192話 危獣シャレイペル・スネーク(前編)
「うわあああああ!!!」
レンの悲鳴が穴の中で響く。
穴はそんなレンの悲鳴を更に聞ことするかのように右へ左へ、クネクネと曲がりながら滑っていく。
「結構落ちてるな」
「落ちてるって言わないで〜!」
レンの悲鳴は穴を滑っている間ずっと続いた。
「はあ…はあ…はあ…」
「大丈夫か?」
ようやくとある場所へ出たレンの表情は青ざめている。
「レンお姉ちゃん大丈夫? ずっと声聞こえたけど…」
「大丈夫じゃない…」
「高いの苦手なの?」
「そうだよ。レンお姉ちゃんは高い所に行くと足がガクガク震えちゃうんだよ」
「へえ。そういえば上でもそんな感じだったかも」
「でもだからってシンお兄ちゃんに抱き締めてもらわないとダメなぐらいなんて大変だね」
「こ、これは違うって言うか…」
「ンンッも、もう大丈夫だろ…」
シンはそう言うとレンから離れる。
「せっかくだからもう少し抱き締めてあげた方がいいんじゃない?」
「いや、それは流石に恥ずかしい…」
と、その時、
「よっと。おお、やっぱりレンはダメだったか。予想はしてたが」
ゴウキがやってきた。
「ここは…随分と広い場所に出たな」
周りを見ると全て幹でできた広々とした空間に大きな木が一本だけ生えていた不思議な場所。
本来なら暗闇になっていそうなこの場所だが、どういう訳か幹が薄い黄緑色で光っている為明かりは必要なさそうだ。
「サレサ、ここからどうすればいいんだ?」
「そんなこと言われても…」
「まだ、サレサの言っていた何かは追ってきているのか?」
「多分…」
「そうか…なら、早くここから出た方が良さそうだな」
「ああ」
「……一本だけ生えた木が気になるところだが…まっ、それはいいか」
「向こうに出口があるそこまで行って…」
と、その時、
「遂に来やがったか?」
ゴウキが降りてきた入口から距離をとる。
「どうした?」
エルフィンはそう言って血刀、ティルボルグを抜く。
「追い付かれたみたい」
「みてぇだな」
サレサは魔物の姿へ変身し、ゴウキも腰から二つの刀を抜いて構える。
「追い付かれたって誰にだよ」
シンはサニアとイニルを構える。
レンもリナザクラを。
グラートは戦斧を構え、レイオーネも護身用に渡されていた剣を構える。
と、戦闘態勢のシン達の前に現れたのは一匹の魔物。
大きな樹木の幹の体に緑色の目を持つその魔物はシン達を見るととぐろを巻いてその長い全長を小さく納める。
「こいつは…!?」
「シャレイペル・スネーク?!」
「てことは危獣か?!」
「っ……!」
シャレイペルは何度も木の舌を出し入れする。
その様子は獲物を捕捉する前の準備のように見える。
「クア……」
「大丈夫?」
魔物としての本能なのか、シャレイペルを前に体が震えているサレサ。
「随分とタイミングバッチリじゃねぇか! 危獣のことを調べようとしていたら危獣に会うって、そんな訳ねぇよな! てことは俺達の仮説は合ってたってことだろう?」
グラートが前へ出ながら言う。
「ああ。間違いないだろうな」
(つまり、こいつがここに居ることが黒幕はアセフの言う裏切り者の神だということだ。そして、こいつは俺達の敵だ)
「こいつが危獣か…面白そうじゃねぇか」
ゴウキがグラートの横に並ぶ。
「ねぇ、シン。どうする? こいつから逃げる?」
「逃げれるなら逃げたいけどな…」
(前の時とは違って俺達を獲物として認識しているみたいだし、どこまでも追ってくるだろうな。なら、ここでみんなで戦った方がいいかもしれない。ここならエルフィンも刀を十分に使える筈だ)
「逃がしてくれるようには思えないよ?」
「クア」
「だろうな」
(一応、結構奥の方に出口があるけど…)
と、その時、だった。
樹木が擦れるような音が聞こえたかと思うとこの部屋唯一の出口が樹木によって蓋がされた。
「これはダンジョンの所為なのか、それともこいつの能力なのか。まあ、どちらにしろやるしかねぇみてぇだな」
「危獣が何かよく分からないが、とりあえずこいつを倒せばいいんだろ!」
そう言うとグラートがシャレイペルへ走っていく。
「おい! 危険だ!」
