201話 積雪の砂漠
危獣の一匹である黒狼ゼルクによる被害は甚大で、フィオラントの街の約半分が崩壊。
死者も街の被害に比べれば少なかったが、決して少ない人数ではなかった。
それに加えてゼルクの黒炎の処理が大変で、通常の炎とは違い水で消そうとしても消えないのでゴウキが街の隅々まで壺の神器で黒炎を回収するという手間もあった。
その為、結局シン達は四日程フィオラントの復興に時間を費やした。
それから現在、シン達はフィオラントを出発し、フロリアが言っていた通りトレミアムに居るという氷兎ツンドラの元へ向かっていた。
(これで危獣は残り三匹。被害がないわけじゃなかったけど今のところは順調と言ってもいいと思う。これから後三匹……何もないことを祈りたいけど…)
ルネイリアの自分の部屋にあるベッドの上で一人考え事をするシン。
すると、その時、部屋の扉がノックされる。
「シンお兄ちゃん居る〜?」
「サレサか? どうした?」
シンはベッドから起き上がると扉を開ける。
すると、そこにはサレサとレイオーネの二人がいた。
「おお、レイオーネもいたのか」
「私は基本サレサと一緒に居たいから…」
「えへへ…」
照れくさそうなレイオーネにデレデレなサレサ。
(この二人は本当に仲が良いな。最初にレイオーネと会った時はまさかこんなことになるとは微塵も思わなかった)
「それで、何か用か?」
「うん。『一度話をしておきたいからサレサ、お前シンを呼んでこい』ってゴウキが」
「ああ」
サレサがゴウキの真似をしながら言う。
(てことは作戦会議か)
「分かった。行くよ」
「うん。一緒に行こ〜」
ということでシンは二人と一緒にいつもの会議室へと向かう。
(そういえばあのレイオーネの神器は凄かったな。どんな神器なのか聞いてみるか)
「なあ、レイオーネ。あの銃剣の神器。あれ弾なんてなかったろ? 弾丸はどうしたんだ?」
シンが聞くと前を歩くレイオーネはシンを一瞥だけする。
(あんまり話したくなかったか?)
シンは聞いたことを少しだけ後悔すると、レイオーネが口を開いた。
「あの神器は自分の精神状態が関係する弾丸が撃てるみたいなの」
「精神状態? どういうことだ?」
「アレは自分の精神…覚悟の強さによって弾の威力が変化するっていう変わった神器なの。だから何も考えずに撃ってもあんまり強くない。でも自分の気持ちには応えてくれる神器だと思う」
(そんな神器もあるんだな…精神状態がその神器の性能に関わるなんて考えたこともなかった)
「私はこの神器でみんなを守りたい」
「…そうか。頼りにしてるよ」
「うん」
それから三人はいつもの会議室に入る。
すると、既に全員集まっていた。
「お、来たな」
「待たせたな」
「ワシも今来たところだ。急だったからの」
「まあ、席に着いてくれ。どうせゴウキのいつもの作戦会議だ。長くなる」
「そうだな」
それからシン達は適当に席に座る。
と、ゴウキが口を開いた。
「さて、それじゃあこれより次の危獣、氷兎ツンドラについて作戦会議をしていく」
「黒狼ゼルクからまだ数日だというのに。忙しいものですね」
「時間がないからな。体を休めたい気持ちは分かるが頑張ってくれ」
「あんなのが後三匹もいるのか…気合い入れねえとな」
「その意気だ。でだ、氷兎ツンドラの分かっていることについて情報を共有しておく。まずツンドラは吹雪を起こすことができて、土地を凍らせる程の冷気を扱える危獣らしい」
「ゼルクのことも考えるとかなりの広範囲に影響を及ぼすと考えて間違いないだろう。そこでだ。実は既にツンドラがいるっていうトレミアムの状況をウォーマットに確認してもらった」
「ゼルクの時と同じか」
「ああ」
「では、ここからはワシが話すかの。トレミアムの現状は異常気象といった感じかの」
