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005:呪われた武器に宿る怨霊

「それでね! 私のパーティに入れば武器とか鎧のメンテナンスも一割引きなの! おまけに、こんなに美女の傍で同じ空気が吸えるんだから、アンタみたいに極悪人面にとっては光栄のあまり卒倒する」

「――こいつはどうだ!? 手になじむだろう!」

「いいね! ちょっと軽い気がするが、中々にいいぜおっちゃん!」

「ちょっとぉぉ!! 私を無視するなぁぁ!!」


 鍛冶屋のおっちゃんの名前はバルド・スミスというらしい。

 名のある鍛冶師の下で修業をし、今では自分自身も名人と呼ばれるほどの腕前だ。

 店を出したばかりの時にはお店には多くのお客が来るていたようだ。

 しかし、仕事に集中したいバルドのおっちゃんは扉を合言葉式にしてしまった。

 その結果、合言葉を知らない客などは店には入れず。

 今では馴染のある客しか寄り付かなくなったらしい。

 あの取り巻きの男たちも元々はこの店の常連で、親戚であるアリスが此処に住み着いてからは彼女の下僕としてこき使われていたようだ。


 おっちゃんの作る剣はどれも一級品だ。

 切れ味は勿論の事、耐久性もありそうだった。

 どれだけ手入れをしようとも、武器は何時かは壊れるものだ。

 しかし、おっちゃんの作る剣を見ていれば何十年も持つという自信を感じる。

 俺は手にした剣を軽く振ってから鞘に戻す。

 おっちゃんはニコニコと笑いながら剣を受け取り、棚に戻していた。


「……うーん」

「お? どうかしたか……まさか、今までのものでは不服と?」

「あ、いや。どれもすげぇもんだってのは分かるぜ。金さえあれば欲しいくらいだよ……ただ」

「ただ?」

「何よ。おじいちゃんの力作をコケにするつもり?」


 二人は目を細めて俺を見つめる。

 俺はどう説明したものかと思いつつ、身振り手振りで説明しようとした。


「そのな。俺の欲しいのはこぅドーンと来る感じで、ビビッとするもんでさ! 振ったらこうズババァんとな! な!」

「分かんないわよ! どんだけ説明下手なのアンタ!?」

「……なるほどのぉ」

「え、分かったの!? 噓でしょ……」


 アリスはきゃんきゃんと吠えるが、おっちゃんは分かってくれたらしい。

 俺はそういうのはあるかと視線で問いかける。

 すると、おっちゃんは踵を返して店の奥へと行く。

 振り返り顎を動かしてついて来るように示してきた。

 俺たちは互いに顔を見合わせてから、おっちゃんの背中を追い掛けていく。




 おっちゃんは店の奥へと行った。

 そして、荷物が置いてある倉庫らしき部屋に入り。

 重そうな荷物を軽々とのけていた。

 そうして、床下に続く扉を俺たちは発見し、おっちゃんはそこに触れてからぼそぼそと呪文のようなものを唱えていた。

 すると、ガチャリと音がしてロックが解除されていた。


「……これも、あの暗号の?」

「……馬鹿なの? これはあんな子供だましじゃないわ。銀行で使われるような高度な術式よ……でも、うちにこんなもの」

「ほら、行くぞ。暗いからな。足元に注意せい」


 おっちゃんはそう言って梯子を下りていく。

 俺は先に梯子を下りようとした。

 しかし、何故かアリスに止められてしまう。

 何をするのかと見れば鼻を鳴らしレディーファーストなどと言ってくる……どういう意味だ?