「負けるわけにはいかねえぜ!」
「ゴウキ! お前まで…」
走り出したグラートとゴウキは一気に距離を詰めるとシャレイペルを挟み撃ちにする。
「俺の神器をくらいやがれ!」
「おらよ!」
グラート、ゴウキがシャレイペルへ斬り掛かる。
が、斬り掛かられている当の本人は躱す素振りすら見せない。
すると、案の定グラートとゴウキの神器がシャレイペルの樹木の体に傷を付ける。
「おっしゃー!」
「妙だな…」
次の瞬間、シャレイペルに付けた筈の傷は回復し、元通りになった。
「再生の能力か」
「ええー!?」
「面倒だな…」
「再生するなら倒せないぞ…」
「どうすればいいの…」
「クア…」
困惑するシン達。
しかし、
「いくら危獣というバケモノでも生きてる生物である以上は限界がある筈。無限ではない、と思う」
レイオーネは冷静に語る。
「じゃあ、こいつが再生しなくなるまで攻撃し続けろってか? そんなの無茶だぜ!」
「でもやるしない。その過程で何か弱点が見つかれば限界まで戦わなくてもいい」
「弱点か…それは確かにな」
(まずは戦うしかないってことか)
「ならやることは決まったな」
「とにかく斬る!」
グラートが再びシャレイペルを攻撃する。
「…やるか」
(まずは色々手探りでやってみよう)
それからシン達の総攻撃が始まった。
グラートとゴウキの攻撃から始まり、エルフィン、シン、レン、レイオーネ、サレサも攻撃に加わる。
斬撃、打撃、電撃などあらゆる方法でシャレイペルの弱点を探る。
が、しかし、
「これだけ攻撃してもなんの反応もなしかよ…」
シャレイペルはなんの反応も示すことなくその場に留まっている。
「ここまで攻撃してなんの反応もなしか…」
「暇すぎて俺の真似してんじゃねえよ!」
ゴウキにツッコミを入れるグラート。
「どうすればいいの…」
「切っても、殴っても、雷もダメか…ゴウキ、何か変わった神器はないのか?」
「神器だ? んー…」
「燃やしてみるのは? お酒さえあればどうにか燃やすことはできるかも」
「炎か…やってみるか」
それからゴウキは収納できるポケットの神器から酒を取り出す。
「誰かライター持ってないか?」
「それなら私のを使って」
「おっ、あんがとよ」
レンが投げたジッポータイプのライターを受け取るとゴウキは口に酒を含む。
そして、次の瞬間、霧吹きのように広範囲に酒を撒き散らしながらライターで引火する。
それがシャレイペルを襲う。
「どうだ」
「やったか?!」
しかし、皆の期待は虚しくシャレイペルに特に変わった様子はない。
「ちくしょう…火もダメか……クソッ!!! 俺の酒が…!!!」
「お前な…」
いつも通りのゴウキの様子に呆れるエルフィン。
「なあ、やれることはやったぞ?」
「そうだね…」
「……」
(俺やエルフィンの斬撃もダメで、レンの打撃もダメ、サレサの雷もゴウキの炎もダメ。まあ、グラートの戦斧は氷もあるが効いてる感じはない…参ったな。出入り口も塞がれてる訳だし、このままだと野垂れ死ぬぞ)
「何も効果がないから動く必要すらないってことなのかな」
「ふう…ねぇねぇどうするの?」
人の姿へと戻ったサレサが言う。
「コナンが居てくれれば毒が効くか分かるんだがな…生憎毒は解毒しかできねぇ…」
「俺も血が無ければ自身を強化することもできない。血が出ないこの危獣は相性が悪い…」
「おいおい! どうすんだよ!」
「ちょっと落ち着いて! どうせこの危獣は動かないんだから無理に体力を消耗する必要ないでしょ? 作戦会議をしましょう」
「作戦か…」
(何か思い付けばいいけど…)
「なら、俺抜きでやっててくれ。俺はこいつの見張りがてら新しい神器の能力を調べる。最高のカカシが居るしな」
「ええ…もう…勝手なんだから…」
「ゴウキに任せよう。それよりどうするかだ」
「そうだな」
それからゴウキを除いた全員で作戦会議を始める。
「もし本当に攻撃しても意味がないのならあの出入り口を集中して攻撃した方がいいと思うが、みんなはどう思う?」
「俺もそう思う。このままだとこっちが先に野垂れ死ぬことになりそうだしな」
「うん…」
「あの危獣? は死なないのかな?」