「異常気象ですか?」
「ああ。トレミアムは元々暑い砂漠にある町だ。だが、それが今ツンドラの影響で吹雪が止まず、凍える寒さまで冷え込んでいる」
「これによって住んでいた住民は避難を余儀なくされ、そこにいた生き物達も逃げるか凍死するかになっておる」
「ゼルクは黒炎を使いたい時だけ操っていたように見えたけど、ツンドラの場合は近くにいるだけで影響があるんだな?」
「そのようだな」
「てなわけで、現在トレミアムの近くには人は疎か生き物さえいないという現状だ。俺達の戦いで犠牲者がでないのは不幸中の幸いってわけよ」
「それはいいことだと思うけどよ、そんな天候まで変えるやつとどうやって戦うつもりだ?」
「フッフッフ。よくぞ聞いた! 俺が華麗なる作戦をお前達に教えてやる!」
自信満々のゴウキに全員が訝しげな視線を向ける。
すると、ゴウキは咳払いをして続けた。
「ツンドラは吹雪を起こしてることからも冷気を操れるのは明白だ。そこで俺は考えた。名付けて、『凍らされるなら離れておけばいいじゃない』作戦だ!」
「「「……」」」
ゴウキの作戦名を聞いたみんなは何も言わない。
「えっと…名付けて!」
「言わなくていいわよ! 何よその名前!」
「いや、これにはちゃんと理由があってだな…」
「内容はどうであれ、名前がダサい」
「うんうん」
「同意だ」
「グヌヌ。と、とにかく内容を聞いてから判断してくれ」
「まあ、聞いてやろうではないか」
「そうだな」
「ええ」
「いいか? 冷気を使う魔物ってことは近付いたら凍らされて死ぬ可能性だってあるわけだろ? だったら少し離れたところからチクチクと攻撃した方がいいだろ?」
「それでツンドラを倒せるならいいだろうが、遠距離からの攻撃が通用しなかったらどうするんだ?」
「ん〜遠距離はレイオーネとシン、サレサがいる。俺とグラートも遠距離から攻撃できなくもないが、俺は結局手は近付くことになるし、グラートのも冷気を使う相手に氷の能力を使って効果があるとはあまり思えない。となると、必然的に最初の三人が主軸になって戦うことになるわけだが…」
「俺は思った。いや待てよ。レンのリナザクラの力がアレばもし三人の攻撃が通用しなくてもリナザクラの反射の能力でいつも以上の攻撃ができるのでは、とな」
「それはできるとは思うけど…」
ゴウキの作戦に乗り気ではないレン。
それもその筈。
もし何かミスがあればレンの身に危険が及ぶのが確定するからだ。
そう思ったレンだったが、もしもの時の覚悟はしておかなければと思い、
「分かった。それじゃあそれは最終手段ね?」
そう言った。
「いいのか?」
シンが聞く。
「うん。私も世界を救う役に立ちたいし。それに」
と、レンはそこまで言うと少しだけ間をおいて、
「みんなが付いてる、でしょ?」
そう言った。
すると、全員がコクリと首を振る。
「今回の作戦は相手がどこまで冷気を使いこなしてくるのか分からない。全身に冷気を纏っているのか、それとも口から冷気のブレスを吐くのか。実際にツンドラに会うまでは運任せだ。本当はウォーマットの神器で分かればもう少し作戦の立てようもあったんだがな」
「だが、どの場合でも対応できるようにできる限り俺ができる作戦を考えておいた。余程のことがない限り、最悪の事態にはならなと思ってる。俺達は自分ができる最大限をやるだけだ」
「そうだな」
「氷兎ツンドラの近くまで後少しだ。みんな防寒着を持って寒さ対策だけはしておけよ。んじゃ、とりあえず一旦解散かな」
それから解散するとシン達はトレミアムに着くまでに戦いの準備を済ませた。
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