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007:新たな仲間たちとの冒険

 ガヤガヤと騒がしい酒場の一角。

 そこには冒険者も数多くいて、時刻は既に夜であり仕事を終えた彼らは皆酒を飲んで騒いでいた。

 俺たちも注文をし酒を飲みながら談笑する。

 目の前には表情をガチガチに硬くしてしゃくをされるイシダと妖艶な微笑みを浮かべるアリスがいた。

 俺はジョッキに並々と注がれた酒を呷る。

 そうして、ほどよい甘みと苦みの酒を飲み干し気持ちのいい吐息を吐く。


「はぁぁ!! やっぱこれだねぇ!! 一仕事終えた後の酒は格別だぁ!!」

「……アンタのやった仕事、ただの採取依頼じゃない。別に疲れないでしょ」

「いやいや、それだけじゃねぇからな? 採取以外にも迷子の子猫を探したりもしたぜぇ。いやぁまさか風呂屋の女湯に入っていくなんてな。変態と間違われてしょっぴかれるところだったぜ。ははは!」

「……アンタ、もういっそ探偵にもなったらいいんじゃない。あ、馬鹿だから無理かぁごめんなさぁい」

「……イングラード殿、そのような言葉は少し」

「あら? ふふふ……イシダさん。別に気にしなくていいんですよ。私とこいつはこういう仲なので。それよりも、さぁもっと飲んでください」

「う、うむ」


 アリスは貴婦人のような笑い方をしながら、イシダのジョッキに酒を注ぐ。

 何気ないボディータッチも加えており、イシダは完全にガチガチになっていた。

 俺はそんな二人を見つめながら、これは新たな獲物にされちまうかもと考える。

 だが、イシダほどの男が簡単に騙される訳もない。

 そう思ったからこそ放置して、俺は……またか。


 此方に近づいて来る一団。

 見ればあの山賊風の大男もいた。

 にやにやと笑いながら、俺たちのテーブルの前に立つ。

 そうして、アリスに嘗め回すような視線を浴びせてから俺を見て来た。


「よぉ腰抜け。こんな上等な女を侍らせるなんて良い御身分じゃねぇか……幾ら払ったんだ?」

「あぁ? イクラ? ここいらでそんなの採れねえだろ」

「……ぷ」


 俺はイクラが食いたいのかと聞く。

 すると、奴は笑みを消してから俺の飲んでいた酒を取る。

 そうして、ぼとぼとと俺の頭に被せて来た。

 イシダは怒りを露にして刀を鞘から抜く。

 山賊風の男の首に掛けながら低い声で「謝れ」とだけ言う。

 流石の大男もイシダの殺気を感じ取り冷汗を流していた。

 が、俺はそんなイシダを片手で制しながらけらけらと笑う。


「まぁまぁいいじゃねぇか。丁度、あっちぃと思っててな! 酒を頭から浴びたいところだったんだよ。ありがとな、山賊男!」

「……俺様はザップだ……チッ、少しはやり返してみろよ。本当に玉がついてるのかぁ?」

「あるぜ! 見るか?」

「……てめぇの事を買いかぶり過ぎたか……おい、行くぞ」


 山賊風の男はそう言って店の奥に行く。

 イシダは刀を鞘に納めてから俺を睨んできた。

 俺はその視線を無視して、また酒を飲んでいく。


「……いい加減、理由を聞かせろ……何故、黙っている」

「……理由って? 何で怒らないのかって? 怒るほどの事じゃ」

「――お前に誇りは無いのか」


 イシダは鋭い問いを投げかけて来た。

 アリスも同じ考えのようであり、二人から真っすぐな視線を感じる。

 俺はこれではおちゃらけられないと考えた。

 ぼりぼりと頭を掻いてから、静かに息を吐く……しゃあねぇな。


「……俺の師匠……は、今は違うけど……兎に角、その人のように俺はなりたかったんだよ」

「師匠のように? それと何が関係が」

「……あの人はな、めちゃくちゃ強いんだよ。それこそ、一人で伝説の魔獣を相手に出来るくらいにはな……そんな人が、知らない人間から酒を掛けられたり嘲笑されて何をしたと思う?」

「……あぁ、そういう……アンタと同じって訳ね」

「そう! あの人は笑い飛ばすんだ。俺がムカついたって聞く耳もたねぇんだよ……でも、今なら分かるんだ」


 俺はそっとジョッキを置く。

 そうして、あの人の無邪気な笑みを浮かべながら目を細める。


「あの人は力を使って自分の存在を知らしめたいんじゃない。力の使いどころを正しく理解していた……街のチンピラと喧嘩する為の安いもんなんかじゃねぇ。誰かの命や生活を守る為だけに、あの人は力を使っていたんだってな」

