実力
一緒に勉強しながら、もっと時間を共有すればいい。
そう思ったのは確かに間違いではなかったと思う。
ただ、そう思った時にはすでに定期試験2週間前。
僕たち3人は、中等部のころから試験前は一緒に勉強してきたため、当然のごとく今回も一緒だ。違うのはただユーリが増えたということだけ。
この際、二人で過ごす時間を増やすことができず、むしろ減った、ということは妥協しよう。
だが、これでは減ったどころではない。
自分の解いていた問題が一段落してまわりを見てみると、エリックは自分の問題に集中しているようでひたすら解き続けている、これは問題ない。本来あるべき姿だ。
問題は、アートとユーリだ。
「これはどうやって解くの、ユーリ?」
「これは・・・」
「すごい、ユーリの教え方分かりやすい。じゃあ、これは?」
「こっちは、この公式を使って・・・」
アートだって、そんなに聞かなくても、分かるはず。自分たちで言うのもあれだが、僕たち3人は、校内で少なくとも10位以内には常に入っていたのだ。
それに、さっきからユーリ、ユーリと邪魔しすぎだ。さっきから手元のノートが1ページも進んでいない。
「アート、いい加減にしろ。少しは自分で考えないか。ユーリが自分の勉強がちっとも進んでいないのも気づかないのか。」
「こめんねユーリ。でもすっごくわかりやすいんだもん。」
「アート、気にしなくてもいい。僕は大丈夫だから。
トキ様お気遣いありがとうございます。ですが、教えることで自分の復習にもなっているので問題ないです。」
「だけど、アートだって、もう少し考えたら、本当は分かるんだろう?
楽しようとするな。それに、ユーリばかりじゃなくて、僕に聞けばいいだろう。」
「あー、トキやいてるんだ。僕がユーリとばっかり話すから。」
「違っ・・・」
半分あたっているけど半分は違う。アートがユーリばかり構うから面白くないのではなく、そのせいでユーリがとられるのが嫌のなのだから。
「トキ様、申し訳ありません。私が出しゃばった真似をしてしまったせいで。」
「違うんだ、ユーリ。いや、僕が悪かった。少しイライラしていたんだ。
ただ、アートも本当に自分でも考えないと身に付かないぞ。」
ユーリに気づかいさせるわけにはいかない。もとはと言えば単なる僕のわがままに過ぎないのだから。
ここで、今まで黙っていたエリックが口を開いた。
「これだけ聞けば、アートももう十分だろう。ユーリは気にしないと言っているかもしれないが、お前がさっきからユーリに聞いてばかりいるから、こちらは集中できない。
今日のところはそろそろ帰ろう。」
さっきまでものすごい勢いで集中して解いていたエリックが2人の会話ごときで邪魔されるわけがない。きっと僕のいらだちを感じてのことだろう。さすがと言いたいが時々エリックが恐ろしく感じる。
「分かった。今日はありがとう。」
そう言い残すと、エリックとアートはあっさりと帰っていった。
2人が帰ると気まずい沈黙が流れた。
少しするとユーリが意を決したように話し始めた。
「あの、今日は出しゃばってしまい、申し訳ありませんでした。
明日からは私は遠慮させていただきます。」
「いや、本当に違うんだ。小さいやつだと思われるかもしれないけど、アートがユーリにばかり話かけるから、イライラしてしまって。本当にユーリは悪くないんだ。」
「アートはもとはと言えばトキ様の御親友だったのですから当然です。
それに、そのような理由ならなおさら、明日からはご遠慮させていただきます。
私ごときのせいでトキ様を不快にさせるというのはあってはならないことです。」
「ユーリがいてくれなければ意味がないんだ。
別にアートが僕以外と親しくすることは全然構わないんだ。
だけど、ユーリは本当は僕のものなのに、アートがユーリにばかり構うからそのせいでユーリがアートばかりを相手にするのが嫌だったんだ。
ごめん、僕だってユーリにはたくさんの友達を作ってほしいとは思っているんだ。だから気にしないで。
本当にただのつまらない独占欲のようなものだから。」
独占欲、本当にそれにふさわしい感情だ。ユーリが来るまでは普通にエリックとアートと学校では一緒にいて、ユーリのように常に一緒に居るような相手はいなかったのに、いつの間にかいなければならないような存在になっているなんて。
ユーリも逆らえない僕にこんな風に言われて困っているに違いない。
そう思いながらユーリの方を向いた僕にかけられた言葉は予想とは全く違うものだった。
「トキ様、本当ですか?
それならもっとトキ様の部屋にお伺いしてもいいですか?」
「いいの?無理しなくてもいいんだよ。」
「無理なんてしてません。もしトキ様が仕事でなければ顔も会わせたくないような性格の悪い主人でしたらいやですけど、トキ様のことは本当に仕事とか抜きでお慕いしていますから。
こんな使用人ごときを友達だと言ってくださってすごくうれしいんです。」
「よかった。僕ばっかりユーリを友達だと言って、本当は迷惑だったらどうしようと思っていたんだ。
じゃあ、これからはまた改めてよろしくね。」
僕の一方通行の友情じゃない、とようやく思うことができて、アートに対すいら立ちも一気に引いていった。
約束通り、それからはみんなでの勉強の後に、二人で一緒に勉強するようになった。
2人で一緒にとはいっても、アートのようにやたらと話したりするわけでもなく、むしろほとんどが個人で復習して、気になったところだけを確認しあう程度だけだったけど、一緒の空間で過ごしているというそれだけで、なんだか落ち着ける気がした。
そしてついにテストの結果発表となった。
中等部まで首席で通してきた僕が、初めて次席となる結果となった。
しかし、僕はあまり悔しいとは思わなかったし、父さんも僕を責めるようなことはなかった。
もちろん、あれだけ頑張って勉強してきたのだし、成績が下がったら悔しいと思うのは当然のことだと思う。
だけど。今回は別に点数自体が悪かったわけでもなく、問題はもちろん今までとは違うとはいえ、今までよりもむしろ楽に解けていた感覚すらあった。
そんな中、主席となったのはユーリであった。
あの点数を見る限り間違えたのは全教科合わせてせいぜい1問か2問と言ったところだと思う。
もう、さすがとしか言いようがなかった。
初めて掲示された結果を見に行った時、僕たちはみんな、エリックでさえ茫然としていた。
ただ一人ユーリだけは、それを自慢するでもなく、だけどちょっとだけうれしそうに微笑んでいて、その笑顔がささやかなのにすごく輝いて見えたのがとても印象的だった。




