202話 危獣氷兎ツンドラ 前編
トレミアム上空。
「よし。それじゃあこれからツンドラと戦うわけだが、準備はいいか?」
「ああ」
「やる気十分だぜ!」
「そうか。それじゃあ俺から言うことはただ一つだ。生きて帰ってくるぞ」
「そうですね」
「うん」
「ああ」
「必ず戻ってくる」
「頑張る!」
みんながそう言うと、それから転移の塔まで移動した。
「それでは皆様、気を付けていってらっしゃいませ」
「頼んだぞ」
「ああ。シエスタ、ここのことは任せたぞ」
「はい、かしこまりました」
シエスタがお辞儀をしたところでシン達は地上へと転移した。
「さ、寒いよ〜…」
トレミアムへ移動すると鼻水を垂らしたサレサが凍えた声で言う。
「思ったよりも視界が悪いな…」
周りは吹雪になっており、雪が積もっていて視界は最悪だった。
「まずはツンドラを探さないとダメなわけだが…どうしたもんか…」
そう言って一歩踏み出す。
すると、膝の上までズボッと埋まる。
「雪、思ったより凄いね…」
「ああ」
「少しでも離れたら探せなくなるな。離れないようにしよう」
「だな」
「分かった」
全員で一カ所に固まる。
「ゴウキ、これからどうする? この吹雪の中を無闇に進むのは危険だぞ」
「分かってるよ。一度、建物を借りてどうするか考えるか」
「分かった」
それから吹雪の中を苦労して移動すると誰もいないとある建物の中へと移動するシン達。
「ここならゆっくり話せるだろう」
「それでどうする? この吹雪の中何も目印がない砂漠を進むのは危険だ」
中に入るとエルフィンが言う。
「そうだな。もう少しツンドラがなにかしらの行動を起こしてくれると見つかりやすいんだが…」
「吹雪が起こってる以上は近くにいるのは間違いないんだよね?」
「ああ」
「なら、あっちから来てもらうのはダメかな?」
「来てもらうか」
レンの言葉に皆が考える。
「ここは町の中だからここから少し移動して砂漠まで出て、そこでツンドラを誘き寄せればわざわざ遭難しそうな砂漠を移動する必要もないでしょ?」
「確かにその方が安全ではあるでしょうが…そんなに上手くいきますかね?」
「なんか案はあるか?」
「ん〜ないこともないんだが…」
渋るゴウキ。
「何か策があるの?」
「まあ、ないこともないって感じだな。本当は別の何かに使う予定だったんだが、仕方がないか」
「それで策ってなんなの?」
「そうだな。単純な話なんだが火薬を爆発させる」
「爆発?」
「爆弾ということでしょうか」
「そうだな。シャレイペル・スネークのこともあったから少し多めに火薬を持っておくようにしてたんだが、まさかこんなに早く使う機会が来るとはな」
「準備がいいわね」
「まあな。ただ、爆弾を準備するだけじゃ勿体無いから罠を仕掛けよう」
「罠か…」
それからシン達は作戦を練るとすぐに行動に移した。
「おし。こっちはいいぞ」
罠を仕掛け終わったグラートが合図する。
「分かった。後はツンドラが来てくれれば作戦開始なんだが」
「アレだけの量の火薬だからな。気が付いてこっちに近付いてくるとは思うが」
「そうだな。後はツンドラの気分次第だ」
その会話をした後、シン達は仕掛けた爆弾から少し離れたところまで移動する。
「ツンドラ、どんな感じなんだろうな?」
「そりゃあ来てからのお楽しみだ」
「みんな、心の準備はいいか?」
エルフィンが聞くと全員が頷く。
すると、エルフィンは持っていた油を染み込ませた布を巻いた松明に火を点ける。
「後はこれを火薬まで投げるだけだ」
火が点いた松明は勢いよく燃え、吹雪の中でもその勢いが衰えることはない。
「行くぞ」
次の瞬間、エルフィンは持っていた松明を火薬へ放り投げた。
吹雪の中を赤い光が遠ざかっていくのを見つめるシン達。
と、その時、バーーーンという爆発音と共に地面が揺れる。
「流石にあの量の火薬だと凄いね」
「ああ」
「これならツンドラも気が付くだろう」
「後は用意した罠にハマってくれるかどうかだな」
と、ゴウキがそう言ったその時だった。
「ガアーーー」
低い雄叫びのような声が辺りに響いた。
「来ましたね」
「ここまでは予定通りだ」
周りを警戒するシン達。
すると、ドスンという衝撃と共に雪と砂が宙を舞った。
どうやらツンドラは上から着地するような形でやってきたらしい。