 奴はそのままするすると梯子を下りていく。

 俺は首を傾げながらも、奴の後に続いて降りて行った。

 カツカツとブーツの音が響き、下を見れば等間隔に明かりが灯っていく。

 見ればそれも魔法石であり、これは自動で明かりを灯すものらしい。

 俺は下へと降りていきながら、二人に声を掛けた。

 すると、返事が返ってきて…………と、着いたな。


 石の床を確認した。

 俺は梯子から手を離し、前へと視線を向ける。

 すると、それなりの広さの地下室には無数の何かが保管されていた。

 どれも厳重に布を巻きつけられていて、透明な箱の中に入れられていた。


 陽の光は一切ない。

 ただ、照明となる魔法石の明かりだけがあるだけだ。

 俺は周りを見ながら、それらをジッと見つめるアリスに近づく。

 彼女は顎に手を当てながらぶつぶつと何かを言いながら興味深そうに箱の中身を見ていた。


「なぁ、これ全部武器なのか? 何でこんなにぐるぐるに布で巻いて変な透明の箱に入れてるんだ?」

「……多分、これ全部普通の武器じゃないわ。この布には術式が刻まれてるもの……これは“封印”と“劣化防止”ね……普通、こんなじめじめとした場所に金属類を置く筈ないもの。まぁこのケース自体も、酸化防止用みたいだけど……おじいちゃん、私こんなの聞いてないわよ!」

「うるさいのぉ。お前は知らんでもいい事じゃ」

「嫌よ! 明らかに此処にあるもの全部、何か禍々しいんですけど!? 私、今までこんな物騒なものがある家で寝てたのよ!? こんなの事故物件より性質が悪いじゃない!」


 アリスはぷんぷん怒っている。

 おっちゃんは耳をほじくりながらどこ吹く風だ。

 しかし、俺自身も何故、こんなにも多くのいわくつきの武器を保管しているのか気になった。

 それをおっちゃんに説明すれば、彼は複雑そうな顔をしながらも答えてくれた。


「……まぁ鍛冶屋をやっていれば、こういうもんに巡り合う事は多々ある。元の所有者が不幸な死を遂げたか、家の中に置いてあるだけで不幸な目に合い続けたとか。理由は様々じゃが、そういうもんを鍛冶屋の所に捨てに来る輩はわんさかいる……多分じゃが、儂らがそういうものを無下にしないと分かっての事じゃろうな。ありがた迷惑な話じゃ」

「……じゃあこれ全部……”呪具”ってこと?」

「そうじゃ。全て、妖刀に魔剣と呼ばれるような代物ばかりじゃ……だが、封印できる内のものはまだマシじゃがな」


 おっちゃんはそう言いながら、部屋の中心にある箱を見つめる。

 俺も視線を向けて――心臓が跳ね上がる。


 ドクリと心臓が強く鼓動した気がした。

 隣にいるアリスを見れば滝のような汗を掻いている。

 おっちゃんも少し具合が悪そうだった……何かあるな。


 鋼鉄の箱に入れられた何か。

 箱の全面には無数の札が貼られていた。

 その一枚一枚はかなり強力な術式が刻まれているのは素人である俺にも分かる。

 だが、よく見れば札はところどころか焦げたような跡がある。

 今にも剥がれそうであり、おっちゃんはそれを見て「また替えないとな」と呟く。


「これは儂が知る中で最も強力な呪いが込められた一振りじゃ。前の所有者は不明で、儂がこの店を受け継ぐ前からここにあった。先代である儂の師は、絶対にこれの封印を解いてはならないと言っておった。触れただけ、いや、そこに存在するだけで多くの人間を死に至らしめる魔剣じゃ」

「ま、待ってよ……じゃ、じゃそれって世界に現存する“七十二本”の内の……っ」

「……いや、図鑑には載っておらん。じゃが、それに匹敵するものではある。間違いない」

「……へぇ」

 

 爺さんは箱を見つめながら、知っている事を教えてくれた。

 七十二本というのは世界で確認できた強力な魔剣や妖刀の事だろう。

 爺さんの腕は本物であり、数多くの呪具を見て来たのなら、放つオーラだけで格が分かる筈だ。

 その言葉に間違いはなく、本物の魔剣であると言えるだろう……面白れぇな。

 

 俺は何故かは分からないが、その箱の中身に強い興味を抱いた。

 だからこそ、それを指さしながら言葉を発する。


「――それ、見せてくれよ」

「……っ! アンタ正気!? 真面な人間なら感じるでしょ!? 明らかに他の呪具よりも強力な呪いが掛かっているのは明白よ! あんなものの封印を解いて手にしたら、絶対に呪い殺されるわよ!?」

