自覚
もし、大切な友人が命の危険にさらされて、それを助けるために自らの命を投げ出すこととなっても、きっと僕は後悔しないだろう。
だけど、自分のせいで大切な友人が自らの命を投げ出して助けてくれた時、心に浮かぶのはどうしようもない後悔ばかりだった。
4人でお祭りを楽しみ、何よりユーリとおそろいのブレスレットを付けることになったことに浮かれていたのがいけなかったのだろうか。
それとも、警戒心を全く持っていなかったのがいけなかったのだろうか。
僕が湧き上がる殺気に気付いた時には、「死ね」という言葉とともに、僕の体は生垣へと突き飛ばされ、突然の出来事から立ち直りユーリの方を向いた時にはユーリが崩れ落ち、少年が一人走り去っていくところだった。
ユーリの名前を叫びながら慌てて彼の体を抱き起した僕の手に付いたのは真っ赤な血。
視線を下せば目に入ったのはお腹に突き刺さったナイフ。
僕のせいだ。
僕が自分の危険に気付けなかったから。
湧き上がる後悔から現実を見つめさせてくれたのは周囲にいた見も知らぬ人たちの動揺のざわめきだった。
そうだ、ユーリはまだ生きている。
幸いサンジェルマン家はすぐそこだ。
後悔に胸がいっぱいになりそうなのを振り切って、我に返ると、素早くユーリの脈をとり、まだ息があることを確認し、そっとかつできるだけ急いでユーリを抱き上げ、サンジェルマン家へと走っていった。
玄関で叫ぶと慌ててメイドが扉を開け、僕の腕の中に居る血まみれのユーリを見て愕然とする。
驚愕の視線を無視してユーリの部屋に運びながら、傍にいたメイドに医者を呼ぶように言い渡す。
騒ぎを聞きつけた父さんが、何事かと尋ねるので、ユーリが何者かに刺されて重傷だということだけを伝え、ユーリを部屋のベットに寝かせる。
少しでも苦しくなくなるように制服を緩めようとすると、それまで黙っていた父さんがそれを制した。
「トキ、ここまで運んでくれて御苦労だった。だがもうお前は自分の部屋に戻っていろ、お前に出来ることは何もない。」
「お願いします。ユーリが心配なんです。一緒に居させてください。」
「治療の邪魔だ。ユーリが落ち着いたらいくらでも来ればいい。
お前たちトキをこの部屋から連れ出せ。それから、私の許可が下りるまで決してトキをこの部屋に近づけるな。分かったな。」
父さんが言い終わるや否や、僕は瞬く間にユーリの部屋から連れ出され、どれだけ頼んでも部屋には入れてくれなかった。
どうして、確かに僕は何もできないけど、治療の邪魔にならないようにするぐらいの分別はあるつもりなのに。
僕のせいでユーリがけがすることになったから、だから入れてもらえないのか。
どうして、大丈夫なのだろうか、ぼくのせいだ、その三つだけがぐるぐると回って頭を離れない。
ユーリ、ごめん、僕のせいで本当にごめん。
部屋の前で粘りながらいつの間にか眠ってしまったらしい。
目を覚ますといつものベットの上に居て、おそらく誰かが運んでくれたのだろうことが分かる。
そうだ、ユーリは。
慌ててユーリの部屋に向かうが相変わらず見張りの使用人は僕を入れてくれない。
せめて、容体だけでもと迫る僕に教えてくれたのは、傷が思いのほか浅く、命に別条はないだろうということ。
おそらくもうじき意識を取り戻すから、そうしたらきっと部屋に入ることが許されるだろうということが伝えられた。
無事だった。
体中を安堵の気持ちが駆け巡る。
よかった、本当によかった。
とにかく許可がおりたら会いに行って、謝ってそしてお礼を言おう。
結局僕がユーリに会うことができたのは、次の日だった。
「ユーリ、もう起き上がって大丈夫なの?」
「はい、思ったより傷が浅かったので、おそらく、2週間もすれば学校にも行けると思います。」
「思ったより浅くて、2週間・・・ユーリ本当にごめんね。
僕がもっと警戒しておくべきだったんだ。」
「これは私自身が招いたことです。
本来トキ様は何も気にされることなく過ごされるべきお方なのです。
それに、この傷は私の勲章ですよ。
しばらくはトキ様のお世話ができなくなってしまいますがお許しください。」
「そんなことは全然気にしなくていいからね。
学校のことは毎日僕が話しに来るからユーリはゆっくり休んで。
まだ、けがしたばかりだしユーリも疲れているだろうから、今日はもう行くね。」
そう言い残して自分の部屋に戻ってきた。
2週間か、それでもユーリの口ぶりだと喜ぶべき短さなのだと思う。
ユーリには本当に悪いことをしたと思う、でも僕が気にしていたらきっとユーリはいつまでも自分を責めるんだろう。
明日からはユーリが少しでも不安にならないように、学校で習ったことを全て伝えよう。
ユーリのとってはきっとそれが何よりもうれしいお見舞いになるだろうから。
そして、明日からはずっと、ユーリが完治してからもずっとユーリを甘やかしてあげよう。
今回、ユーリが僕のせいで死ぬかもしれないと思った時にはっきりした。
僕はユーリが好きなんだ。
今までそんな趣味はない、ユーリはただの友人だと自分に言い聞かせてきた。
だけどもうやめよう。
僕は男の子が好きなのではない。
ユーリと言う存在自体が好きなんだ。
それこそ性別なんて関係なく。
この気持ちをユーリに伝えるつもりはない。
伝えてしまったらきっとユーリは心を押し殺してでも僕を受け入れてくれる。
だから伝えない。でももう我慢もしない。
ユーリが戸惑うぐらい甘やかそう。
失ってから後悔しても遅いのだから。