「ガルウウウ」
虎の唸り声のような低い音を鳴らしながら周囲を警戒するツンドラ。
その見た目は吹雪によってよく見えないが、体長十メートル程あるように見える。
「よし、レイオーネ頼んだぞ」
「分かった」
そう言うとレイオーネは銃剣をツンドラへ向ける。
「思ったより大きかったったけど、チャンスは今しかないから…」
レイオーネは引き金に指を掛ける。
そして、次の瞬間、引き金を引いた。
すると、弾丸はツンドラをその場から突き飛ばし、その巨体を数メートル動かす。
と、その時、ツンドラの巨体によって反応した罠が作動した。
罠は何かがその上に乗ると作動するようになっており、踏むと鉄の棘がある鎖が踏んだ対象を捕縛する仕掛けだった。
それに加えて、今回はダメ押しに棘の部分に毒を塗っておいたのでこれで少しでもツンドラにダメージを与えようという作戦だった。
「ガーーー」
暴れ出すツンドラ。
その度に鉄の棘が体を締め付けて傷を付ける。
「計画通りだ。今のうちに行くぞ」
「ああ」
それからシン達はゴウキを先頭にツンドラへと向かっていく。
「レイオーネ、もしツンドラの鎖が解けたら次の罠に吹き飛ばしてくれ」
「任せて」
「そうならないように俺達も頑張らないとな」
「ああ」
「うん」
「鎖があるからと油断するなよ」
「そうですね」
「分かってるよ」
「クア」
「さあ、戦いの始まりだ」
まずはツンドラが動けない間にできるだけ攻撃したい。
油断していた最初が一番のチャンスだからだ。
シン達は急いで近付く。
が、罠だと気が付いたのかツンドラは暴れるのを止めると鯨のような野太い声で遠吠えをあげた。
「なんだ…?!」
その声と同時にツンドラの周囲から白い霧と共に冷たい冷気が溢れ出る。
すると、ツンドラの周りは大きな氷の壁に囲まれ本人を守った。
「クソ…シン、あの壁何とかなんねえか?」
「やってみる!」
シンはゴウキに言われサニアを薙ぎ払う。
と、氷は思いの外簡単に砕けた。
が、しかし、その間に鎖を解いたツンドラがシン達を凝視した。
「ガルウウ…」
赤み瞳がシン達を睨み、鋭い牙からは白い息が漏れ出ていた。
その様子は普通の生き物ではなく、何か伝説上の怪物のような見た目だ。
そして、そんな怪物は自分で作った氷の壁を壊すとシン達の前で威嚇をする。
と、冷気がシン達を通り抜け、体に軽く霜が付いた。
「冷たっ…」
「ヘッグシ!」
あまりの急激な温度変化に皆が寒気を感じる中、この男だけは違った。
「クックック。おいおい、危獣のツンドラさんよ〜。俺がどこ出身か忘れたのか?」
ゴウキはそう言うと刀を二本構える。
「俺は雪国、グレイシア出身だぜ? この程度で怖気付くわけにはいかねえぜ!」
その瞬間、ゴウキが一人で駆け出した。
「おい、ゴウキ!」
「作戦は考えてきたのと同じでいい。俺がこいつの注意を引くだけだ。後はレイオーネ、頼んだぞ!」
「大丈夫か?」
「任せて」
「いつも振り回されてばかりだな…」
「ですが頼りになるのもまた事実です。我々は今まで通り、考えてきた作戦を」
「ええ」
と、そんな会話をしているとツンドラがゴウキに向かって白い冷気のブレスを吐いた。
すると、そのブレスに触れた地面は一瞬にして凍っていく。
「こりゃあ寒いじゃ済まないな。気を付けねえと…」
ゴウキはツンドラの攻撃を空中に避けて躱す。
すると、ツンドラはそれを見て空中にいるゴウキの周りに無数の氷の槍を作り出した。
「周りの空気を一瞬で凍らせてるのか…」
冷静に周りを見る。
「なら、安全な場所はないか…」
その時、ゴウキへ周りの氷槍が一斉に攻撃を始めた。
が、
「ただの氷ならサニアで壊せるぜ」
「俺様に任せろ!」
「クア」
「突っ走るのはあんたの悪いところね」
シン達がその攻撃を防いでみせた。
「何言ってんだ。俺にはお前らがいるんだから、自由気ままでいいんだよ」
「物は言いようだな」
「今のうちツンドラ自身を攻撃しましょう」
エルフィンとコナンがツンドラへ近付く。
と、それに気が付いたツンドラは再び冷気で全員を吹き飛ばそうとしたが、それは一発の銃声と共に防がれた。
「そうはさせない」
レイオーネの弾丸はツンドラを吹き飛ばし、次の罠が仕掛けてある場所まで移動させたのだ。