「…………そうか。お前の師匠は、誰よりも誇り高かったんだな」

「あぁ! 俺みてぇな碌でもねぇ大酒呑みだったが。それでも、世界一尊敬する男だったぜ!」


 俺は親指を立てて笑う。

 懐かしい人の話をしてしまった。

 俺は前世の話なんてあまりしたくはなかったが。

 それでも、尊敬する人の話が出来た事は嬉しかった。


 イシダはくすりと笑う。

 アリスも理解したように笑っていた。

 俺はそんな二人を見つめながら、付け足すように言葉を足した。


「それに、あのザップって奴も……俺を本気で雑魚だと侮ってはいねぇよ」

「え? 何で分かるのよ。てか、雑魚と思ってないのなら何で煽る訳?」

「……さぁそれは俺にも分かんねぇけど……ま、好奇心じゃねぇか」


 俺はそんな事を言いながら、瓶を持ち酒を注ぐ。

 アリスは首を傾げ、イシダは何となく分かったような顔をしていた。

 すると、イシダは思い出したように俺の武器を指さす。


「そういえば、それは何だ……言っては何だが、些か不吉な力を感じるぞ」

「お? 気になるか! そうだろそうだろ。こいつはアリスの家で見つけた俺の新しい愛剣だ!」

「呪具なんですけどねぇ」

「――ッ! えほ、げほ! 呪具だと!? や、やめろ! 祟られるぞ!?」


 イシダはえづきながらも、片手を向けて必死に剣を手放せという。

 俺は首を傾げながらも、剣を掴んでイシダの前に掲げる。

 すると、何時もの冷静さはなりを潜めて小鹿のように震え始めた。


「み、見せるな! の、呪い殺されるぞ!」

「……ひょっとしてイシダさん……呪具が苦手だったり?」

「に、苦手とか好き嫌いは関係ないだろ!? こんなものは害でしかない!」

「イシダぁそれは違うぜ? こいつは別に俺の命を奪う気なんてねぇよ。今も俺がぴんぴんしてるのが証拠だ!」

「そ、そんな筈は…………ま、まぁお前が言うのなら…………だが、少しでも体に異変を感じたら、すぐに教会に行け! 分かったな!」

「お、おぅ……何でそんなに怯えるんだぁ?」


 イシダの様子を不審に思いつつも、一先ず約束はしておいた。

 そうして、通りかかった給仕の姉ちゃんに追加で酒とつまみを注文する。

 給仕が去っていき、俺は残ったいぶした豆を食べようと……ん?


 話し声が聞こえた来た。

 それは隣のテーブルについた冒険者たちで。

 彼らは少し浮かない顔で酒を飲んでいた。

 俺はその様子が気になってどうしたのかと思わず聞いてしまう。

 すると、冒険者三人組は此方に顔を向けてからイシダの方を見た。


「アンタたちは……すまねぇな。酒がまずくなったか?」

「……いや、大丈夫だ……浮かない顔だが、何か困り事か?」

「……まぁそうだな……アンタら、此処から西に二十キラ先にある“ラーマ平原”を知ってるか?」

「おぉ知ってるぜ! 確か、あそこには“マウンテン・ブル”が沢山いるんだよな! アイツの肉は身が引き締まっていて脂身が少ないんだけど、すげぇ濃厚な味わいでうめぇんだよなぁ。何と言っても塩で味付けしたら――」

