準備
ユーリが実は女の子だったということが明らかになり、ユーリともこれからのことについて約束をして、気持ちの上では満ち足りていた。
だからといって何かが大きく変わったかと言えば特に変わってはいない。
ユーリは今までだって十分に才能を見せてきていたし、僕も父さんに認めてもらうにしても、父さんのやっている仕事について今まで以上に学ばせてもらう以上、特に出来ることもなかった。
もちろんウェストファリア嬢との婚約も解消できていない。
ユーリのことを考えれば無茶はできないというのもあるけど、それとは別にこの件に関しては最近はこのままの方がいいような気がしてきた。
彼女について僕がどう思うか、ということ以上になんだか嫌な感じが彼女から、というよりウェストファリア家からはするのだ。
今はまだそれがただの感覚なのか、本当に何かあるのかはわからないけれど、本当に無難な婚約者を押し付けられるよりは、何か感じる彼女と婚約を続けて、何か見つけた暁には一気に崩しにかかったほうが、ユーリを本当の意味で手に入れるためにはいいような気がした。
特に大きな変化もないまま、気づけばユーリに出会ってから二度目の誕生日が近づいていた。
「ユーリ、今年もやっぱり忙しいの?」
「はい、何といってもトキ様のお誕生日ですから。屋敷中の使用人総出で素敵なパーティの準備をさせてただきます。」
案の定今年も準備から当日にかけてはユーリは忙しいらしい。
「じゃあさ、その次の日は僕に一日付き合って欲しいな。今年のプレゼントは、僕のわがままに付き合ってもらえるユーリの一日がいい。」
「そんなの、プレゼントと言わずに、いつでもトキ様のわがままならお聞きしますよ。何をすればいいですか?」
「こういったことは、特別だからいいんだ。その代わり、いつもと違って、それはいけません、とか滅相もない、とかもなしだからね。なんでも聞いてもらうからね。」
「それはっ・・・」
「今更だめはなしだよユーリ。当日が楽しみだな。」
僕にはユーリの正体が分かってから、ずっとやってみたいと思っていたことがあった。それがついに実現できるのだと思うと、顔が緩んでしまうのを止めることはできなかった。
僕の誕生日当日
案の定、パーティーが終わるまでは、ユーリとはほとんど係われなかった。
しかも今年は
「トキ様、お誕生日おめでとうございます。」
この言葉を言ってくれたのがユーリならどれだけ嬉しいだろうとと思うけど、パーティーが始まった時からずっと腕にしがみついているのは残念ながらあのウェストファリア嬢だ。
「こうしてトキ様と一緒にパーティーに出られるのも、とても嬉しいですが、二人っきりで御祝いしたいですわ。
そうだ、明日とかいかがでしょう?
私、料理人に美味しい料理を作らせますので、どこか美しい場所でのんびりしましょう。」
身体をくねくねさせながら上目遣いで見られるが、はっきり言って気持ち悪い。
だいたい明日はユーリと二人っきりで過ごす予定なのだから、邪魔されるだなんてとんでもない。
「今日も夜遅くまで続くし、明日はゆっくりする予定なんだ。
それに、今日ずっと一緒にいて祝ってくれるのだからもう十分だよ。」
更に言い募ろうとする彼女ににっこり微笑んで、黙らせるとちょうどエリック達が近付いてくるのが見えた。
「トキ、おめでとう。」
「ありがとう。」
「今日はユーリじゃなくて彼女と一緒なんだな。」
「えぇ、私トキ様の婚約者ですもの。
そもそもそう思ってしまうくらい使用人といつも一緒なのが間違っているのです。
皆様もそう思われるでしょう?」
自分の言っていることこそが当然なのだと言わんばかりにエリック達に同意を求めるが、彼らの反応は彼女が期待したものではなかった。
「そうかな。トキに限らず僕達全員がユーリと友達だよね。」
「学校ではいつも五人一緒だし。」
「トキの婚約者だって言うなら、ユーリのことも認めたほうがいいんじゃない?
きっと彼はトキにとって・・・」
「一生の友達だ。
だから彼のことは認めてくれると嬉しいな。」
まさか四人掛かりでユーリを認めるように言われるとは思っていなかったのだろう。
彼女は悔しそうにしながらも、頷いていた。
なぜかジェームスのことだけを睨むようにしながら。
始終ウェストファリア嬢にまとわりつかれたパーティーも終わり、しばらくすると、かねてからの約束通り、ユーリが部屋を訪れてくれた。
「トキ様、お誕生日おめでとうございます。去年と一緒で申し訳ありませんが、ささやかながら私からのプレゼントです。」
そう言って渡してくれたのは、ユーリの手作りのケーキだった。
「今年は、明日のお願いをプレゼントにしてもらったから、ケーキはなしだと思っていたよ。」
「やはり、何かものとしても差し上げたかったので。
それで、トキ様のわがままとはなんでしょう。何か準備とかありますか?」
「少し面倒かもしれないけど、明日二人分の昼食を作って、以前にも出かけた湖に来て欲しい。
僕はユーリとは別で行くから、誰にも見つからないように来て欲しいんだ。」
「誰にも見つからないようにですか?」
「そう。もちろん出かけること自体は伝えてもらっていいし、僕からも話は通しておく。
だけどユーリが出かけた先が湖であるということは誰にも言わないで欲しいんだ。」
「分かりました。では明日お弁当を持って密かに湖に参ります。」
「よろしくね。」
これで、明日の計画の第一歩は出来た。
あとは明日あのセットを忘れないように持っていけば完璧だ。
次の日、湖で計画のための準備を終え、一息ついているとユーリがやって来た。
「お待たせして申し訳ありません。」
「気にしないで、僕はちょっとした準備があったから先に来てたんだ。
早速で悪いけど、あの影でこれに着替えてきてくれる?」
そう言って僕が差し出したのは以前から準備していたセット。
僕の差し出すものに何も抵抗はないのか、ユーリは中身を確かめることもなく例の袋を持って、朝から準備した木に布を縛り付けただけの簡単な行為スペースに向かっていった。
ユーリは一体どんな反応を見せてくれるんだろう。
そう思うと、自然と顔がニヤついてしまうのを止めることはできなかった。




