秘密
本当はついて行きたかったけど、ユーリと一緒にいられなくなるというエリックの言葉が本気だったので、行くのをやめた。
エリックを信用していないわけではないが、なにしろ初対面であの態度なのだ、心配するなと言う方が無理だ。
やはりついていくべきだったのか、そう悩んでいるとユーリが帰ってきた。
「お帰りユーリ、大丈夫だった?」
「大丈夫です。エリックとは穏やかに話してきましたから。
トキ様は良いご友人をお持ちですね。
エリックがつかんでいたことは真実でした。そのことのせいでエリックは私のことを信用できないそうです。
エリックまで私となれ合ってしまったら裏切るかも知れない私を監視するものがいなくなってしまうから、本当に私が信用できるようになるまで仲良くするつもりはないと言っていました。」
「その秘密については教えてくれないのか。」
エリックの態度の理由は分かったが、一番知りたいのはそのエリックがユーリを信用できない理由だ。
ユーリの話しぶりからその内容については意図的にそらそうとしているように感じる。
「申し訳ありませんがそれはお教えできません。
これはトキ様を信用している、いないの問題ではありません。
それをトキ様に知られてしまったらエリックの言っていたように私の夢はあきらめなければならなくなるからです。
だからどうしてもトキ様にお教えするわけにはいきません。
ですが、今後絶対にトキ様を裏切ることはしないと誓います。
それでは私を信用することはできませんか?」
そう語るユーリの瞳は本気だった。ユーリのことは元から信用している。
自分の知りたいという気持ちだけでユーリの夢をあきらめさせるわけにはいかなかった。
「いや、ユーリのことは信じている。
無理に聞き出そうとして悪かった。」
「いえ、主人に隠し事をしていることがそもそも間違っているのです。
お心遣い感謝いたします。
それでも、もし私のことが信用できなくなった際は、エリックにそう言ってください。
彼はトキ様のことを第1に考えています。きっと真実を教えてくれるはずです。
トキ様、本当にありがとうございます。
改めてこれからよろしくお願いいたします。今後トキ様を何よりも大切にいたします。」
「そんな、あらたまって言わなくてもいいよ。
ユーリはずっと僕と一緒にいてくれるんだろう?少しずつ近づいていこうね。
さっそくだけど、これから今日の課題をやらないか。」
「はい、ただいま持って参ります。」
相変わらずの敬語だったけど、そう言った時のユーリはもう深刻な顔をしたユーリではなく、前に見た明るい笑顔だった。
一緒に課題をやり始めると、課題はすぐに終わった。さすがにユーリとやると早い。
お互いに分からないところを答えを教えるのではなく、軽くヒントを言うだけで分かりあっているのだから当たり前と言えば当たり前だ。
まぁ、大半は僕がユーリにヒントをもらう側だったんだけど。
父さんの言っていたことは正しい。おそらくユーリとなら良き友人になるだけでなく、お互いを高めあっていける、そんな気がした。
それ以降の学校生活は順調すぎるほど順調だった。ユーリの秘密について知ることはなかったが、それでも僕らの生活には何の支障もなく、エリックもまた、ユーリととても仲がいいということはなかったが、特別に目の敵にしているわけではなく、あくまでも一歩引いているという程度だった。
それよりも気になるのはアートの態度だった、
別にアートがユーリをいじめているとかそういうわけではない。
むしろ気にかけ過ぎなのだ。
ユーリにやたらとまとわりつき、「男の子とは思えないほどかわいい。」と連発し、ユーリが困ったようにしても、怒って反論してもどこ吹く風で、「そんなところもかわいい。」と抱きしめる。
いくら男同士だと言っても、限度があると思う。
僕だって時々、ユーリが男の子とは思えないほど可愛いと思うことはある、特に困っている時や、うれしそうにふんわりと笑いかけてくれる時など本当にかわいい。
でも、ユーリが嫌がるのが嫌だから言わないのに、言葉だけではなく、あまつさえ抱きしめるなんて、ずる過ぎるだろう。
そこまで考えて、ハッとする。何度も考えては同じように悩むのだが、僕はいたって普通のはずだと自分に言い聞かせる。
ただ少し自分のお気に入りの、友人が他の子にばかり構われていて寂しいだけだ。
けっしてユーリをそういった意味で好きなわけではないはずであって、単純に友人として好きに違いないのだ。
そう、そうに決まっている。まだあってから一カ月程度しかたっていないし、なにより僕は男が好きな趣味はない。
アートがいけないんだ。ユーリにばかり構いすぎるから。
今日からはもう少し家でユーリと一緒にいるようにしよう。一緒に勉強したりするのならユーリの邪魔にもならないし、一緒に過ごす時間が長くなれば、こんなことで悩むこともなくなるはず。




