200話 危獣黒狼ゼルク 後編
目の前からいきなりゼルクが消えた。
ゼルクの速さは想像以上で目で追うのは中々至難の業だった。
だからなのか、ゼルクはその速さを活かし奇襲のような形でシン達を襲っていた。
「またか」
「誰かと必ず背後になるように背中を合わせるんだ」
(早い。自分のところに来てやっと何とか姿が分かるぐらいだ)
シンがそんなことを思っていると、目の前にゼルクが現れる。
「っ!」
シンはサニアを使って斬撃を飛ばし追い払おうとするがゼルクはそれを躱して噛み付く。
「くっ…?!」
シンはイニルも使ってそれを何とか受け止めるが、獣と人では力に差があるのか段々と口が閉じていく。
それに加え、ここまで近いと黒炎がシンにまで飛び火し、体を黒炎が蝕んでいった。
「はああああ!」
それを見たレンが蹴りでゼルクを攻撃するが、その時には噛み付くのを止めて再び姿を消していた。
「大丈夫?」
「ああ」
心配するレンがシンへ駆け寄る。
「黒炎で足が焼かれるぞ?」
「大丈夫。ゴウキがいれば黒炎は何とかしてくれるし、傷は治るから。私はシンのことの方が大切だから」
「お、おう」
と、その時、今度はグラートのところへゼルクが現れた。
「おお?! グヌヌヌ…力強いなコイツ…」
戦斧でゼルクの爪を受け止めながらジリジリと後ろへ押されるグラート。
「大丈夫か」
そんなグラートを見たエルフィンがゼルク目掛けて逆袈裟斬りで攻撃する。
すると、またゼルクはその攻撃を避けてまた姿を消した。
これで既に四回もこのやり取りが行われており、最初は黒炎を吸い込める壺を持っているゴウキが狙われ、それをコナンが助け。
二回目は自分を吹き飛ばすぐらいの威力を持つ銃剣を持っていたレイオーネが狙われ、それをサレサが助けていた。
そんな攻防も次で五回目という時、事件は起こった。
「アオーーーーーン!!!!!」
辺りが空間ごと震えるようなゼルクの大きな遠吠えが響いたのだ。
その遠吠えはまるで何かをこれから仕掛けようとする開戦の笛のようだった。
そして、次の瞬間、地面が大きく揺れ始めた。
シン達は何が起きるのか分からず戸惑っていると、次の瞬間、地面に亀裂が入りそこから黒炎が吹き出した。
「この場所ごと黒炎で埋めるつもりか」
「常に吸い込んでないと間に合わないな」
ゴウキは壺の中へ黒炎をどんどん吸い込んでいく。
「これじゃあ近付く前に黒焦げだぞ!」
と、その時、ゼルクが姿を見せてレンへ攻撃した。
「なら、その前に倒す」
レイオーネが銃口をゼルクへ向ける。
そして、引き金を引くと一発、二発とゼルクへ命中させていく。
着弾すると体はどんどんとその衝撃によって後方へ下がる。
それでもレイオーネは撃つのを止めずに四発、合計六発の弾丸を撃ち込んだ。
「ありがとう」
「うん。でも私の神器は少しの間使えない。だからこれからまた使えるようになるまで遠くにいるゼルクは狙えないかも」
「速すぎるからな…」
「なら、ここは俺の出番だな」
グラートがそう言って前に出る。
「俺の氷で無理矢理動きを止める。その間に攻撃してくれ」
「お前も無茶を…ゴウキと同じで後先をあまり考えないようだな。いけるのか?」
「ああ。俺に任せておけ!」
「だそうだ。幸い、俺達の攻撃はゼルクに通用することが分かっている。後はどうやってやつを仕留めるかだ。グラート、任せたぞ」
「おう!」
エルフィンに言われグラートは戦斧を構える。
「掛かってこいや、ワンコロ!」
すると、ゼルクは一瞬姿を消す。
そして、次現れた時にはグラートの背後をとっていた。
「!」
グラートは戦斧を薙ぎ払う。
