崩壊
今年もまた、先輩を送り出す季節がやってきて、発表の機会をもらうこととなった。
今年は女役をやれる人がいないということで格好良さを重視したダンスを行うこととなった。
やるからには極めたい、と思い臨んだ練習は皆きついに違いないのに、文句一つ言うことなくついてきてくれた。
私自身も、普段から男装のために鍛えているとは言え、本当の男の子の中で違和感を感じさせることなく、同じだけの練習量をこなし、皆に教えられる程のダンスを行うのは、正直身体的にはかなり大変だった。
だけど、皆で一つの目標を目指して練習を行っていく日々、そして帰りには、普段ならば到底出来ないトキ様と手を繋ぎながら帰る日々は、例えようがない程輝いていた。
その輝きに満足し、自分の行っていることがどれだけ危険なことなのか考えることもしなかった。
全員で作り上げた発表は、ある種の定番となっていた女装の一切ない異例のものでありながら、大盛況で終わった。
その盛り上がった気分のまま行われた打ち上げでは、それぞれの健闘を讃え合い、やり遂げたという達成感のまま、楽しんでいた。
彼が私の元にやって来るまでは。
打ち上げも佳境に差し掛かった頃、ジェームスが近付いてきた。
今日の発表のために今まで一緒に練習してきた仲間である彼と、この時までゆっくり話すことがなかったことの方が不思議なくらいで、少し皆と離れた場所でゆっくり話そうと誘われた時も何の疑いも抱かなかった。
「ジェームス、今日はお疲れ様。これまで一ヶ月、付いて来てくれてありがとう。」
「ユーリこそお疲れ様。全部一人で考えて実行するのは大変だっただろう?」
「でも大変だった以上に、皆でやり遂げられたのは、良い思い出になったよ。」
「そりゃあ大好きなトキ様をマリーから奪って独占できたんだから楽しかっただろうな。」
純粋に労りあっていた雰囲気が一転し、彼は皮肉気に笑いながら言葉を告げた。
彼は、こんな風に笑う人だっただろうか。
「そんなことないよ。いつも一緒にいる皆でやり遂げられたから、嬉しいんだよ。」
「それも一つの要素だろうけど、一番はトキだろう?
俺達とはいつでも一緒だけど、トキはいつもあいつに連れて行かれるからな。」
確かにジェームスの言う通り、もちろん皆と一緒に作り上げられたのも、すごく嬉しかったが、何よりもこの一ヶ月幸せだったのは、ウェストファリア様が絡むことなく、トキ様とまるで普通の恋人のように一緒に帰ったり、いつも以上に長くトキ様と過ごすことが出来たからだ。
でも、どうして彼はそれを知っているのだろう。
ただ単に、一番親しくしているように見えるからそう言っているだけなのだろうか。
「確かに普段はトキ様も含めて全員で、という機会は少ないからその意味ではトキ様も一緒だったことが一番嬉しいかもしれないな。」
「あくまでも、認めないということか。俺が何も知らないと思っているんだろう?」
「なんのこと?ジェームス、今日は様子が変だよ。」
何を知っているのだというのだろう。もしかして、私の正体がばれたのだろうか。
それならば、なんとしてもジェームスを説得して黙っていてもらわなければならない。
そう決意した私の耳に聞こえてきたのは予想外の言葉だった。
「変なのはお前らの方だろう。あのマリーに懐かれても全く靡かないなんておかしいとは思っていたんだ。まさか、トキが男色家だなんて知らなかった。」
「何を言ってるんだよジェームス、いくら友達でも言っていいことと悪いことがあるだろう?」
「誤魔化そうとしても無駄だと言っているだろう?この一ヶ月毎日のように手を繋ぎながら帰っていたじゃないか。どう見たってただの友人には見えない、恋人同士そのものの姿だったよな。」
どうせ、他の人たちとは帰る時間が違うからと油断していた。
何より、エリックとアートはトキ様とのことも認めてくれていたから、途中から一緒に行動していたジェームスのことも安心しきっていた。
私のせいでトキ様に迷惑をかけてしまう。
せめてトキ様を傷つけるようなことはしないで欲しい。
何も言い返せない私に、そんな期待を打ち砕くようにジェームスは続けた。
「あのサンジェルマン家の跡取り息子が男色家だなんて知られたらどうなるんだろうな。
信用だって一気になくして没落しちゃうのかな。」
「トキ様は悪くない、僕が無理を言って付き合って頂いているだけだ。」
「健気なことだな。だがそんな風には全く見えなかったよ。むしろトキがお前に溺れている感じだった。使用人に無理強いする男色家か・・・世間がどう思うか楽しみだな。」
本当にトキ様は悪くない。お互い合意の上だし、本当は私は女なのだからトキ様が男色家だということもない。
そのトキ様の不名誉にならないようにする方法が一つだけある。
本当はジェームスにトキ様との関係を示唆された時から思いついていたことだ。
ただ、それをしてしまえば私の夢はここで終わってしまう。
トキ様の名誉、そしてサンジェルマン家の未来と私の夢、どちらが重いのかだなんて分かりきった事だ。
「本当にトキ様は何も悪くないんだ。ジェームスは誤解している、本当は僕が・・・」
本当は私は女の子なのだと真実を告げようとした私の言葉をジェームスが遮った。
「言い訳はもういいよ。そこまでトキのことが大切なら、黙っていて欲しいだろう?
ユーリがたった一つお願いを聞いてくれればこのことは誰にも言わないと約束するよ。」
「本当に!何をすればいい?なんだってするよ。」
トキ様の名誉も私の夢もどちらも守れるのならば、なんだってできる。
もう叶わないと思いかけて夢を捨てなくても済むかもしれないのだから。
「簡単なことだよ。トキと別れてくれ。トキはマリーと結婚するべきなんだ。
ユーリだって分かっているだろう?後継さえ作ることのできない何も持たないお前と、家柄もいい全てを持っている彼女のどちらがトキにふさわしいかなんて。
お前がそばにいればトキも未練が捨てられない。だからトキと別れろ。」
「それは・・・。」
「トキの名誉のためなら何でも出来るって言っただろ?
それともユーリはトキの名誉より自分と一緒にいてほしいと思うのか?」
元から全てを捨てて夢を叶えに来たはずだった。
そこで出会ったトキ様に短い間ではあったけど、夢と引き換えに諦めたはずの幸せも味あわせてもらった。
その幸せも夢もそのどちらも失うところだったのに、夢だけは残せると言われているのだ。
私に選択肢などない。
「トキ様とはただの使用人と主人の関係に戻るよ。だから、トキ様のことはどうか傷つけないで。」
幸せに輝いていた時は、突然に終わりを告げた。