「……悪い事は言わん。これ以外にしなさい」


 おっちゃんはそう言いながら、呪具についてもっと説明してくれた。

 呪具とはそのままの意味であり、呪われた武具や防具。または一般的な道具をさす。

 呪われた道具は、それが本来持つ効果を飛躍的に高めるとされているようだ。

 しかし、それはその道具を使用者が手放せないようにする為であり。

 呪われた道具の多くは、所有者の命や幸福を吸い取るとされている。

 中でも、強力な呪具であれば触れただけで魂を吸い取るようなものもあるらしい。


 呪われた武器は、全て強力でありあるところでは図鑑にも登録されているほどだ。

 有名なもので言えば“七十二本の呪われ”だろう。

 そのどれもが凄まじい切れ味や何らかの特性を秘めているが。

 強力過ぎる力の代償に凄まじい呪いが掛かるとされている。

 俺も魔法使いの爺さんから話には聞いていたし、実際に図鑑も見ていた。

 今でもそれを使っている奴は限られていて、大体が厳重に国が保管している。

 

 それら以外のものでも全てが妖刀であったり魔剣と呼ばれ恐れられている。

 そういう類のものを好んで使うのは一部の物好きか。

 呪いに耐性のある“魔族”くらいであるとおっちゃんは言う。


「……儂も処分出来るのならしたいがな。これらは捨てる時には必ず聖職者たちから浄化を行わなければならない。でなければ、罪に問われて最悪の場合、獄中で一生を過ごす事になるからの……じゃが、浄化をするには金が掛かる。これ一本だけでもと思ったが、騒ぎを起こされる訳にもいかんのでな」

「で、でも! これ全部、勝手に捨てていかれたものじゃない! そう説明したらきっと」

「……それは出来ない……これを捨てた人間の顔を何度か見た事があるが……不幸から解放された人間を奈落に突き落とす事は儂には出来ん。すまんの」

「……っ」


 二人は俯いて黙ってしまう。

 俺はぼりぼりと頭を掻いてから、パンと手を叩く。

 そうして、にしりと笑ってもう一度言う。


「分かった! じゃ見せてくれ!」

「――はぁぁ!? アンタ、本当に馬鹿なの!? 話聞いてた!?」

「……お前さん。もしや……初めてではないのか?」


 おっちゃんは髭を摩りながら目を細める。

 どうやら分かるようであり、俺は昔使っていたものもその類のものだったと伝えた。


「打ち捨てられた神殿の中にあったものだった。魔を跳ね除ける力があるって聞いてたが、それ以外の幸福なんかも寄せ付けないようなものだった。アレがあった場所には水も植物も一切なかった。ただ無数の屍が転がっていたっけな……ま、すげぇ切れ味が良くてさ。無茶な使い方しても壊れねぇから気に入ってたけどな!」


 俺は笑いながら昔の事を語る。

 すると、おっちゃんは俺の目をジッと見つめてくる。

 俺はそんなおっちゃんの目を見つめ返しながらにしりと笑う。

 

 おっちゃんはくすりと笑う。そうして、箱を撫でてからぼそりと何かを呟いていた。

 

「…………なるほどな……うむ……分かった。ならば、もう何も言うまい。儂等は安全の為に退避させてもらうが。もしも、ものに出来たのなら……お前さんに譲ってやろう」

「ちょ!? 気は確か!? もしも、こいつが死んだらどう説明するのよ! てか、死人が出たところで寝泊まりなんか絶対に嫌ぁぁ!!」

「うるさいうるさい! 男の決意を邪魔するでない!! さぁ行くぞ!! ほら、はよせんか!」


 アリスはおっちゃんに押されて出ていく。

 最後まで涙を流しながら激しく首を左右に振っていたが……分かりやすい奴だぜ。


 気持ちのいいほどに良い性格をしている女だ。

 嫌なだけの女かとも思うが、アレはアレで良い奴だろう。

 あぁは言っているが、無茶をしようとした俺を止めようとしていたからな。


「……これが終わったら……二人に礼をしねぇとな」


 俺は拳を鳴らす。

 そうして、二人が出て行って扉が閉じられたのを確認した。

 俺はゆっくりと箱の方に近寄る……て、どうやって開けるんだ?


