189話 昔話
「ここがユグラシア大図書館だ」
「「「へえ…」」」
案内されたそこには世界樹の一部を切り抜き、大きな部屋のようにしている場所だった。
「なんでこんな所に図書館を作ろうと思うのだろうか」
「さあな。ま、情報が手に入るかもしれないのはありがたい。早速中に入って…」
と、その時、
「ようこそおいで下さいました」
長身で背丈ほどの長いコートに身を包み、長い茶髪の髪を後ろで一本に纏めた男が話し掛けてくる。
「ユグラシア大図書館は初めてですか?」
「あんたは?」
「申し遅れました。私はここの案内人をしているノインと言います」
「それでどうして俺達に声を掛けた?」
ゴウキが訝しげな表情で聞く。
すると、ノインはそれで察したのか少しだけクスッと笑いを漏らすと、
「声を掛けたのは見たことの無い方が居たからです。後は私が居ないと見つけたい本を探し出すのは至難の業なので。何か知りたい情報があるのでしょ? 先程聞こえてしまいまして」
「……まあ、その通りなんだが…分かった。警戒の度合いを少し下げよう」
「それはありがとうございます。それで、知りたい情報とはなんでしょうか? ここには世界のあらゆる情報、知識があります」
「我々は石化についての情報を知りたいのですが、何か分かりませんか?」
「石化…ですか? また、珍しいですね。いくつか心当たりはありますが…でも、どうして石化の情報を?」
「実はグレイシアの東側のとある地域が石化したという情報が入ってきまして、それで」
「知らべていると…なるほど。石化に関しては童話が多いのですが、他に何か気になるところはないですか?」
「ワシは神器で調べることができるのだが、石化については何も情報を手に入れられなかった。これは神器やダンジョンの情報と同じように調べられないようにされているのだ」
「神器…ダンジョン…つまり、既に石化の情報は調べようとしたということですね?」
「そうだ」
「でも、それはできなかった…であれば、神器かダンジョンということになりますね…」
と、そこでノインは考え込む。
「私が知る限り、一応全ての書物に目は通していますが石化に関する神器は無かったと思います。ですが、今の話を聞いて思い出した話があります」
「思い出した話?」
「ええ。実際に本を見てもらいます。ここで話すのもなんですから中に入ってください。座りながら話しましょう」
「思い出した話ってなんだろうな」
「うん。何か分かるといいね」
シンとレンはそんな会話をして、ノインの後を付いて大図書館の中へと入った。
中に入ると四方八方を本で囲まれた部屋がお出迎えした。
「こっちです」
そう言うとノインは一目散に何処かへと向かっていく。
「なあ、さっき全ての書物に目を通してるって言ってたけどよ、これ全部見たのか…?」
「ええ。私は読むのが早く、大体一度見れば覚えているので」
「ええ…頭どうなってんだ…?」
「ちょっと? 口が悪いわよ?」
ゴウキを叱るレン。
「では、私は今から関係ありそうな本を取ってくるので一時間ぐらい待っててください」
「一時間!?」
「ここはご覧の通り広いので」
中は螺旋状に上下に続く階段がある。
びっしりと本が置いてあり、何処に何があるかなんて分からない。
「……分かったよ」
ゴウキはカクっと体から力が抜ける。
「折角だし色々見てみようよ!」
「そうだね」
「本か…最近は資料ばかり見ていたからな。リネオスの歴史でも調べるか…」
「ワシはここで座っとる。老体には過酷な場所じゃ」
「シンはどうする?」
「本か…あんまり好きではないけど…」
(何か調べたいものなんてないけどな…強いて言うならアセフやフロリアについて何か調べられるかもな。探してみるか)
「ここにダンジョンについての本はあるのか?」
「ああ。それなら案内しましょう。途中にあるので」
ということでシン達はそれぞれノインが本を集めて来るまで好きに時間を過ごした。
「お待たせしました…」
ノインは持ってきた大量の本を机にどさっと置く。
「私が知っている石化に関係がありそうな本を持ってきました」
「こんなにあんのかよ…百冊以上あるじゃねぇか…」
「はい。なので、私が一番石化に関わりがありそうな本を選びますよ……これです」
「それは?」
ノインが手に取った本。
そのタイトルには『人類を襲った災厄』と書かれていた。
「随分と物騒な本だな」
