185話 束の間の休憩
リネオス建国祭から一日が経過した。
七つの罪人との戦闘はリーダーのアーク、エドワードを逃すことになったが他の者達は捕らえることに成功した。
しかし、コナン、グラートは全身を雷により重症を追った。
他にも多かれ少なかれ怪我はあったが死者は誰も出なかった。
このことが新聞を通じて世界へ発信され、瞬く間に世界へ広がった。
「ひとまず何とかなったな」
リネオス王城にあるバルコニーにて、シンが風に当たりながら街の様子を見ているとゴウキが話し掛けてきた。
「ああ。アークには逃げられたけどな」
「まあ、アイツはそもそもちゃんと戦う気なんて無かったんだろう」
「……そうかもな」
「七つの罪人はアークとエドワードを除いて全員捕らえられたんだ。お手柄だろう」
「それはそうだな」
「……やっぱり気になるか?」
「ああ。アイツは何をするか予想がつかない」
「そうだな」
「何か情報は無いのか?」
「捕まえた奴らからは特にこれといって何も。そもそも何かある時に集まる位で常に一緒に居る訳ではないみたいだ」
「……そうか…」
シンはひとまず落ち着いたことに改めて安堵しつつも、これからのことを考える。
(フロリアの言っていた通り七つの罪人の行動はこれでかなり縮小する筈だ。アーク達の行方はこれからも追っていくとして、何かやるべきことは…)
と、その時、
「あっ、ここにいたんだ」
そう言ってレンが二人へ近付く。
「ん? 俺らを探してたのか?」
「うん。王様が話があるって」
「おお、じゃあ行くか」
「ああ」
それからシンとゴウキはレンの後を付いていく。
「何かあったのか?」
歩いているとゴウキが質問する。
「今回の報酬のこととかみたいよ?」
「ああ〜なるほどな」
「詳しい話は私も知らないから後は直接聞いて」
「分かった」
そんな会話をしていると三人は国王が待っている王の間へと着く。
すると、そこにはサレサとウォーマット、エルフィンが待っていた。
「わざわざすまんな」
国王がシン達へ言う。
「いえ」
「では、早速だが少し話をしようと思う。まずは此度の七つの罪人の件。七人の内、五人を捉えることが出来た。感謝する」
そう言うと国王は頭を下げる。
その様子にエルフィンは少し動揺したがすぐにいつも通りに振る舞う。
「リーダーのアーク、並びにエドワードには逃げられたが、今まで同様捜索を続けるつもりだ。と、ここまでは決まっているのだが、実は処遇に困っている者達がいる」
「それって…」
レンがそう言ってサレサとシンへ視線を向ける。
と、その様子を見た国王はこくりと頷き、
「皆は分かっていると思うがサーシャ・レイオーネ。そして、シンの兄、ニールのことだ」
「……」
シンは下を向き何も言わない。
と、そんなシンとは対照的にサレサは、
「私はサーシャ・レイオーネに寛大な処遇をお願いしたいです!」
そう言って自分の意見を強く訴える。
サレサはサーシャが連行される際にもこのことを言っており、それは皆が知っていた。
「うむ…サーシャ・レイオーネのことは私も知っている。確かに譲歩があってもいいかもしれないと考えている」
「が、彼女は七つの罪人としてあまりにも人々を苦しめた。それ相応の罰は必要だと考えてくれ」
「……はい」
サレサは元気の無い返事を返す。
「他の皆もそれで良いな?」
「ああ。俺はそれでいいぜ」
ゴウキがそう言うとそれに続くように皆が頷いた。
すると、
「あの…! シンのお兄さん、ニールはどうなるんですか?」
レンがシンの様子を気にしながら質問する。
と、国王は少し考えるようにう〜ん、と唸り声をあげると、
「実は私に考えがある」
そう言った。
「考え…ですか?」
「そうだ。今もニールはアークの支配下にある。それをガイモスの神器の力によって無効化出来ないかと考えている」
「なるほどな。確かに、神器によって操られてるならそれを無効化しちまえばいいってことか」
「ああ。だが、これにはガイモスに能力を使わせるという危険が伴う」
「大丈夫だ。俺達が入れば一人ぐらいならどうってことないぜ」
「そうか。それは頼もしい。して、シン。どうする? 自分の兄を元に戻すことに関して、お主の意見は?」
「……」
少し間が空く。
