したと思えば──知らぬ間に高く石を積んだ壁が作られ、その上に並ぶ弓兵達が矢じりを向け、城下町に攻め入ろうとしたルチアーノ達の行方を阻んだ。
「なっ……!?」
「ごきげんよう、義父上」
たまらず声を上げたルチアーノの頭上から、降ってきた声。
それに弾かれたように顔を上げると、緑の瞳と目が合った──壁の上の、弓兵達と共にいたのはウィラードだった。
「貴様……っ」
「おや、お気に召しませんか? 主従関係が解消されても、俺の妻はあなたの娘ですから……義父上で、間違いないでしょう? 俺としては、あの堅っ苦しい呼び方をしなくてよくなって清々しましたが」
頭上から笑顔で煽ってくるウィラードに、ルチアーノは怒りで真っ赤になった。
ウィラードだけではなく、弓兵も追加・修正しました。




