ゴーダ族が屈強すぎる
宴の会場に入る時に、ボディチェックはされる。
けれど、それを行うのは万が一のことを考えて『男性騎士』なので──令嬢や夫人に対しては、最低限の対応となる。はっきり言えば、バッグなどがあればその中身を確認するが、上半身に触れたりドレスのスカートを捲るまでは行わない。
だから最初から独立宣言を告げた後、皇宮から逃げ出すつもりだったのでクララベルはドレスの中、太腿にベルトをつけてそこに剣を下げていた。
……もっとも、取り出し方によっては脚が見えてしまうので、ウィラード達からは「シグネが抱き上げてから」と厳命されたのだが。
「シグネ、大丈夫か?」
「ああ。妖精は、羽のように軽いからな」
「それはそうだが、そうではなく……そろそろ、騒ぎを聞きつけた騎士達が来るかもしれない。出口までこのまま、速度を落とさずにいけそうか?」
「問題ない……って、来たぞ!」
「ウィラード!」
話をするのに足は止めないまま、けれどシグネというよりクララベルを気づかってか、肩越しに振り向いたウィラードにシグネとクララベルは声をかけた。
「邪魔を……するな!」
「ひっ!?」
剣を構えて突進してきたのは、会場警護ではなく外回りから駆け付けたのか、成人こそしているが若い騎士だった。
そんな青年騎士の剣を、ウィラードは己の剣を一閃して払い飛ばした。衝撃と共に、手から剣が離れたのに、騎士の口から悲鳴が上がる。
「どけっ!」
「はいぃっ!」
戦場で殺戮伯と呼ばれているウィラードのひと睨みに、騎士が答えて避ける。無駄な殺生は避けたかったが、帝国騎士のレベルの低さに呆れたのか、再び後方へと目を向けてきて──今度は、ウィラードが声を上げた。
「後ろ!」
「おうっ」
気づけば、足音が聞こえてきた。会場からウィラード達を追いかけてきたらしい騎士らしい。ウィラード達を見つけ、シグネに飛びついてクララベルを奪おうと、走ってくる足を速める。
……だが、そうはさせまいとシグネはクララベルを抱き寄せつつ、振り返り様に騎士に蹴りを入れた!
「ぐっ!?」
回し蹴りなので、確かに元々威力はあるが──シグネの腕に収まったクララベルに見えたのは、先程の青年と違いゴーダ族程ではないが鍛えているのに、シグネの蹴りであっけなく吹っ飛んで気を失った男だった。
「すごいな……しかし、逆にその靴でよく走れるものだ」
「ああ。戦場の雪に比べると、これくらいの重さなど何でもない」
そう答えたシグネの靴には、つま先と踵に鋼鉄が仕込まれているそうだ。前世の、工場や工事現場などで履かれていた安全靴の強化版と言うべきか。ゴーダ族とくれば棍棒を使うのが有名だが、接近戦の為に戦士達は戦場でこの鋼鉄を仕込まれた靴を履いているらしい。初めて聞いた時、クララベルは心の中でツッコミを入れた。
(ゴーダ族が屈強すぎる)
そんな風に騎士達に対してウィラードが剣を振り、シグネがクララベルを抱えたまま蹴りを入れているうちに、皇宮から無事に出ることが出来た。
「若っ!」
そしてクララベル達は、御者として同行していたハーラルが回してくれた馬車に乗り、辺境伯領──いや、彼女達の国へと向かうのだった。