「後明らかに古いだろ、その本。ボロボロじゃねぇか」
「これはここにある本の中でも特別古い本です」
「それで、その本には何が書かれているんじゃ?」
「はい。では、今から少し昔話を」
「はるか昔、世界にまだダンジョン、神器が存在しなかった頃の話。世界はたった一人の狂人の手によって滅びかけていた」
「狂人は四匹の獣を操り世界を思うがままに支配していたのです」
「四匹の獣…」
「それって…」
「危獣…か」
「察しがいいですね。そうです。話はまだ続きます」
「世界が滅びかけた時、神はこの世界にそれらに対抗する為の術を与えた。それが今の神器です」
「それから神器を手に入れた人類は何とか危獣を抑え、そして、狂人を葬りさった。狂人が居なくなった危獣は何処かへその姿を消した。こうして、世界は一時の安息を得た」
(それじゃあ、前にダンジョンで見たシャレイペル・スネークはその時の生き残りってことか)
「つまり、石化の謎はその危獣の中の一匹が原因ってことだな? でも、それならウォーマットのじいさんが分かりそうな…」
「いや…」
「俺の知っている危獣の中に石化させるやつなんて聞いたことがない」
「ああ? どういうことだ?」
ゴウキが思わずエルフィンへ聞く。
「ねえねえ、どういうこと?」
「私にも分からない」
「そう。確認されている危獣は四匹。ですが、その中に石化に関係するものはいません」
「はあ?! じゃあ、なんでこの話をしたんだよ!」
怒るゴウキを宥めるように手を前に出すと、ノインは咳払いを軽くしてから新たに本を一冊手に取った。
「私は気になっていました。この本の中で出てくるとある現象」
「現象? なんだそれ」
「これもかなり古い書物なのですがここにはこう書かれていました。とある地域にて石になった村や人を見た」
「石化したってことか? でも、それこそウォーマットのじいさんなら分かりそうだけどな」
「こればかりはワシにも分からん」
「それでその話と危獣の話はどう結び付くのですか?」
「これはあくまでも仮の、私の空想上の話です。例えば、この世界にいる危獣は元々五匹だったとしましょう」
「ですが、今世界に知られている危獣は四匹。とすると、どうして一匹減っているのか。その理由はなんだと思いますか?」
(理由? 単純に伝わらなかったから何処かの時期に消された…とかか?)
と、シンが考えていると、
「なるほどな」
「「そういうことか」」
ウォーマットとゴウキ、エルフィンが納得した反応をする。
「何が分かったの?」
「多分だけど、伝えられなかったんだと思うよ」
「伝えられない? それってどういうこと?」
サレサがそう聞くとエルフィンは言った。
「つまり、見た者は全て殺されたということだ。あまりにも情報が無さすぎる。なのに、とある地域は石化したという話だけは残ってる。それが何よりの証拠だ」
「それじゃあ、危獣は全部で五匹いて、その内の一匹が石化を使える。しかも、石化の危獣はとても危険ってことですよね?」
「ああ、そういうことだ」
「これはあくまで私の仮説です」
「いや、ワシがこれを調べられなかったということは何者かが情報を遮断していたということだ。逆に言えば調べられたくない情報だったというと。そして、ワシが調べられないということは恐らく、裏切り者の神の関係だろうということまで予測できる。こんなことができる者はそうはいない」
「だな。石化の謎はとんでもねぇ危獣ってことだ。で、黒幕はアセフの言っていた裏切り者の神だろう」
「だけど、そんな危ない危獣とどうやって戦えばいいんだ?」
「…今までの仮説が本当なら戦うのは危険だろう」
「じゃあ、このまま放っておけってか?」
「それは…」
「なら、書物と同じことをすればいいんじゃないか?」
「書物と? だが、世界を滅ぼす狂人なんて……いや、まさか…!」
「ワシにも全ては分からんが、タイミングはいいと思っておる。七つの罪人、アーク。あやつが逃げてから石化が始まった。ならば、可能性は無くはない」
「だがその本人は何処にいるか分からないんだぞ?」
と、そんな話をしていると、
「あの〜一体なんの話を?」
ノインが申し訳なさそうに尋ねた。
それから暫くノインへ今までの出来事を教えた。
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