むしろ望むところよ
クララベルが、フライパンでの手料理を振る舞ってから十日ほど経った頃。
帝都に、ウィラードから宴に参加すると──ただし、参加者を変更するとルチアーノの元に招待状の返事が届いた。その為、ルチアーノは執務室にヘンリエッタ、そしてアンドレアとエリザベスを呼んだ。
「妹であるグローリア嬢が、婚約が決まったので……代わりにウィラードが、我らに会わせる為にクララベルを連れてくるそうだ」
「何ですって?」
ルチアーノの言葉に、眉を寄せたのはヘンリエッタだ。妻は相変わらず、妾の子であるクララベルを嫌っているらしい。
一方、同じようにクララベルを嫌っているエリザベスが、勝ち誇ったように笑って言う。
「むしろ、望むところよ……あの貧相な小娘に、私の足元にも及ばないことを思い知らせてあげるわ」
「辺境伯を奪うつもりか?」
「血塗れ辺境伯なんて、ゾッとするけど……心は、止められないものね」
「……辺境伯は、見た目もまずまずだからな。逆に、篭絡されるなよ」
「お兄様……その冗談は、面白くないわよ?」
「はいはい。忠告はしたからな」
クララベルを亡き者にしようとし、ウィラードに追い出されたアンドレアが言うと、エリザベスが母に似た表情で顔を顰めて答えた。それにアンドレアが、肩を竦めて話を締め括る。
……アンドレアが言う通り、ウィラードは評判こそ最悪だが、同じ男であるルチアーノから見ても端正な容姿をしていると思う。
だがその見た目ではなく、ルチアーノがウィラードを手に入れたいのはその戦闘力故だ。しかも、今ではウィラードだけではなく、ゴーダ族も従えている。そんなウィラードを抱き込めるなら、エリザベスが篭絡されても構わない。
(アンドレアから、クララベルが思っていたよりも愛されていると聞いたが……領地に、引きこもってしまったからな)
だからルチアーノは、エリザベスが異母妹であるクララベルから、ウィラードを奪おうとするのを止めなかった。確実にウィラードを服従させる為、アンドレアとウィラードの妹であるグローリアも婚約させようと思ったが──別の者と婚約した今、その方法は使えない。
(まあ、クララベルを人質にしてウィラードを脅せば良いか)
クララベルの近況を知りたいという、こちらの口実を真に受けてクララベルを連れてくるのなら好都合だ。クララベルを病などを理由に皇宮に閉じ込め、彼女を生かす代わりにエリザベスの夫にすれば良い。そうすれば、エリザベスは辺境などに行きたくないので領地は妹に継がせ、ウィラードを帝都に住まわせれば彼自身が人質になり攻め入られることはない。
妻と娘を刺激しない為に、ルチアーノは心の中だけで結論付けた。アンドレアはある程度、察したようだがウィラードについて報告する時、クララベルに対して執着を見せていたので止めてはこない。いや、むしろクララベルを手に入れられるとほくそ笑んでいる。
(人質にするなら、殺せないからな……アンドレアに、任せればいい。囲いはするだろうが、私のように妻も娶れるし子も作れるからな)
アンドレアについては、ちゃんと皇族としての責務だけ果たせば問題ない。
クララベルについても当初、その死を利用しようとしたが、生き延びてしまったのなら別の方法で役に立って貰う。
……どこまでも、自分勝手なことを考えていたルチアーノは気づかなかった。
ウィラードにもクララベルにも意思があり、思い通りに動く駒などではないということを。