と、ゼルクはスレスレでその攻撃を躱すとグラートへ爪を突き刺す。
すると、
「ここは俺が」
エルフィンがその攻撃を防ぐ。
「あんがとよ!」
グラートが地面へ戦斧を突き刺すと氷が地面を伝っていきゼルクの足を凍らせた。
「今しかない、みんな!」
全身を黒炎で覆うゼルクにシン達は総攻撃を仕掛ける。
動けなくなったゼルクはその場から離れようとするが、侵食するようにどんどん体まで凍っていく為それができなかった。
次の瞬間、やっとの思いでゼルクへ致命傷となる攻撃をすることに成功したシン達。
体からは血を大量に流し、それだけでなく口からも血を大量に流す。
明らかにダメージが蓄積されているのは見てとれた。
「ここまでやれば後はもう少しだ」
その時、ゼルクが黒炎で全員を吹き飛ばす。
「クソ…今吸い込むから待ってろ」
ゴウキが急いでシン達から黒炎を吸い込む。
と、その間ふらふらのゼルクは全身から黒炎を溢れさせる。
「なんかする気か?」
すると、ゼルクは天に向かって遠吠えをする。
次の瞬間、黒炎が地面から溢れでて、それが辺り一帯に広がった。
「このままだとこの街ごと黒炎に呑まれるな…」
「これ程の被害が他の街で起これば町や村は黒炎に完全に飲まれて消える。それはなんとしても阻止しなければ。ここでコイツを仕留める」
「結構弱ってるみたいだし、全員で一気に攻めるか?」
「それしかないだろうな」
(これ以上は街が崩壊する。今でどれぐらいの人が犠牲になってるか分からない。ここでコイツを逃がすのが最悪なケースだ)
「やろう」
シンが言うと全員が首を縦に振る。
全員、やる気は十分だ。
と、その時、
「よし。これで俺達の黒炎は大丈夫だ。後はまたゼルクに攻撃できればいける筈だ」
「ここが正念場だな」
「やりましょう」
「うん」
「頑張ろうね」
「クア」
「それじゃあ行くぞ」
「「「うん」」」
シンの掛け声と共に全員がゼルクへと駆け出す。
それを見たゼルクはシン達へ視線を向けると自ら迫ってきた。
そして、飛び上がるとシン目掛けて爪を突き刺す。
シン達はそれを避けるとゼルクの爪は地面に突き刺さり、そこから噴き出るように黒炎が溢れ出た。
(アレに突き刺されたら多分死ぬだろうな。絶対に喰らえない)
と、地面へ空振りをしたゼルクへゴウキとグラートが迫る。
ゴウキの大剣とグラートの戦斧が同時に挟み込むような形でゼルクの側面を捉える。
が、その攻撃は空中に逃げて回避するゼルク。
しかし、そこにはそれを見越していたかのようにエルフィンとコナンが待ち構えていた。
二人は武器を突き刺すことでゼルクを仕留めようとする。
が、それを察してかゼルクは体の一方方向から黒炎を放出するとそれによって二人の刺突を躱した。
空中で黒炎を使って攻撃を器用に避けたゼルクだったが、シン達の攻撃はまだ続いた。
躱したその先、そこにはシンとレンが待ち構えていたのだ。
それを確認するとゼルクはすぐに警戒する。
そんな警戒しているゼルクにシンはサニアで超至近距離での斬撃を。
レンは自慢の脚力を使ってゼルクへ攻撃を仕掛ける。
すると、二人とも至近距離というのを理解してか体の周りに纏う黒炎の量を明らかに増やすゼルク。
この一瞬でその判断ができるゼルクにシンは一瞬感心しながらも、黒炎のことは気にぜずにそのままサニアをゼルクの体の左側で突き刺した。
(これでイニルも使えるようになる。ここからだ)
と、ゼルクへレンの足の衝撃が加わり地面へと突き落とされる。
少しの衝撃と共に地面へヒビが入った。
すると、そこに電撃と銃弾の追い打ちが決まった。
