襲撃
左手にはトキ様にいただいたブレスレットをつけながら、楽しい気分のままエリックたちとは別れ、トキ様と2人、歩いていると、後ろからすごい勢いで走ってくる足音が聞こえた。
ずいぶん急いでいる人もいるようだと思いつつも再びトキ様の方に意識を向けようとした、その時、背後から湧き上がる殺気を感じ、とっさにトキ様を横に突き飛ばし、後ろを振り向いた。
その瞬間お腹に焼けるような痛みを感じたのと、「死ね」という言葉が聞こえたのはどちらが先だっただろうか。
私を刺した人の方を見ると、そこにあるのは驚愕の顔。
ずいぶん若い。私と同じくらいだろうか
痛みに耐えきれずその場に崩れ落ちると、我に返った犯人は、私のお腹に突き刺さったままのナイフに手を伸ばす。
ナイフを奪われてはいけない。
取られてしまったら再びトキ様が危険にさらされる。
もうろうとする意識の中でそれだけを確かに感じた私はナイフを取られまいと、抜かれそうになるナイフを必死で押さえつけた。
周りの人がざわめきだしたのに気がついたからだろうか。
私の抵抗にあらがうこともせず、そのままナイフを放してしまったようだ。
あまりにも強く押さえつけたために、相手が手を放した反動で、さらに深く身体に突き刺さる感覚がし、先ほど以上の痛みに襲われる。
ここで意識を失うわけにはいかない、そう思うのに身体には力が入らず、もはや目を開けていることすら辛くなってきた。
耳に聞こえる走り去っていく足音に安心して力が抜け、ついに上半身も崩れ落ち、意識までも失った時に聞こえたのは、私の名前を呼ぶトキ様の悲痛な叫び声だった。
トキ様が御無事でよかった。
心配掛けて申し訳ありません。
次に目が覚めると、私に与えられた部屋のベットの上だった。
とっさに腹部に手をやるが、さすがにもうナイフは抜かれていた。
襲撃された場所はサンジェルマン家のすぐ近くだったから、他の使用人がここまで運んできてくれたのだろうか。
刺された時は一瞬死ぬかと思ったがどうやら傷は思ったより浅かったらしい。
ちょうど腹部だったから体型をごまかすためにつけたいたタオルのおかげで、刃が食い止められたのかもしれない。
タオル・・・?
はっとして、もう一度腹部に手をやるがそこにはタオルが入っている感触はない。胸にきつく巻いてあった布もなく、服の下にあるのは、けがの治療に必要だったと思われる包帯のみ。
ばれたかもしれない。
いや、間違いなくばれただろう。
上半身の治療をするためにさらしもタオルも取ってしまったのだから、その時点で気付くはずだ。
本来あるはずのないふくらみとくびれに。
一年、もたなかったな。
これからどうなるのだろう。
やはり追い出されてしまうのだろうか。
なんとか置いてもらうことはできないのか。
この際、トキ様付きでなくても、どんな辛い仕事でも構わない、部屋だって食事だって最低限あればいい。
なんとかして、旦那様に事情を話して謝って、少しでも置いていただけるように頼んでみよう。
そう決意していると、部屋の扉が静かに開けられた。




