006:魔を滅する光
「――シィ!!」
連続して剣を振るう。
無数の斬撃が奴を襲うが、奴はそれを全て軽やかに受け流す。
甲高い音が響けば火花が散り、奴の視線が鋭さを増す。
剣を自在に操り攻撃を受け流し、此方の隙をつくようなカウンターを繰り出してきた。
的確に急所を狙った攻撃で、頭部スレスレを通った奴の剣が俺の髪をはらはらと散らす。
互いも息をつかせぬ間に攻撃を繰り出す。
一進一退の攻防であり、中々の手練れに俺は歓喜していた。
楽しい。心が躍り――笑みが零れる。
俺は回転し、奴の胴体に蹴りを放つ。
真面に受ければ骨折どころではに済まない。
が、奴はそれを受けて空中で回転しながら何事も無かったかのように着地した――来るッ!!
奴の体の像が揺らぐ。
瞬間、今までに無いほどの殺気を感じた。
奴の体が霞のように消えてなくなる。
そうして、一瞬にして四方八方から殺気を感じて、そのまま体を回転させながら剣を振るう。
竜巻のように強烈な風が吹きすさび、俺を守る盾となる。
風の盾に何かが触れて甲高い音が鳴る。
が、全ては防ぎきれずに合間を縫って何かが俺の体を抉る。
「――ぅ!」
鋭い痛みが体中に走る。
鮮血が噴出して服を血で染めた。
一瞬、意識に乱れが生じた。
「――ッ!」
奴が風のカーテンを抜けて刺突の構えのまま突貫してきた。
俺は刃で奴の攻撃を受け流す。
ギャリギャリと音を立てて剣から火花が散る。
そのまま俺は奴へと攻撃を繰り出し、奴は鎧で俺の斬撃を受け流しながら蹴りを放ってきた。
どすりと鈍い音が鳴る。
めきめきと嫌な音を立てながら体を強制的に曲げられて。
そのまま後方へと吹っ飛んでいった。
オブジェを巻き込みながら転がり、俺は地面に手をついて飛ぶ。
そのまま地面に着地し――背後から殺気を感じた。
本能のままに剣を振るう。
が、そこには誰もいない――前ッ!
回転のままに刃を叩きつける。
そこには奴の“影”がいた。
残像であり、それが刃に当たった瞬間に四散する。
俺の目にはハッキリと見えていた像であり、奴は己が殺気と気配を残像に残していっていた。
一流であっても簡単には真似できない芸当。俺は奴のそれに舌を巻く。
無数の気配を感じる。
片っ端から斬撃を放つが、全てが虚像だ。
まるで、俺を翻弄するかのように展開されるそれら。
俺は笑みを浮かべながら、汗をたらりと流す。
瞬間、またしても殺気を複数感じて――剣を地面に叩きつける。
土煙が舞い上がり、石のつぶてが周囲に飛び散る。
その瞬間、全ての虚像は消えてなくなり――本物だけが残る。
「いたァ!!」
俺は奴へと一歩で肉薄。
そのまま剣に魔力を流し――斬る。
奴は自らの剣でそれを受ける。
が、衝撃を殺し切れずに吹っ飛んでいった。
奴はそのまま庭園の壁に勢いよく当たった。
バラバラと残骸が舞い、奴の気配も弱まる。
それを感じながらも、安心できないものを感じていた。
確実にダメージが入った……なのに、何だ。この違和感は?
妙な手応えであり、まるでダメージを与えた実感が沸かない。
いや、確かに剣は触れていた。
奴の気配だって揺らいでいるんだ。
それなのに何故か、拭いきれない不安が――!
周りに瘴気が広がっていく。
それらが朽ち果てた兵士に纏いつく。
そうして、死んだはずの兵士たちの目に怪しげな青い光を灯らせた。
奴らは武器を持ち立ち上がり、カタカタと顎を揺らしながら襲い掛かって来た。
俺は舌を鳴らしながらも、そいつらへと対応する。
単調な攻撃だ。
ただ振るだけのそれに脅威は感じない。
簡単に避けてから斬撃を放てば、敵はばらばらに砕け散る。
俺はそのまま残りも片付けて――!