すると、最初と同様、鉄の棘付き鎖が全身を縛り付け、ツンドラの動きを止める。
「ガーーーー!!!」
威嚇の咆哮と共に冷気が全身を突き抜けるが、シン達は一歩も引かない。
それどころかゴウキ、エルフィン、コナンがツンドラの元まで押し迫り攻撃の準備をしていた。
「毒が効けばいいのですが」
「まずはお前の血を吸い取らせてもらうぞ」
「先制攻撃だぜ」
次の瞬間、三人の攻撃がツンドラを攻撃し、大きなダメージを負わせることに成功した。
「まずは最初の作戦は上手くいったな」
「うん」
ツンドラにダメージを与え、毒とエルフィンに血の吸収をさせるのが最初の作戦だった。
これによってある程度戦いが長引くことになっても有利に事を進めることができる。
「後はこいつがどれぐらい体力があるのかだな」
と、その時、ツンドラは全身に鉄の鎖が巻き付いているにも関わらず強く地面を蹴って遥か上空、視界のその先へと消えていく。
「逃げるつもりか!?」
「いや、今まで危獣は何かから逃げるなんてしたことない筈だ。なぜなら逃げる必要のあるやつなんかにあったことがない筈だからな」
「てことは…」
「レン! 準備しておけよ」
「わ、分かった!」
レンがリナザクラを構える。
すると、その時、吹雪によって視界が悪かった上空から何かが地面へ降ってきた。
それはシン達から少し離れたところで、狙って逸れたという感じではなかった。
と、そう思っていると、一つ、また一つと何かが地面へ降り注ぐ。
そこでシン達は気が付いた。
氷が無数に空から落ちてきており、まるで氷の砲弾が打ち込まれているような状況だった。
「これだけの大きさと数の氷の塊を作れるのは流石危獣と言わざるを得ないな」
「感心してる場合か」
と、その時だった。
ゴウキの真上から氷ではない何かが降ってきていた。
「来たな」
ゴウキはそれが分かるとポケットから大剣を取り出す。
そして、それを唐突に現れた拳が持つと地面へ突き刺した。
「突き裂け!」
すると、降り積もった雪から鋭利な固い岩がゴウキの真上にいる何かに向かって伸びていく。
ここでゴウキの上にいた何かが地面を蹴って消えたツンドラであると姿が見えてはっきり分かった。
ツンドラはゴウキに狙いを定めるとその鋭い爪で邪魔な固い岩を粉砕。
そのままの勢いでゴウキへ落下する。
「レン、頼む!」
「うん」
落下してきたツンドラはゴウキへ爪を突き刺そうとするがそれをレンのリナザクラで受け止めた。
すると、ツンドラの重さも相まって凄まじい威力になった攻撃はレンをその地面ごと陥没させる。
それによって足場が悪くなるが、その時リナザクラの反射の能力が発動し扇面が光った。
次の瞬間、ツンドラの攻撃した方の左手が弾かれると、それに引っ張られるように全身も弾き飛ばされる。
それから巨体が宙に浮き、何度か回転すると地面へと投げ飛ばされるような格好で着地した。
「レン! 大丈夫か!?」
「うん!」
シンに答えるレン。
と、その時、吹き飛ばされて体勢を崩していたツンドラ目掛けてサレサが電撃で攻撃を仕掛けた。
電撃はツンドラへ一直線に向かっていき、そして、そのまま巨体を感電させる。
電撃によってツンドラの体からは黒い煙が立ち上り、全身の痙攣が続く。
「次の罠に吹き飛ばすから準備して」
レイオーネはそう言うと走り出してツンドラを罠へ吹き飛ばせる位置まで移動し始めた。
「俺様の出番だな」
グラートは戦斧を構えながらその時を待つ。
と、レイオーネは移動を終えるとその位置でツンドラに向かって引き金を引いた。
痙攣していたツンドラはそのまま吹き飛ばされると、その場所には仕掛けていた次の罠がありそれが作動した。
罠の仕掛けは同じで鉄の棘が付いている鎖の罠だった。
「ガアアアア!!!」
ツンドラの低い威嚇の声が響き渡る。
「よし、順調だ。この調子ならいけるぞ」
「この調子ならな」
エルフィンが言う。
すると、次の瞬間、ツンドラの周りが白い煙で覆われていく。
「なんだ?」
「何かする気か…」
全員が身構える。
すると、次の瞬間、天へ向かって大きな咆哮を叫ぶと、それと同時にツンドラを縛っていた筈の鉄の鎖が簡単に砕け散った。
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