終焉
打ち上げの日以降、ユーリの様子はずっとおかしいまま戻ることはなく、何度尋ねても、なんでもないという言葉が返ってくるだけだった。
始めのうちこそ、いつもとは違うユーリの様子に心配していたが、徐々にそのおかしさが何なのかわかるような気がしてきた。
分かりたくない、気づきたくない、そう何度思っても誤魔化せない程明らかにユーリは僕を避け始めているようだった。
そして、もう一つ感じることがあった。
ユーリはジェームスに惹かれている。
そう感じずにはいられなかった。
別にユーリから直接何かを言われたわけでなはい。
でも、確かにユーリは僕が呼ばない限り部屋には近づかなくなったし、今まで当たり前だった勉強を終えたあとのくつろぎの時間も殆どないままに戻り、そして何より、口付けるたびに拒絶するような雰囲気を醸し出すようになった。
どうして、どうして僕じゃダメなんだろう。
僕が我侭だから?どうしても気を遣わなきゃいけない立場だから?
ジェームスが魅力的だから・・・?
今までも彼の存在に嫉妬したことは何度もあった。
だけど嫉妬しながらも、ユーリの気持ちが彼に向かったと本気で思ったことは一度もなかった。
だけど今感じるこの気持ちは、今までのものとは全く異なっていた。
もう一度ユーリの気持ちを引き寄せたい。
そう思いつつも何もできずにいたある日、珍しく校門にはウェストファリア嬢がいなかった。
ダンスや劇の練習をしていた時以外、ずっとユーリがジェームスと楽しそうに帰っていくのを見送っていた。
だけど今日はその障害となる彼女がいない。
これは、僕に与えれれたチャンスだ。
そんな僕の想いを余所にジェームスのもとへ向かおうとするユーリを慌てて引き止める。
その甲斐あって、ジェームスには断りに行ってくれたはずだけど、ジェームスに何か囁かれたあと、彼を引き連れて戻ってきた。
そこで聞かされたのは今までの疑いを確信とさせるものだった。
僕と一緒にいるのは仕事だから
最近はそう思われているのではないかと薄々は感じていた。
だけどはっきりと言われたのはこれが初めてで、その衝撃は想像以上のものだった。
でもそう言われたからといって引き下がるわけには行かない。
むしろ、そうはっきりと言われた今だからこそ、これ以上ジェームスとユーリが一緒にいることに耐えられなかった。
苛立たしい気持ちのままユーリを連れ帰り、強引に押し倒して問い詰めても、返ってくる言葉は何一つ僕の望んだ答えはなかった。
好きだといったのは嘘ではなかった
今でも最高の主人だと思っている
過去形の好き、現在の主人としての好感、それらが意味することが何なのかだなんて考えなくてもすぐにわかった。
そして、何よりも決定的だったのは、ジェームスに心変わりしたのかという問いに、ただ謝るだけのユーリの姿。
ユーリと想いが通じ合って以降は、例え僕が嫉妬から彼女を追い詰めることとなってしまっても、いつだって好きなのは僕だけだと必死に伝えてくれていた。
なのに、今回はただ謝罪するだけ。
それが何よりも雄弁に彼女の気持ちを示していた。
ユーリの心が欲しい。
ずっとそう思って、彼女が実は女の子だったと分かって以降は、それまで以上にユーリを大切にしてきた。
心が手に入れば十分だから、それ以上なんて求めてはいけない、ずっと自分にそう言い聞かせて、決して口付け以上はしないように気を付けていた。
だけど、そうやって大切にしてきたユーリを、いつか堂々と彼女が自分の生涯のパートナーなのだと公言できるようになるまでは守っていこうとした彼女を、他の人に奪われるくらいなら、ジェームスのものとなってしまうくらいなら、いっそ持てる全ての力を使って彼女の身体を縛り付けてしまおう。
そうしたところで誰にも咎められることはない。
どうせ心は離れていってしまったのだからもう失うものも何もない。
そう思ってしまったらもう止めることはできなかった。
僕の雰囲気が変わったことに気づき、抵抗し始める彼女を押さえつけ、止めて欲しいと懇願するその口を塞ぎ、腔内を思うがままに蹂躙する。
いくら抵抗したところで彼女の身体はもう僕との口づけには慣れきっている。
身体の力が抜けたところで今まで両手で押さえていた彼女の手を一纏めにし、片手で押さえつける。
こんなにも、こんなにも簡単に彼女を押さえつけることはできてしまう。
必死で抵抗したところで決して性別の差には敵わない。
両手を纏められたことで再び焦り始めた彼女の抵抗も無視して、衣服を一つずつ剥いでいく。
最後に巻かれた包帯を外すと、見えてきたのは白磁のような美しい肌と綺麗な形の双丘。
それらに見入り、さらに視線を下げていくと、見えてきたのは5センチ程度の傷跡。
そうだ、ユーリはこんな僕のことを命懸けで救ってくれた。
この時はまだ恋人同士でもなんでもなかったのに、狙われた僕を身を挺して守ってくれた。
そんな、誰よりも純粋で、直向きで、夢に向かって努力を重ねていくユーリが誰よりも好きだった。
もう性別なんてどうでもいいと思ってしまうくらい、ユーリというその存在そのものが何よりも愛おしかった。
そして、その気持ちは彼女の心が移り変わってしまったとわかった今でさえも変わらない。
「ユーリ、愛してる。」
それなのに、こんな最低なことしかできない僕を許して欲しい。
想いを込めて今度は優しく口付ける。
先程までとは比べ物にならないくらいの弱い力なのに、ユーリの抵抗は見られない。
「抵抗、しないの?このまま最後まで奪ってしまうよ?」
「もういいんです。今回のことは明らかに私が悪かったんです。
だから、こんな私のことをまだ思っていてくださるのならば、お気の済むようにしてください。」
そう言ったきり、今まで散々抵抗してきた身体の全ての力を抜き、ただその意志の強い瞳だけを僕に向けてきた。
全てを委ねるようにされて、初めて僕がとんでもないことを犯そうとしていたことに気づいた。
こんな時ですら、彼女は僕を罵ったりはしない。
必死に抵抗していた時だって、制止の声は上げるものの、言い訳したり、強引すぎる僕を責める言葉は一度も発せられることはなかった。
たとえ、僕と彼女が対等ではなかったとしても、こんな時くらい、何を言ったとしても僕が悪いのだからサンジェルマン家から責められることはないということくらいユーリなら分かっていたはずなのに。
そんな身も心も美しいユーリを僕は踏みにじろうとしていた。
そうはっきりと自覚してしまうと、それ以上進むことはできなかった。
一度はジェームスに奪われるくらいならと開き直ったはずの心も、簡単に萎れていった。
「ごめんね、ユーリ、本当にごめんね。もう、君は自由だから。」
僕にできたのは包帯以外の剥ぎ取った服を全て着せ、部屋から出してあげることだけだった。
僕たちを繋いでいた絆が、断ち切れた。