足を何かが掴む。
見れば、砕け散った兵士の手がぴたりと張り付いている。
そうして、凄まじい力が加わり俺の足をへし折ろうとした。
俺は一瞬にして、その手だけを剣で弾く。
空中に浮いたそれを細切れにすれば、流石にもう動く事は無い……厄介だな。
こいつらの動きは短長だ。
それだけならさして脅威はない。
が、細切れにしなければすぐに蘇る。
いや、倒しても倒しても別の敵が這い出てきやがる。
まるで、無限に生み出される“モンスター・パレード”であり……コアがあるな。
骸骨とはいえ、動かすのであれば相当な力がいる筈だ。
そして、あの鎧野郎も復活しようとしていやがる。
此処が何処なのかは大体見当がついてきた。
恐らくは、あの怨念の精神世界だ。
前世でもこういう体験は何度かした。
そして、そういう類の世界にはそこを維持する為のコアがあると知っている。
ダンジョンにもコアがあるように、精神世界にもコアはある。
それさえ破壊できれば、この世界から俺は解放される。
沸き上がるリビングデッドを倒していく。
そうして、城を見つめて……あそこだな。
城の中。
その最上階にある離れた場所に立てられた部屋。
そこからコアの気配を僅かに感じた。
恐らくは、あそこで守られているのだろう。
俺はそう考えて、剣を一気に振るって全ての敵を弾く。
そうして、勢いよく城に向けて駆けだした。
チラリと見れば、あの鎧野郎も復活していた。
俺は来るなら来いと思いながら、砕けた城の穴からそこの中に飛び込む。
中もひどい有様であり、高かっただろう調度品は砕け散り。
女中や王族らしき死体が転がっている。
それらも瘴気に包まれて不自然な動きで立ち上がろうとしていた。
「――うし!」
勢いよく駆けだす。
化け物たちが飛び掛かってきて、俺はそれらをひらりと躱す。
避けられない敵は剣で蹴散らし、そのまま奥へと突き進んでいった。
無数の死体を超えていきながら、扉を破壊して上へと繋がる階段を駆け上がっていく。
そうして、上へと向かっていき――!
横から敵の気配を感じた。
俺は咄嗟に剣でガードする。
瞬間、石の壁を突き破って鎧野郎が現れた。
奴は俺の剣事、俺の体を壁に叩きつける。
メリメリと圧迫されて、そのまま壁を突き破って外に出された。
「――しゃらぁぁ!!!」
力任せに奴の剣を弾く。
そうして、空中で浮かんでいる壁の残骸を剣で弾き奴に向けて飛ばす。
簡易的な弾であり、奴はそれを剣で斬る。
全ての弾丸が切り伏せられて、俺はそのまま地面に着地し――跳躍。
遅れて着地しようとした奴の意表を突く形で迫る。
奴は咄嗟に剣を横に振るう。
俺はその動きを呼んだうえで、奴の刃に沿うように体を回転させた。
そうして、そのまま奴の首を斬り――阻まれる。
奴の瘴気が一転に集まる。
そうして、刃が止められてしまう。
「――関係ねぇッ!!」
《――!!》
俺はそのまま全身の力を込める。
魔力を流し続けて、剣にびきりとが亀裂が走った。
俺は剣が悲鳴を上げても無視し、そのまま瘴気事――断ち切る。
魔力の青い残滓が舞う。
そうして、奴の首がくるくると宙を舞った。
同時に、俺の砕けた刃も地面に刺さる。
俺はそのまま奴の体を掴む。
そうして、足場にして――跳躍した。
一気に上へと舞い戻る。
そうして、奴をその場に放置して俺は城の最上階を目指した。
扉を破壊し、そのまま真っすぐに廊下を走る。
最上階にも部屋は幾つかあるが全て無視。
そのままのあの部屋に繋がるであろう大きな両扉が見えてきた。
その前には無数の動く石像が立ちふさがっていて、俺は半ばから砕けた剣を脇腹に収め――斬撃を放つ。
魔力の刃が飛翔し、硬く分厚い扉と石像共を両断する。
ずるりと落ちたそれへと突っ込み破壊して奥へと入った。
そうしてそこに続く一本橋を渡っていき――突っ込む。
「よっしゃぁぁ!! あ?」
部屋の中に到達し、コアらしきものを見つけた。
そこにはコアとなる漆黒の球体が浮いていた。
その傍らには顔の見えない少女がベッドの上で怯えていた……何だ?