が、意を決した表情をすると、
「戻します。あの頃の優しかった兄へ」
「うむ。では早速準備をしよう」
「ありがとうございます」
それから小一時間が経ち、シン達は王城の地下にある監獄へ来ていた。
「ここを見てるとサニナラのダンジョンを思い出すな」
「そうね」
「ここにモンスターは居ないけどな」
「居るのは罪を犯した人間達だ」
と、そんな会話をしていると先頭で案内をしていた兵士が、
「ここがガイモスの檻です。ご注意を」
そう言って注意を促した。
「分かりました」
「とは言っても枷もしてるんだろ?」
「ええ。それは勿論。ここです」
そう言われてとある檻の前に立つシン達。
すると、中にいた一人の男が睨み付ける。
そこには七つの罪人の一人、ガイモスがいた。
「ぞろぞろとみんな揃って見物か?」
そう言いながら睨むガイモスにエルフィンが前に出ると、
「お前に頼みがある。いや、仕事と言うべきか」
「ほう…?」
「お前の神器の能力を使ってニールの洗脳を解きたい」
「ああ、アイツか。別にやってもいいが、それをして何か俺にメリットでもあんのか?」
「メリットか…メリットはないが、デメリットはあるといったところだ」
「……そうかよ。少しぐらいなんか報酬をよこせ。それでいいぜ」
「分かった。考えておこう。ということだ。君、悪いがガイモスの手錠の神器を持ってきてくれ」
「はい!」
エルフィンに頼まれた兵士がここから離れていく。
すると、
「お前、アイツの弟なんだろ?」
ガイモスがシンへ話し掛ける。
「ああ」
シンは何を話すつもりなのかとガイモスの言葉を待つ。
「俺の能力でアークの神器の洗脳を解いたとして。それでアイツが正気を保てるかどうかは本人次第だ」
「……」
「アイツは自分の意思では無いとはいえ人を殺し過ぎた。この意味が分かるよな? 俺は責任とれねぇぞ」
「……そうか」
そんな会話をしてからしばらくしてガイモスの神器を持ってきた兵士が戻ってきた。
「ありがとう。では、行こうか。ガイモス、移動するぞ」
「へいへい」
そう言うとダルそうに立ち上がるガイモス。
「そんじゃ行くか」
「うん」
「ああ」
それからガイモスを連れてニールが収監されている檻へと移動するシン達。
(ガイモスの言ったことが俺が心配してることだった。自分の意志とは関係なく人を何十人、何百人と殺した人間の心境なんて俺には分からない。洗脳が解けたことによって記憶はどうなるのか、心の変化は、そこら辺のことが不安で仕方ない。でもだからといってこのままにもしておけない。遅かれ早かれ、兄さんは自分がしたことと向き合わないとダメだ。せめて洗脳されていた時の記憶が曖昧だといいんだが……)
「着いた。ここだ」
そう言うとエルフィンはとある檻の前で止まった。
すると、そこには赤髪の男がいた。
男はギロッと睨み付けるようにエルフィンを見る。
「お前は…」
と、そこまで言って話すのを止める男の目線にはシンがいた。
「兄さん、あんたの洗脳を解きにきた」
「? 何を訳の分からないことを」
「本人は自覚なしか…早速始めようと思うがいいか?」
シンに聞くエルフィン。
「……ええ。始めましょう」
シンは逡巡したがそう答えた。
「それじゃあ、ガイモス。洗脳を解いてくれ」
「分かったよ」
「変な気は起こすなよ?」
「分かったって」
「まあ、俺達がいるけどな」
そんな会話をするとガイモスは手錠の神器を手首に付ける。
「それじゃあ始めるぞ」
そう言うとガイモスの鎖の神器がニールに巻き付く。
「何のつもりだ」
ニールはそう言いながらガイモスを睨み付けるがガイモスはそんなニールのことなど関係ないとでも言う表情をすると、
「ほらよ」
そう言ってニールに巻き付けている鎖の力を強くした。
次の瞬間、
「くっ…お前…一体、何を…」
ニールは頭が痛いのか激しく動き、苦しみ出した。
今までとは明らかに様子がおかしいニールの様子に皆が不安を感じる中、シンだけは昔の優しかった自分の兄との思い出を思い出していた。
(兄さん…頼む。戻ってくれ…)
シンがそんなことを思っていると、
「…………っ…シ……ン…」
一瞬、脱力しだらんとしたニールがシンの方を見て虚ろな目で言った。
「っ?! 兄さん!」
シンは思わず大きな声をあげる。
