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神童  作者: クロ
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ダンス

僕の我が儘でお互いに変装の上でのデートをしてから半年、ユーリが女の子の格好をすることはなかったけれど、適度にウェストファリア嬢をかわしながら、ユーリとは順調に付き合っていた。



今年も案の定ユーリが首席で、今回はジェームスもいれて5人で発表をすることになった。


最初は今年も劇でやろうという話になったが、台本を決める前から全員が女役は嫌だと主張した。



不本意だが僕の女装が似合っていたのは周知の事実なので、今年も僕がやっては面白くない。


ユーリも去年から似合うことが想像出来過ぎて面白くないと言われているし、事実ユーリは女の子だったのだから、本当は女の子じゃないかと疑惑を持たれる危険性がある女装を行うなど論外だ。



逆に他の3人はどう想像しても気持ち悪い。

見てる側からすればそれはそれで面白いかもしれないが、やる側からすればとてもじゃないが我慢出来ないので、それを押し付ける訳にはいかない。



結局ユーリの意見でとことん格好良さにこだわったダンスにしようということになった。


誰も女装という贄にならなくて済む上格好良く決まるものならば楽しみだ、と皆が思っていたが、それは想像以上に過酷なものだった。



ユーリが求めるとことんまでこだわった格好良さというのは、きっちりと動きを揃えた俊敏なダンスなんて領域を超えており、練習はまず柔軟から始まり、筋力トレーニング、基礎体力作りへと続き、最初の二週間はどんな曲を使うのかも、どんな振り付けになるのかも教えられなかった。


そんな肉体的に辛い日々でも耐えられるどころか楽しいとさえ感じられたのは、ウェストファリア嬢に煩わされることなく、5人で真剣に練習し、終わればくだらない話をして過ごすのは身体の辛さ以上に精神的な充実があったからだったと思う。



それに、ユーリと想いが通じ合ってからは、いつも放課後はウェストファリア嬢と一緒だったけど、今は他の生徒がいない時間帯にユーリと帰ることが出来たので、ジェームス達と別れてから家に近付くまでの間、手を繋いで帰ることが出来たのも嬉しかった。



この時が絶頂なのだと気付くことなく、僕は浮かれ過ぎていたのかもしれなかった。






二週間の基礎練習が終わりついに教えられた曲と振り付け。



見本としてユーリが踊ってくれたが、誰も声を発することが出来ない程美しく、格好良かった。



練習を始めた頃から思っていたが、ユーリは僕等と同じ練習を難無くこなしているし、実際見本を見せてくれた姿はとても女の子とは思えないようなものだった。



気になって聞いてみたところによると、元々医者は体力勝負ということで、鍛えていた上に、男の子として生きていく上で怪しまれないように、性別を偽って奨学生になると決めた時から更に厳しく鍛え直した上、今でもそれを維持するためにトレーニングは欠かさないのだとか。



そんなユーリに鍛えられた僕等は、複雑な振り付けは覚えるのは大変だったが、あの二週間の練習のおかげか一週間も練習する頃には形になってきた。


最後の一週間では5人で協力して行う空中技や、細かい部分を修正するのに、全力を尽くした。



そのかいあって、誰も女装をしない、笑い要素の一切なかったものだったにも関わらず、僕等高等部二年の発表は大盛況だった。



普通のダンスの認識を一新するようなアクロバティックなダンスは、誰もが驚いたようだった。


あの歓声を聞いた時、僕等は全員楽しくも大変だった日々が報われたように感じた。


普段は控えめに微笑むことが多いユーリでさえ満面の笑みだった。



その高揚した気分のまま僕の家で打ち上げをやることになった。


一ヶ月間厳しい練習を乗り越えての今日の発表ということで話題には事欠かない。


今日ばかりは、ユーリが他の発表グループの人と話してようが嫉妬することなく、僕自身も他の発表グループの人達と今までの努力と今日の成功の喜びを分かち合った。



だからいつの間にかユーリがいなくなり、その後から顔色が冴えなくなったことにも気付かなかった。




打ち上げも終わり、部屋でユーリが訪れるのを待っていたが、打ち上げの片付けが終わったと思われる時間をすぎても、ユーリが現れることはなかった。

不思議に思って彼女の部屋を訪れてみると、驚いたような顔をして迎え入れてくれた。


「今夜は来てくれなかったけどどうしたの?」


「申し訳ありません、片付けなどをしていて慌ただしかったため、すっかり忘れていました。」


今までユーリが意図的に僕を避けていた時を除いて、どんなに忙しくても一日の終わりに僕の部屋に来ないことはなかった。

それを忘れるぐらいなのだからよっぽど疲れていたのだろう。


「それならいいんだ。むしろ疲れている中煩わせちゃってごめんね。」


「いえ、煩わしいなど思ってはいません。むしろ来ていただけて嬉しいですよ。」


そうはいってくれるものの、その表情はとてもではないが、嬉しそうには見えなかった。


「ねぇ。ユーリ、やっぱり今夜のユーリはおかしいよ。打ち上げで何かあった?」


「心配していただいてありがとうございます。ですが、何もありません。

もしかしたら、発表も終わりホッとしたために気が緩みすぎてしまったのかもしれません。」


確かに、ユーリは今回の発表を企画から練習まで取りまとめていた上に、発表後は大勢での打ち上げで、思いっきり騒ぎ、その後サンジェルマン家の使用人と共に夜遅くまでかかって会場の片付けを行なっていたのだから、疲れているのも当然かもしれない。それならばいつまでも僕が彼女の部屋に居座っているのは邪魔でしかないだろう。


「本当に大丈夫なんだよね。なら、今夜はもうゆっくり休んで。おやすみ、ユーリ。」


「おやすみなさいませ。」


ユーリのいつもとは違う様子に、何か疲れや気の緩みだけではない違和感を感じたが、それが何なのかは結局分かることはなく、ユーリの言い分を信じて彼女の部屋を後にした。





しかし、夜が明けてもユーリはいつものように戻ることはなく、それどころか、昨夜以上に様子がおかしかった。


この時はまさか、このユーリの異変が一時的なものではなく、その序章に過ぎないことなど思いもしなかった。









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