第三の方法として
それは、クララベルがフライパン料理を振る舞った日のことだった。
「赤くて生で食べても、煮込んでも美味しい野菜で……我らゴーダ族が『取引』して、今は里で育てている異国の野菜です」
「「「えっ?」」」
予想外の言葉に、クララベルだけではなくウィラードとグローリアも驚いて声を上げた。そんなクララベル達に、シグネではなく彼女の補佐であるゴーダ族の男性が説明してくれた。
ゴーダ族は基本、脳筋で強さが基準だが、補佐である彼──ソレハは、一族の中では細身である代わりに知力でその地位にいる。当の本人は「少々、弁が立つだけです」と謙遜するが。
(まあ、細身って言っても『ゴーダ族の中で』だから十分、長身で筋肉あるんだけど……強くて賢くて、更に奥様とお嬢様溺愛。元々の小説ではほとんど出番がないけど、属性と言うか癖が盛り沢山よね)
うんうん、と心の中でそう思ったクララベルの前で、ソレハが話してくれたのは──小説では、取り上げられていないことだった。
「実は、我らの里の近く……でもないですが、まあ、少し離れたところに海があるんです」
「「「えっ?」」」
またウィラード達と、驚きの声がハモってしまった。
いや、確かに地図を考えるとラス辺境伯領より北と言うか、上にゴーダ族の里があるので海もあると言えばあるのだが。
「その向こうに、この国とは別の国があるそうなんです。まあ、船で何日もかかるらしいんで目で見ることは出来ませんが……以前から、その国から里に商人が来てゴーダ族と取引してるんですよ」
「初耳だ……一体、何を取引しているか聞いていいか?」
「勿論ですよ。あなたは、我がゴーダ族の主なんですから……里の周りにある木の実が、香辛料や薬に使えるらしいのと。あと、女達が織る布ですね」
「『取引』なら木の実や布と、そのトメトという野菜を交換しているのか?」
「最初は、そうでしたね。しかし今は、里で育てているので……少し前からはピメントという緑や赤の野菜や、その野菜を粉にした香辛料。あと、かの国の木から取れるはちみつと交換しています」
「まぁ……そうなの」
ソレハの言葉に、クララベルは相槌を打ちながら考えた。
ピメントとは、おそらくだがピーマンやパプリカのことだ。そしてパプリカは辛いものとそうでないものがあるが、辛い方は粉にすることで美味しい煮込み料理が作れる。
更にこの異世界に砂糖はあるが、テンプレ通りに高額で貴族や富裕層までしか口に出来ない。そんな中、はちみつは貴重な甘味である。逆に言えば、ゴーダ族からの商品にはそれだけの価値があるのだろう。
そこまで考えて、クララベルはあることに気づいた。
しかしそれが許されるかどうか躊躇したところで、クララベルの考えに気づいたのかウィラードが言語化してくれた。
「……その国との取引は、ゴーダ族がおこなっている。そこに我々が加わることをお前達と、その商人は許してくれるだろうか?」
そう、今までの物語の知識では辺境でひっそり暮らすか、下手にちょっかいをかけられない為に王位簒奪するかの二択だった。
しかし、もしウィラード達も商人やその国と交流出来るのなら──第三の方法として、オルランド皇国から離脱してそもそも関わらないことも出来る。
「それは、勿論です。あなたは、我らゴーダ族の主なのですから」
「そう言ってくれるのはありがたいが、元々、取引をしているのはお前達だろう? 俺達に、その商人と交渉出来る材料はあるだろうか?」
「あります」
ウィラードの問いかけに頷いて、ソレハが教えてくれた。
「ゴーダ族の家は、戦や天候により移動出来るよう簡易的な小屋です。とは言え、商人やその使用人達には少々、体に堪えるようなので……商人達が休める宿を用意し、妖精どのの美味しい食事を振る舞ってくれませんか?」
「……それで、いいのか?」
「まあ、欲を言えば戦も終わりましたので、いずれは我らの家もお願いしたいですが……まずは、商人向けの宿で十分です」
「クララベル、頼めるだろうか?」
「ええ! レシピを渡すわっ」
ウィラードからのお願いに、クララベルは元気よく返事をした。
こうして宴の衣装を用意しつつ、辺境伯領の大工達をゴーダ族の里へと派遣し──クララベル達は、今日という日を迎えたのだった。
※
「……ど、独立だと? そんなことを、認められるものか!?」
「許しませんっ!」
突然の独立宣言に皇帝夫妻が怒声を上げて玉座から立ち、それに応じて近衛兵達がクララベル達を囲もうとする。
……だが、そうされることは予想していた。
それ故、屋敷の使用人達には事前に話を通し、クララベル達を送り出すのと同時に領地に戻らせているし──クララベル達も、大人しく捕まるつもりはない。
「……許可などいらん。決定事項だ。さあ、帰ろう。クララベル」
「ええ」
敬語を辞めたウィラードの言葉に、クララベルが頷くとシグネが彼女を軽々と横抱きにした。
そして、クララベルのドレスのスカートの中に隠していた剣を、そっと取り出してウィラードに渡すと──彼は剣を一閃させ、近衛兵達が怯んだ隙にクララベルを抱えたシグネと共に走り出し、宴の間から飛び出したのだった。




