祭
ユーリとエリックとの間のわだかまりもなくなり、4人で過ごしていると、気付けばもう、高等部に入ってから、半年がたっていて、1年に1度のお祭りがやってきた。
まわるメンバーは当然いつもの4人、ユーリは一緒に回っていいのかと気にしていたが、3人がかりで誘えば、ユーリも拒否することはなかった。
威勢のいい掛け声に、香ばしい香りや、甘い香り、怪しげな店に、華やかな店、毎年のことながら、この街を挙げてのお祭りは活気に満ち溢れていた。
「ユーリは初めて?」
「そうなんだ。僕は去年まで隣町に住んでいたからこんなに盛大なお祭りをやっているなんて知らなかったよ。」
さすがエリックだ。確かによく見るとユーリは単純にお祭りを楽しんでいるだけでなく、未知の世界を体験するようにキラキラとした瞳でまわりを見つめている。
「じゃあさ、ユーリこれ知ってる?」
そう言ってアートが差し出したのは屋台で売っていたコーディだ。ふわふわでキラキラしていて、見た目にもかわいらしく、口に含むとほんのり甘くて溶けていく、この街のお祭りの定番だ。
案の定、ユーリは食べたことがないらしく、不思議そうにコーディを見つめている。
「ほらユーリ、口を開けてごらん。」
コーディが何なのか考えていたユーリは、その言葉に従って反射的に口を開けた。
珍しく素直なユーリの口に先ほどアートが渡したコーディをちぎってユーリの口の中に入れた。
「どう、美味しい?」
「おいしい・・・。」
その甘さと食感に驚いたように口にしてそっと口をほころばせる。
そして、ハッと気づいたように慌てて僕の方に向き直っていい募った。
「トキ様、申し訳ありません。私としたことが、トキ様に食べさせていただいて、さらにあのような無礼な発言をしてしまうなんて。本当に申し訳ありませんでした。」
「いや、気にしなくていいよ。むしろいつも一線引いているユーリが無防備で素直な反応をしてくれて面白かったよ。口を開けてコーディを食べる姿なんてかわいかったしね。」
あんな無防備な反応が見れたのも、ユーリが不思議なコーディに気を取られていたおかげだ。
いつもは無駄にユーリに絡んでイライラさせられることの多いアートだけど今回は感謝だな。
しばらく歩くと、一つのゲームタイプの屋台が目に入った。
この街では特に珍しくはないタイプのものだったがその商品の中の一つが目を引いた。
キラキラと輝く透明なガラスと、深いブルーのガラスのブレスレット。
このような祭りの屋台にあるぐらいだからそれほど高いものでもないだろうが、その深いブルーと透き通ったガラスのきらめきが僕の目を惹いた。
「どうしたんだ、トキ。何か気になるものでもあったか。」
「ああ、少し寄っても構わないか。」
3人も特に異論はないようで、僕が向かう店についてきていた。
「このゲーム懐かしいな。トキは何がほしいんだ。」
「あのブレスレットだよ。」
そう答えながら、先ほど気になったブレスレットを指差した。
近くで見るといっそう輝いて見えて、きっとあのデザインならユーリにすごく似合うだろうと思えた。
「あのグリーンのやつか。確かにトキによく似合いそうだ。」
「違うよ僕が狙っているのはその隣のブルーのやつだ。」
「え、あれは少しデザインが繊細過ぎないか。トキにはグリーンのやつの方が似合うよ。」
まだ何か言っているアートは無視して、とりあえず一回分のお金を払う。
このゲームはとてもシンプルなものだ。景品の前にある器にボールを投げ入れ、それが見事に入るとボールの重さで景品の扉が開き、景品が滑り落ちてくるというものだ。
ただもちろん景品により難易度が変わり、ボールと同じ大きさの器から、ちょっとしたお菓子ならボールの三倍ぐらい大きい器もある。
僕が狙っている器の大きさはボールより少しい大きい程度。
一回で渡されたボールは3つ、このうちの一つを上手く入れればいいのだが、入るだろうか。
気合を込めて、けれどもそっとボールを投げたが一投目は器の淵にあたって跳ね返り、お菓子の器に入った。
目的は外したものの、その運の良さに後ろから声が上がる。
だが、いくらラッキーだったとはいえ、お菓子があたったところでしょうがない。
気合を入れなおして投げた二投目。
見事まっすぐに青いブレスレットの前の器へと入り、扉が開きブレスレットが滑り落ちてきた。
後ろから上がる驚きの声に、今度は三人の方を振り返って笑顔で応える。
もうひとつボールが残っていたが、もう欲しいものは手に入ったし、ユーリにあげることにした。
「ユーリ、僕はもう欲しいものは手に入ったし、ユーリもやってみたら。
何か取れたら、ユーリのものにしていいからさ。」
とっさに遠慮しようとしたユーリが声を上げる前に、エリックが続けた。
「遠慮なんて必要ないぞ。トキはもう欲しいものは手に入れたんだし。余っててもしょうがないからな。」
「では、ありがとうございます。」
その言葉に安心したように、ユーリは答え、ボールを手に取り、ふわっと音がするのではないかというほどに優雅に投げ、そして投げたボールはきれいな放物線を描き、例のグリーンのブレスレットの器に入っていった。
「すごい、ユーリ、これ得意だったのかい?」
初めてとは思えないほど見事な一投だった。
「いえ、トキ様のやり方を見て投げたのですが、運が良かったようです。
それよりトキ様、よろしければ、これを受け取ってもらえませんか。
きっとトキ様に似合うと思ってこれにしたんです。」
そういってユーリはとったばかりのグリーンのブレスレットを差し出してきた。
「ありがとう。ユーリにはこのブルーのものをあげるよ。
僕も、最初に見た時からきっとユーリに似合うと思って取ったんだ。
先に言うけど遠慮しないでね。いらないなら捨ててくれてもいいから。」
「捨てるなんてとんでもないです。トキ様ありがとうございます。」
深いブルーと透き通ったガラスの華奢なデザインのブレスレットは思った通りユーリによく似合っていた。ユーリがくれたブレスレットも僕の瞳の色とよく合っていた。
「2人ともよく似合っているし、お揃いだな。」
「本当だ。いいな、僕もユーリとおそろいほしかったな。」
しばらく祭りを楽しみながらもアートに露骨にうらやましがられ、適当にあしらって楽しく過ごしていた。
4人で楽しく過ごしていた一時が最悪の事態によって打ち破られるとはこの時思いもしなかった。