 俺は頑丈に施錠されているそれを見つめる。

 すると、おっちゃんの声が微かに聞こえて来た。

 耳を凝らしてよく聞けば……すぐに開く、か。


 今のやり取りの間で、封印が解けるようにしてくれていたようだ。

 俺はおっちゃんに感謝しながら、箱を見つめた。

 すると、張られていた札に刻まれた文様が消えていく。

 完全に消えれば、ぺりぺりと札が全て剥がれてった。

 そうして、完全に札が剥がれると鋼鉄の箱がガタガタと揺れ始めた。


 ロックは解除されている。

 俺はゆっくりと箱に手を置く。

 そうして、中を確認する為に開けていった。


「……ッ!!」

 

 むわりと何かが噴き上がる。

 目に見える筈の無い何かは、腐ったような臭いがしていた。

 腐臭であり、これは瘴気そのものだった。

 吸うだけでも人体に悪影響が出そうなそれ。

 俺は気にする事無く、中でボロボロの布にくるまれたそれを掴む。


 瘴気は更に強さを増す。

 まるで、亡者たちの手で首を掴まれたような錯覚を起こし。

 全身が氷のように冷たくなっていった。

 それでも、俺は剣を目の前に掲げる。

 

 そうして、目の前のそれを、見つめ、て――――…………




 

 …………――――意識が覚醒する。


 目を開ければ、見た事も無い場所に出ていた。

 部屋の中ではない。天井は無く赤い空が広がっていた。

 目の前には半壊した城が見えている。

 砲撃でも喰らったのか壁は煤汚れていて、今にも崩れ落ちそうだった。


 今立っている場所は城の中庭のようだが。

 広さはかなりあり、オブジェのようなものも複数ある。

 此処もひどい惨状であり、花も植物も全て枯れ果てている。

 おまけに騎士のような装いの兵士が死体になって転がっていた。

 不思議な事にそれらの死体は何年も経っているかのように白骨化している。


 俺はぼりぼりと頭を掻きながら、此処は何処なのかと――後ろに飛ぶ。


 見えない何かを感じた。

 その瞬間に目の前を何かが通った気がした。

 後ろへと着地しながら、ゆっくりと服を見れば……へぇ。


 薄く斬れていやがる。

 お気に入りのチュニックがぱっくりとな。

 俺はこれをしでかしたであろう野郎を見つめる。


 ゆっくりと地面から黒い靄のようなものが集まる。

 それは瘴気の塊であり、もぞもぞと揺れ動いていた。

 そうして、転がっていた騎士の鎧がカタカタと揺れながら集まっていく。

 やがて靄が本体となり、甲冑を着た何かが剣身が赤黒く染まった剣を持ちながら俺へと刺突の姿勢で構えた。


 ――直感で理解する。こいつが“呪いそのもの”であると。

 

 ただならぬ空気であり、殺気は紛れもなく本物だ。

 全てを呪い殺さんとする意思を感じる。

 一流の剣士が相手であり、本体は怨念の塊と言っても過言ではないだろう。


 並々ならぬ負の感情。

 顔の見えないそれから向けられる視線からは殺意しか感じない。

 俺を本気で殺す気であり、俺はそれを見つめながら足を動かして転がっていた剣をかち上げる。

 それをしっかりと握りながら、俺も剣を下に向けて構えを見せた。


 恐らくは、アレがあの呪具に宿る呪いの正体だ。

 奴は俺を殺す気で試そうとしていやがる。

 俺の全てを奪い取るか。それとも、俺を認めて付き従うかだ……面白れぇ。


 俺は笑みを深める。

 冒険に危険はつきものだ。

 俺はこういうリスクですらも楽しみにしていた。


 

「さぁやろうぜ――楽しませてくれよ!」

《――》


 

 奴の殺意を受けながら、俺たちは同時に駆ける。

 そうして、目にも留まらぬ速さで互いに剣を振った。

 奴の剣は俺の頭部を狙い、俺はそれをギリギリで躱す。

 俺の剣は奴の胴体を狙い、奴は自らの呪いで鎧を強化しそれを防いだ。


 互いの殺意が交差する。

 俺たちは眼前の敵を見据え――“笑っていた”。

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