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神童  作者: クロ
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真実


入ってきたのは旦那さまだった。


「大丈夫かね。ずいぶん出血したようだけど。」


「おかげさまで、大丈夫です。

それより、トキ様は大丈夫でしょうか。」


意識を失う前に犯人が逃げ去る音を聞いたから大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。


「ああ、君が捨て身でトキを守ってくれたおかげで、トキはけがひとつないよ。ありがとう。」


「いえ、私は当然のことをしたまでです。

それより旦那様、今までだましていて、本当に申し訳ありませんでした。」


「さて、何のことかな。

じつは今日の襲撃はユーリが仕組んだことだったとか、サンジェルマン家を陥れるためにやってきたスパイだったとでもいうのかね。」


物騒なことを言いつつも旦那様の口調はどこか面白がっているように感じられた。

手当をしてくれた人が黙っていてくれたということはあるのだろうか。


「そんなことは決してありえません。

そうではなくて、私が、その、本当は・・・。」


もし知らなかったとしたら?

言わなければこのまま隠し通せるかもしれない。

でも使用人が主人に黙っているなんてことありえるのだろうか。


「本当は・・・」


「本当は君が女の子だということかい?」


知っていた。

もしかしてと思ったが、やはりもうだめだ。


「そうです。

いままでだましていて本当に申し訳ありませんでした。

ですが、それ以外のことは全て本当です。

医者になりたいことも、決してサンジェルマン家を裏切ることがないことも、トキ様に忠誠を誓っていることも本当です。

これだけは信じてください。」


性別を偽っていたのは本当だが、それ以外の気持ちは紛れもなく本当のもの。

それまで否定されてしまったら、自分の全てが否定されてしまう。


「信じているよ。

そうでなかったらトキのために命を投げ出すことはできなかっただろう。


さて、君のことだが、ユーリ、君はどうしてサンジェルマン家に仕えようと思ったんだ。

他にもたくさん家はあっただろう。

正直に答えてくれないか。」


「チェックが緩いと聞いたからです。」


いくら努力したところで、今の時代、女の子では雇ってもらえない。

それが分かっているからこうして性別を偽ってここに居るのだが、性別を偽るのだって大変なのだ。

見た目を変えるだけではすぐにばれてしまう。幸いトリアノン家には男の子が一人いる。弟のユーリッヒだ。だがよく調べれば、その子では年齢が合わないこと、該当する年齢の子は女の子のユリアンヌの方であることがばれてしまう。

だから深く調べるような家では困ってしまうのだ。


そんな時噂に聞いたサンジェルマン家。


確かにテストは厳しいけど、身辺調査は緩いらしい。

数年前も犯罪者の息子がそこでお世話になって学校に通わせてもらったらしいよ。


チェックが緩いなら、あるいは私でも性別をごまかして働くことが可能かもしれない。

そう一縷の望みをかけてサンジェルマン家にやってきたのだ。


「そうか。だが君はおかしいと思ったことはないかい。

あの有名なサンジェルマン家が、身元の確認もしないで、屋敷に人をいれるなんてことがるのだろうか、と。

答えはノーだよユーリ。」


「じゃあ、どうして。」


「逆なんだ。サンジェルマン家はどこよりも詳しく身辺調査を行う。

わずかな時間で正確にね。

どういうところで生まれ育ったのか、どういう経緯でここに来たのか、普段はどのように生活しているのか、などをね。

さすがに性別を偽ってやってきたのは君が初めてだったが、父親が犯罪者だった子、母親は娼婦で父親は分からない子、果ては表では知られていない奴隷だった子が逃げてここに来たって子もいたな。

どの子も決して自分からそのような経緯を話したわけではない。

だが、それを全て調べ上げて、その上で彼らの実力を見てふさわしい学校で学べるようにしてきたつもりだよ。

本人の尊厳にかかわるから詳しいことは言えないが、全員が今では立派に社会で活躍し、サンジェルマン家の役に立ってくれている。


ユーリ、君は医者になるんだろう。

君ならきっと、素晴らしい医者になれると思う。

その時に、その医者を育てた家としてサンジェルマン家は君を誇れるだろう。

だから、気にせずこれからも勉学に励んでくれ。


まあとりあえずはしばらくはゆっくり体を休めなさい。

今回は命がけでトキを救ってくれて本当にありがとう。」


「旦那様・・・本当にありがとうございます。

このご恩決して忘れることなく、きっと立派な医者になってサンジェルマン家のお役に立って見せます。

これからも宜しくお願いします。」


「そう、その粋でがんばっておくれ。

そうそう、トキには君のことは教えていないから、これからも黙っていてくれるかな。


身体が疲れているのに長居して悪かったね。」


そう、言い残して旦那様は部屋から去っていった。

素質があれば、その人の背景など関係なく手を差し伸べる。

これは誰にでもできることではない。

誰だってその背景に目が行ってしまうものだし、しょうがないことだと思う。


それをしない旦那様のもとで、あのお優しいトキ様にお仕えすることができるのだ。


何があっても絶対に裏切らない。

私がこのご恩を返せるのは、ひたすら努力して立派な医者になって見せることだけだ。

そうサンジェルマン家に二度目の誓いを心の中で堅く行った。






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