そもそも『そういうこと』を許せる相手なんです
話は、少し前まで遡る。
グローリアが婚約したのは、やはりと言うかハーラルだった。彼はその場にいなかったが、婚約すると伝えることにしたのはウィラード達やシグネ達との食事の席で決まり、ハーラルへの申し出は翌日に行なわれた。
婚約するのは皇帝からの呼び出しを断り、代わりにクララベルが行く為だ。だから、辺境伯領は帝都から離れているので口約束でいいのではとクララベルは思ったが──当のグローリアから、キッパリと言われた。
「お義姉様。今回、色ボケ最低粘着皇太子との婚約を断ったとしても、口約束だと他の貴族令息に割り込まれてしまう可能性がありますわ。ありがたいことに、ハーラルは子爵家嫡男ですし」
下位ではあるが貴族なので、辺境伯家の令嬢の伴侶としては問題ない。
そこで一旦、言葉を切ってグローリアはクララベルに話の先を続けた。
「以前、申しましたでしょう? ハーラルとなら、既成事実も作れると……色ボケ最低粘着皇太子と比べただけではなく、そもそも『そういうこと』を許せる相手なんです」
「あ……」
「……もっとも、ハーラルが了承してくれるかという問題がありますが」
そこまで言ったところで、グローリアが困ったように視線を揺らした。
そんなグローリアの様子を見て、クララベルは思った。
(グローリアは、ハーラルのことが好きなんだ)
グローリアは辺境伯令嬢であり、今こそゴーダ族との戦は終わったが、ウィラードやハーラルを送り出して領地を守っていた彼女だ。ハーラルに抱いているのは、単純な恋愛感情だけでないかもしれない。
しかし、彼女の言葉を振り返ってみると──そこに、確かに愛はあるとクララベルは思った。
……ちなみに次の日の朝、ウィラードはハーラル達が登城する前に先触れを出し、グローリアとの婚姻を申し出たいと伝えた。
それに対して、彼の父であり騎士団長であるゼクス子爵と登城したハーラルは、玉座でウィラードの横に座るグローリアの前で膝をつくと、化粧箱を取り出して開けた。
「緑石の、ネックレス?」
「母の形見です。妻になる女性に渡すよう、言われました」
「私に?」
「俺からの申し出ではなく、恐縮ですが……婚姻を、お受けします。俺の妻の証として、受け取ってください」
「……はい」
ハーラルの言葉に頷くと、グローリアは玉座の席から立ち上がって彼の前まで歩いていった。
そして、差し出された化粧箱を受け取った。大切そうに胸元に抱き、微かに、けれど確かに笑みを浮かべてグローリアがハーラルを見る。
それに傷のある頬を緩めて、ハーラルは破顔した。
※
……そんな訳で、グローリアの代わりにクララベルはウィラードと共に、帝都に向かうことになったのだが。
「やはり、妖精には白かピンクではないだろうか?」
「気持ちは解るけど、白だと主賓である脳内お花畑皇女と被る可能性があるから……ピンク? いえ、でもお兄様の色なら、緑なのよね」
「濃いと、奥方様の目の色と喧嘩するかもしれませんが、若草色なら良いのでは?」
シグネとグローリア、そして辺境伯御用達のお針子であるカーラが、真剣にクララベルのドレスを打ち合わせている。
一方、当の本人であるクララベルは使用人生活が長かった。更に皇后や皇女にはドレスを決める時、他の夫人や令嬢との被りを気にする発想がなく、ただただ彼女達が希望したドレスを着つけていた。だから、クララベル本人にはドレスはドレス以外の発想はなかった。
(誰かと被るとか、ウィラードの色とか……色々あるのね)
それ故、色に可愛いという印象だけではなく、伴侶を示す意味もあるのだと言われると、ただただ感心するばかりで口を挟むことが出来ずにいた。