「……分からないけど…」
と、そこでシンはとあることを思い出した。
(たしか前に初めてあの危獣を見た時、フロリアが不老で"ほぼ"不死と言っていた。だとすると、アイツを殺す方法はある筈だ。というか、今思えばどうしてそんなことをフロリアが知ってるんだ? いや、それは後だ)
「思い出したことがある。前にフロリアにあの危獣について聞いたことがあったんだけど、その時にフロリアは不老だけど、ほぼ不老って言ってたんだ」
「ほぼ? ということは殺すことはできるということか?」
「思い出した! あの海の底のダンジョンの時だよね! なら、何か方法があるのかも」
「方法って?」
「それは…分からないけど…」
「でも、どうにかすれば殺す方法があることは分かった。これだけでも選択肢は広がった」
「んじゃあ、アイツを殺すのか? でも俺達のやり方じゃいつまで経っても殺せる気がしないんだけどよ…」
(何かないか……斬撃、打撃、炎、雷、氷……くそ…毒が効くかもしれないけどあの巨体に効く毒なんて持ってないし…)
「よっ! とっ! はあ!!!」
考え込んでしまったシン達の耳にはゴウキの戦っている声のみが聞こえる。
「そもそも殺す方法があったとしても俺達がそれを実践できないとダメなんだぜ?」
「そうだな…そうなるとゴウキの神器頼りになるが…」
と、その時、
「おい! なんなんだこの剣は?」
ゴウキが堪らずといった感じで言う。
「どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもねえよ!」
「?」
「もう斬れ味が落ちてきやがったんだよこの剣…」
その剣とは一番最近ゴウキが貰った業剣ソルエッジのことだった。
「扱いが雑なんじゃないか?」
「んなわけねぇだろ。というか、この剣は金色に輝いてたのに今は銀色になってやがる! まるでメッキが剥がれた模造品みたいじゃねえか! フロリアの奴め…神器じゃないの渡したのか…?」
「ダンジョンを攻略した報酬が神器だ。なのに偽物な訳がないだろう。その神器には何か条件があるんだろう」
「てことは室内じゃ使えないのか…? トホホ……」
ガクッと項垂れながらゴウキは渋々ソルエッジをポケットへしまう。
「なあ、ゴウキ。何か今までにない神器はないか? 普通の方法ではこいつは殺せないかもしれないんだ」
「んなもんある訳ねぇだろ…」
「……そうか」
「俺達ここで一生過ごすのか…?」
「ええ?!?!」
「このままだとね」
「……」
(どうする…)
「クソ…おい誰か交代してくれ。俺は諦めて入口を攻撃してくる」
「分かった。なら、俺が代わるよ」
(といってもサニアとイニルが意味無いことは確認済みだからな。こいつの再生する力には無力…………いや、待てよ…)
「待った。試したいことがある」
「ああ?」
「どうしたの?」
(そうだ。俺には普通じゃない神器があったじゃないか。それもこいつの再生能力を無効化できそうな神器が)
「こいつの能力を使う」
そう言って掌を見せるシン。
「そっか!」
「ん? 何が?」
「この手袋は生命力を奪う力があるみたいなんだ。そして、こいつのこの再生能力は生命力の塊みたいなもんだろ?」
「なるほどな」
「そんな便利な神器があるなら先に言えよな? たくよ」
「忘れてた。こんな相手見たこと無かったからな」
そう言うとシンはシャレイペルに近付く。
「なんかどうにかなりそうみたいだな!」
「クア!」
みんなが戦闘態勢に入る。
と、次の瞬間、シンが両手でシャレイペルの体へ触れる。
すると、
「シュウグゴゴゴゴ!!!」
なんとも聞いたことがない木が擦れた音と空気が抜ける音が合わさったような鳴き声と共に暴れ出した。
「くっ!」
シンはその勢いで弾かれる。
「どうやらシンの神器はこいつに聞くみたいだな」
「ああ。こいつもやる気みたいだ」
シャレイペルはシンを睨み付けるようにじっと視界に捉えると喉にあたる部分から木が擦れるような音を鳴らした。
見てくれてありがとうございます。
気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。