「俺は……うっ…そうか…今まで良いように操られて……」
「戻ったんだな?!」
「くっ…頭がズキズキして割れそうだ……」
「長い間操られていたことによる副作用だろう」
ニールの様子を見ていたゴウキが言う。
「これでひとまず何とかなったな」
「はい…」
「俺は…今まで…………なんてことを…」
「兄さん! それは仕方ないんだ! 兄さんは今まで操られていたんだから」
「…………」
「……今はまだ混乱しているだろう。もう少し落ち着くまでしばらく時間を置こう」
「分かりました」
それからガイモスを檻に戻した後、ニールの状態が安定するまで時間を置くことにしたシン達はまた別の檻の前にきていた。
「サーシャ・レイオーネ。お前は色々なことを加味して特別な対応を考えている。だが、決して許された訳ではない。自分がしてきたことを反省し、改めながら日々を過ごせ」
「……分かった」
シン達の目の前にはサーシャが手錠に繋がれた状態で床に座っていた。
「サーシャ……」
その様子を見たサレサが不安そうに見守る。
と、そんなサレサの様子に気が付いたサーシャが顔を上げると、
「ねぇ、サレサ」
そう言ってサレサへ話し掛ける。
いきなりのことに困惑するサレサ。
すると、
「あなたにお願いがあるの」
「お願い?」
と、その時、
「分かってると思うがお前は一応囚人だ。過度なものは許可できないぞ?」
二人に割って入るエルフィン。
すると、珍しく機嫌が悪そうな表情を見せる。
そして、
「分かってる。あなたは少し黙ってて」
「っ…?! ……」
サーシャの言葉にエルフィンは仕方がないと不満そうにしながら何を言うのかを待つ。
と、サーシャはサレサへと視線を向け、
「あなたには私のことをレイオーネと呼んで欲しい」
「え? そんなことでいいの?」
意外なサーシャの言葉に拍子抜けするサレサ。
「私は今まで自分のことなんてどうでも良くて、自分の名前で呼ばれるのがあまり好きじゃなかったから。でも、あなたにはサーシャじゃなくて、レイオーネって呼ばれたい」
「うん」
サーシャの真っ直ぐな目を見て、サレサも同じように真っ直ぐサーシャの目を見つめる。
「でも、それなら私のことも必ずサレサって呼んでよ? 私もその方が嬉しい」
「っ…! 分かった」
サーシャは少しニコッと笑うとそう言った。
その様子を見たシン達はその意外な表情を見て、短い間に一体何があったのかと思わせた。
数日後。
正気を取り戻したニールは徐々に頭痛がなくなり、安定していった。
しかし、操られていた時の記憶があるようでそのことで自責の念に苦しんでいた。
そんな中、サーシャ・レイオーネの処遇が決まった。
なんと異例中の異例。
サーシャ・レイオーネはサレサと共に行動することで仮釈放という特別処置がされた。
これにはシン達を始め誰もが驚いたが、これには彼女の生い立ちとサリアの助けもあって特別にということだった。
しかし、神器は逃げられる可能性があるので回収したままというのが条件だった。
が、これはサーシャ本人も予想外だったらしく、喜んでと言った感じで即了承した。
そんなことがあった数日だったのだが、ある日今まで眠っていたグラートが目を覚ました。
まだ体を動かすことは出来ないがそれでも若いから大丈夫だろうと医者は言っていた。
問題はコナンの方で、年齢のこともあり少し回復が遅いらしく、しばらくは寝た状態が続くかもしれないとの事でシン達はコナンが目を覚ますのを待った。
その間シンはこれからの予定をどうするか考えながら逃げたアーク達のことをどうやって探そうかと考えを巡らせていた。
そんなある日。
リネオス建国祭が終わって二週間が経とうとしていた頃、リネオス国王に不穏な知らせが届いた。
その内容とはある地域一帯が石化しているとの報告だった。
見てくれてありがとうございます。
気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。
今回の話で一旦この作品を完結済にして、もう一つのガラクタ勇者の方を書いていこうと思います。
この続きはかなり間が空いてから書くつもりなのでよろしくお願いします。
次の章は危険な獣達が動き出しそうです。




