共に
今日も疲れた。
途中で雨が降り出したからいつもより早く帰れるかとも思ったが、結局いつもと同じ時間まで縛り付けられ、雨が降っているからついてこなくてもいいと言ったのに、こうして送ってくれる馬車の隣には彼女がいる。
さすがに馬車の中まで付き合っていられないためいつもと同じように酔いやすいことを言い訳に窓の外ばかり眺めていた。
漸く家に着く、という時、道端に人が倒れているのが見えた。
「止めてくれ、今すぐ馬車を止めてくれ!」
「どうかなさいましたか?」
僕の必死の声に馬車が急停止すると同時に外に飛び出した。
その人に近付くとそれがユーリだということが分かった。
どうしてこんな所に?そんな疑問が頭を過ぎったが、その冷え切った身体にそんなことを考えている場合でないと思い直す。
急いで抱き上げて馬車に戻ると、事情を伝えてユーリも共に家へと送って貰い、到着するやいなや、挨拶もそこそこに家の中へと入っていった。
「トキ様、お帰りなさ・・・そんなびしょ濡れでどうなさったんですか!」
「ユーリが近くで倒れていた。
急いで湯の準備をしてくれ。」
ひどく濡れた僕達の状態に驚いていた使用人も、その声に我に返り、すぐに湯の準備に行ってくれた。
程なくして準備が整うとユーリを渡すように言われたが、意識のないユーリを他の人に預け、僕もまだ見たことのない肌を見られるのは許せなくて、それを断ると誰も入って来ないように言った。
父さんがまだ仕事でいない今、僕に逆らう者はなく、風呂場には僕達二人だけになった。
一刻も早く身体を温めるため、服を脱がそうとしたが、かつてユーリに迫り服に手を掛けた瞬間に強く拒絶されたことが頭を過ぎる。
しかし、今はそんな場合ではないと思い直す。
他の人に任せられない今、僕がやらなければ意識のないユーリの身体は冷えていくばかりなのだ。
決して下心があるわけではない、と自分に言い聞かせながら、上着から脱がせていく。
次はシャツ、とそれを脱がした時、目に入ってきたのは真っ白な包帯だった。
まさかユーリが大怪我を、と驚いたが、よく見ると包帯には一切血が滲んでいないし、そもそもここまで運んで来る中で痛そうな表情をしたことはなかった。
それでもさっきまでよりも慎重に包帯を外す。
次に現れたのは、同じく真っ白なタオル。
訳の分からない緊張に包まれながらそれらも外していくと、目の前に現れたのは真っ白な裸体と男にはありえない双丘だった。
ユーリが女の子だった・・・?
それを目にしてもまだ信じられず、恐る恐る下に手を掛ける。
しかし現れたのは在るべきものが存在しない肌。
それらは違えようがない真実を僕に伝えていた。
まさかの真実に茫然としていたが、自信の身体に感じる寒さで我に返る。
考えるのはあとだ。
とにかく今は身体を温めるのが先決、と残りの服を全て脱がし、ユーリをお湯の中に入れる。
そして自身も素早く温まり、着替え、着替えさせ、身体のラインが他の人から分からないように抱き上げ、手伝おうとする使用人の手を断り、ユーリの部屋に連れていった。
ベッドの上に横たわる彼女は、未だに意識は戻らないが、表情は穏やかで静かに眠っている。
彼女を見ながら、先ほど知った事実を考える。
確かに、今になって思えば思い当たる節がなかったわけではない。
ユーリは聞いても決して教えてくれない秘密があって、エリックはそれを知っているようだった。
ユーリへの思いをエリックに打ち明けた時、不思議なほど簡単に受け入れていたのもきっとこのことを知っていたからに違いない。
ユーリだって一番の問題は性別ではなく身分の差だといつも言っていた。
ユーリが女の子だったなら、確かに次に問題となるのはそのことかもしれない。
だけど、僕はもうユーリを手放すつもりはない。
父さんだってユーリの実力は認めているのだ。
それでも、ウェストファリア嬢との縁談は勝手に壊すわけにはいかない。
ユーリがしきりにこの秘密がばれたらもうここにはいられないと言っていたのも、きっとそのことにも関係があると思う。
父さんだって何度も言っていた。
もしウェストファリア嬢との縁談を壊すようなことをしたら、ユーリの支援は打ち切る、と。
だから僕の方から、ユーリが女の子だと分かったからと言ってこの縁談を壊すわけにはいかない。
だけど、ユーリが女の子だと分かった今、ただ指をくわえて待っているつもりはない。
僕のわがままで壊すわけにはいかないなら、壊すべき理由を見つければいいのだ。
壊れても問題もない状況を作り出し、その後の他の相手が現れないほどの力を付ける。
ユーリが必死で秘密にしてきたその気持ちは決して無駄にしない。
でも、ユーリの言う通りに、ただの友人としてずっと一緒に居続けるつもりもない。
こうなった以上、なんとしても手に入れる。
彼女以上に隣に居てほしい人などいない。
ユーリが目を覚ましたら、なんて言おう。
きっと彼女は僕が秘密を知ったことを知れば僕の前から姿を消してしまう。
消す前に、なんとしてもユーリの心を縛り付けなくちゃ。
今までも、僕の言葉が足りないせいで、何度もすれ違い、ユーリを傷つけてきた。
もう、そんな思いはしたくない。
ユーリが目覚め次第伝えよう。
ユーリの真実を知っても、それを黙っていたことを恨んでなどいないこと。
僕はユーリが誰よりも大切だということ。
そして、ユーリとずっと一緒に居るために、これから努力していくから、一緒に頑張っていってほしいこと。
それを伝えて、ずっと一緒に居るために、二人で頑張っていけたらいいな。