サレサとレイオーネが休む暇を与えまいと攻撃したのだ。
ゼルクは今までのダメージの蓄積と今回の攻撃によってか、口から大量の血を流す。
ゼルクの立っている姿勢は最初にシン達と会った時とは比べ物にならない程具合が悪そうにしおり、確実にダメージを与えられているのは見てとれた。
「やっと毒が効いてきたのかもしれませんね」
「あの血の量からいってその可能性は高いな」
「なら後もう少しコイツをやれるってことだよな」
「ここまでやってなんとかだがな」
(ゼルクの血の量や呼吸が不規則になっているところを見るとそろそろ決着がつきそうだ。周りの黒炎の被害にしたってできるだけ早く済ませたい)
「ここから後もう少し頑張ろう」
「そうだね」
「うん」
「クア」
と、その時、今まで地面から噴き出すように漏れ出していた黒炎の勢いが更に強くなり、どんどん遠くの方までそれが広がっていっているのが見えた。
「まずいな。これ以上の被害は抑えたい」
「なら次の攻防で決めるぜ!」
「だな。みんな準備はいいか?」
ゴウキのその問いかけに皆が覚悟を決める。
すると、再び全員が一斉にゼルクに向かって駆け出した。
ゼルクはというと先程とは違って今度は待ち構えるように低姿勢を維持しながらシン達の様子を伺う。
最初に攻撃したのはレイオーネだった。
銃口をゼルクへと向け、そして、すぐに発砲する。
放たれた弾丸はゼルクが躱す余地が無い程高速で、右目に着弾するとその部分が潰れる。
それがほんの一瞬で起こっている中、次に行動を起こしたのはシンだった。
サニアでイニルの為のマーキングを済ませたシンはイニルを振り下ろすことで斬撃を飛ばした。
と、これと同時にサレサが自分が出せる最大限の電撃を放つ。
すると、電撃の方が先にゼルクへと到着し、右目が潰れたことに忙しかったゼルクはこれに気付かずに体を大きく痙攣させた。
そこへイニルの斬撃が到着しその体をズタズタに切り裂いた。
「ガルオオ!!!」
悲鳴にも聞こえるゼルクの鳴き声が聞こえたが、そんなことは無視し、無慈悲な攻撃でゼルクに追い討ちをかけていく。
ゴウキ、エルフィン、グラート、コナンと二回目のシンとサレサとレイオーネの攻撃。
「はあ…はあ…」
「やったか…」
総攻撃によってようやっと動かなくなったゼルク。
「早く黒炎を吸い込むから待っててくれ」
「ああ、頼む」
「病み上がりの老体には少し堪えますな」
「レンお姉ちゃん大丈夫?」
立ち尽くしていたレンへサレサが声を掛ける。
「ああ…うん……」
と、そこに、
「レン。あなたにはまだ迷いがあるみたいね」
レイオーネがやってきてそう言った。
「迷い…確かにそうかもね…」
「今回は大丈夫だったけど、これから先も今みたいに変な同情とかしていたらいつか自分が足元を掬われて殺されるよ?」
「……」
レイオーネのその言葉に反論したいレンだったが、自分自身もその通りだと思う部分がある為言い出せない。
と、そんなレンを見たレイオーネは気を遣ってか少し気まずそうな間の後に、
「まあ、でも、その優しさはあなたの良いところでもあると思うから…だから……だから、そう。その分、私が厳しくなる」
そう言った。
「え?」
「だから、あなたはそのままでいい…ってことにする」
「…」
「誰かの短所を守ってあげられるのも仲間の…いいところだから…」
「レイオーネ……うん、ありがとう」
「じゃあ、私はこれで…」
そう言うとレイオーネはそそくさとレンから離れていった。
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