コアがある所に人らしきものがいるなんて……今まではなかったな。
精神世界というものはその人間の願望を反映したものが多い。
女にモテたいとか、強くなりたいとか。
だが、そういう願望が具現化する時は人はそこにはいない。
あっても死体だったりであり、生きている人間は存在しない。
いたとしても人のように見えるだけの紛い物だけだ。
それは所詮は偽物である。
本当の命をその空間に存在させる事は出来ないというルールがあるらしい。
俺はコアを破壊する前に数秒考えて――あぁ、なるほどな。
瞬間、背後から殺気を感じた。
俺は振り返る事無く、半ばから折れた剣でそれを弾く。
ゆっくりと振り返れば、怒り狂う鎧野郎がいた。
今の今までこいつが本体だと思っていたが。
どうやらそうではないらしい。
俺は怯える少女へと視線を向けて笑う。
「お前が、この世界の主か」
「……」
この鎧野郎は奴が生み出した人形。
呪いの正体は奴であった。
が、力はさほど感じない。
恐らくは、戦いに関しては奴はほとんど無力だろう。
この鎧野郎はあの子供と関係が深そうだ。
でなければ、こいつだけが此処まで力を持つ筈が無い。
少女の強い感情がこいつを動かし、あの剣に呪いとして宿っていたのか。
まさか、俺が一瞬でも敵を見誤るなんてな……やっぱり世界は広いなぁ。
奴の体が瘴気となる。
ガタガタと鎧の部分は床に転がった。
そうして、四方八方から気配を感じながら、俺は剣で肩を叩く。
嬉しい。こんなに嬉しい事は無い。
自分の知らない世界があって、まだ体験していない事に出会えるんだ。
これこそが冒険であり、これこそが人生だろう。
瘴気が渦を巻く。
呼吸も出来ないほどの負のオーラであり。
亡者たちの叫び声を聞きながら、俺は静かに目を閉じる。
そうして、腰を深く屈めてから抜剣の姿勢で剣を腰に構えた。
「……礼だ。一つ、俺も技を見せてやるよ」
《――!》
俺は目を閉じながら、魔力を練り上げていく。
薄く薄く。何層にも魔力を重ねていった。
相反する二つの性質。
“破壊”と“再生”――“切断”と“治癒”。
それらが合わさろうとすれば、互いにバチバチと反発しあう。
剣が生きているかのようにカタカタと動く。
赤と青の魔力が光を増していき、柄を通して強い熱を感じたb。
俺はそれを手で抑え込みながら、敵の動きを感じ取る。
奴はあの少女と魂で繋がっている。
こいつを幾ら攻撃しようとも無駄であり、あの少女だけを斬っても無意味だ。
コアだけを破壊しようとしても、恐らく俺が解放される事は無い。
感じる。俺の狙いがバレていやがる。
瘴気を壁のように張って、コアを守ろうとしていた……舐めているな。
俺一人を殺すのに全力を注がない。
それは無礼であり、俺を格下だと思っているからだ。
久々に味わう感覚であり、前世で冒険に出る前の無力な自分を思い出す。
俺はゆっくりと息を吸う。
そうして、全ての感情と思考を断った。
音が小さくなり――無音となる。
敵の気配が揺らぎ――襲い来る。
無数の思念が混じり合う中で俺は――静かに刃を振るった。
「――寂滅」
音もなく。
放たれた斬撃。
一瞬の強い閃光と共に――全てが断ち切られる。
回転と共に周囲に一瞬で広がり。
触れたもの全てが半ばから断ち切られる。
防御も何も全てを無視して、全てが鮮やかな切断面を見せていた。
そうして、宙を舞う呪いは切断面から体を溶かしていった。
再生は出来ない。
体を動かす事も叶わない。
これは確実に相手を葬る為の技。
全ての魂を黄泉へと誘う斬撃だ。
鎧野郎は少女を見つめていた。
そうして、ゆっくりと彼女に手を向けて――消えていった。
少女も鎧野郎に手を伸ばしながらパラパラと消えてなくなる。
コアも消滅していって、ぱきりと空間に罅が入った。
俺はゆっくりと脱力しながら、砂となって消えていく剣を見つめた。
近くには鎧野郎が置いていった剣がある。
赤黒い剣身の禍々しいそれ。
俺はにやりと笑い、それを拾い上げた。
崩壊する世界の中で、俺はそれを目の前に掲げながら、鎧野郎たちに聞こえるように言葉に出す。
「貰っていくぜ!」
そうして、世界は白い光に包まれた――――…………