「……アンタの仲間は裕福なんだな。アレは捕獲難易度が高いから高値でしか取引されないのに……まぁ兎に角、その平原で最近、新しい“ダンジョン”が出来たんだよ」

「……ダンジョンか。コアが流れ着いてきたのか」


 俺は話を止めてダンジョンについて考える。

 ダンジョンとは世界各地で存在する迷宮だ。

 洞窟の中であったり、遺跡のようになっていたり。

 果ては海の中に存在するものだってある。

 ダンジョンはモンスターであり、相手を誘い込み中にいる別のモンスターによって殺させてその死体を栄養として吸収する。

 ダンジョンにいるモンスターはそいつが作り出したものや、中に迷い込んだモンスターで構成される。

 ダンジョンで生み出されたモンスターと外のモンスターは敵同士であり。

 モンスターであっても栄養源として吸収してしまう。


 ダンジョン内で討伐されるモンスターは全て影のようなものだ。

 だからこそ、倒したって素材を剥ぎ取る事は出来ない。

 連れ帰ろうとしても、ダンジョン外に出ればそいつらは消滅してしまう。

 ダンジョン内には死んでいった冒険者の遺品や人間たちが価値があると思うような宝が最深部で眠っている。

 近くにいる人間であれば、ちょくちょくダンジョン内にある宝の夢を見るそうだ。

 そこに隠された宝を求めて、多くの冒険者が挑んでいくが……まぁ難易度は様々だな。


 基本的にダンジョンの規模によって中にいる魔物の強さは決まる。

 たんまりと栄養を吸収出来ているのであれば、ダンジョンはより広さを増していく。

 規模がデカくなり過ぎれば、街のように巨大なものになってしまうものもあるらしい。

 此処の世界はどうかは知らないが、俺の世界では国が最大レベルで危険視するダンジョンは三つもあった。

 何か月も掛けて攻略し、転移によって街とダンジョン内を行きかっていたな。


 ダンジョンのコアについては俺の世界でも詳しい生態は明かされていなかった。

 風によって種となるコアが流れてくる説や魔物たちの残骸から生まれる説もあった。

 まぁそんな事はどうでもいい。

 兎に角、ダンジョンはロマンであり中にはお宝が眠っているんだ。


 俺は目を輝かせながら、ダンジョンはまだあるのかと聞く。

 すると、そいつらは悲しい目をしながらこくりと頷く。


「……俺たちも行ったが……仲間を一人失った」

「……そうか……わりぃ」


 俺は謝る。

 すると、冒険者グループのリーダーらしき男は笑う。


「いいんだ。よくある事だろ……恐らく、組合でもそろそろ依頼が出されるだろうな。アレはかなり力をつけている。まだ広さはそこまで無いが。このまま行けば、周辺の街や王都にも影響が出るかもしれない……イシダさんだったか。アンタの事は知ってる。もしも、その依頼を受けるなら……頼みを聞いてくれないか?」

「……その死んだ冒険者の遺品だな」

「あぁ……多分、アイツが大切に持っていた黄金の腕輪がある筈だ。術式が組み込まれていて、腕輪の内側には“久遠の愛を誓う”と書かれていたと思う……アイツの恋人が奴に贈ったものだ。必ず……っ」

「……分かった。絶対に取り戻して見せる」

「頼んだぜ……俺たちは昼間は組合に必ずいるからな……それじゃ。行くぞ」


 イシダは彼らに約束する。

 そうして、三人組の冒険者は金を置いて店を後にする。

 俺はひらひらと手を振って見送った。

 その時にふと今まで静かにしている女の存在が気になった。

 

 ちらりとアリスを見れば、黙ってちびちびと酒を飲んでいる。

 まるで、私には関係ないと言わんばかりだ。

 俺はアリスを見ながら、お前は行かないのかと聞いてみる。

 すると、アイツは少し考えてから笑みを浮かべて答える。


「申し訳ないですけど。私は家のお手伝いがあるので……それに、こんなか弱い乙女が行っても足手まといですし……おほほ」

「そっか……まぁ、仕方ねぇか……ダンジョンの中には、“貴重な鉱石”があるんだがなぁ」

「……ん?」


 俺は態とらしく言う。

 どうやら、知らなかったようであり俺は笑うのを必死に抑えながら言葉を続ける。


「ダンジョン内のモンスターからは何も取れねぇけど。ダンジョンを構成するものからは色々と採れるんだよなぁ。アイツらはダンジョン内の強度を保つ為に、その土地の栄養とか鉱物も全て吸収しちまう。だから、それらが合わさって生まれる素材……特に、最深部にある“ダンジョン・メタル”はかなりの高値で」

「――私も同行しましょう」

「え? いや、でも家の用事がなぁ」

「うるさい。連れて行け」


 ぎらついた目で俺を見るアリス。

 その目は完全に金に染まっていた。

 やっぱり、適当な理由をつけて離脱しようとしていただけだった。

 俺はため息を吐き左右に首を振る。

 アリスはそんな俺の様子が気に入らなかったのか舌を鳴らす。

 もう、俺やイシダの前でその本性を隠す気もないらしい。

 イシダは女の豹変ぶりに怯えていた。


 俺は立ち上がる。

 そうして、仲間たちを見つめてからジョッキを掲げようとする。


「うし! じゃ決まりだ! 次はダンジョンだ! 張り切っていくぞ!」


 天高くジョッキを掲げる。

 そうして、並々と注いだ泡を出す黄金の麦酒を飲み干す。

 キンキンに冷えた最高の飲み物であり、喉を潤すそれは俺の心と体を温めてくれる。

 仲間たちは気持ちのいい吐息を吐く俺を笑いながら見ていた。


 冒険だ。新たな仲間たちとの冒険がまた始まる。

 俺は今は亡き師匠の姿を思い浮かべながら、また一から頑張ると誓った。

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