苦痛
やっぱり僕は駄目だ。
ユーリのこととなるとどうしても自分がコントロールできなくなってしまうことが多い。
でもユーリはそんな僕でも受け入れてくれる。
そんな愛おしい彼の年に一度の誕生日。
さっきは嫉妬に駆られてとんでもないことをしてしまったけど、
せっかく知ることができたのだから、今までの感謝の気持ちも込めて、
精いっぱいお祝いしてあげたい。
どうしたら喜んでくれるだろうか。
きっとお金がかかるものだと、ユーリは戸惑いの方が多くなってしまう。
もし、僕だったら・・・
僕はユーリが一緒に過ごしてくれたのが何よりうれしかったし、あの時にもらったケーキは特別なものに感じた。
そうして考えに考えて思いついたのが、湖でのデートと手作りのランチだった。
僕はユーリが大好きだから何でも嬉しいけれど、ユーリにとっては迷惑かもしれないという、不安もあったけど、結果は大成功。
ユーリは喜んでくれたし、なにより解放感から今まで以上に主従でも友人でもない、本物の恋人同士のような雰囲気で時を過ごすことができた。
家が近付くといつものユーリに戻っていってしまったのは感じたけれど、あの一時はかけがえのない時となった。
元はと言えばユーリのために考えたことだったけど、もしかしたらユーリ以上に僕の方が楽しんでしまったのかもしれなかった。
そんな幸せにも代償があった。
しかも結構大きな。
休みがも明け、学校から帰ろうとすると案の定待っていたウェストファリア嬢。
僕を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
あんな風にユーリが駆け寄ってきてくれたらきっと嬉しくてたまらないだろうに、それがウェストファリア嬢であるだけでそれは大きなため息に変わる。
「トキ様、お加減はもうよろしいのですか?」
「もう大丈夫だよ。心配掛けて悪かったね。」
本当は悪かっただなんて微塵も思っていない。
そもそも毎週末付き合わされているのがおかしいのだ。
「それは良かったです。思えば私がいつもトキ様を連れまわっていたので、そのせいでトキ様のお加減が悪くなったのかもしれないと思っていたんです。」
そんなウェストファリア嬢から出てきた言葉は思いがけない言葉。
あれだけ付きまとっていた彼女が、譲歩してくれるのか?
「気遣ってもらって嬉しいよ。やっぱり僕もそうだし、君も毎日大変だろう?
これからはもう少し会う頻度を・・・」
「そうなんです。だからお出かけは少し減らして、これからは家にいらしてください。
家でのんびりお話しするだけならあまり疲れないでしょうから。」
「家に?それだったら会う頻度を減らした方が楽になるんじゃないかな?
君の家もそんなに頻繁にお邪魔しては大変だろう?」
冗談じゃない。
どこかに行くならともかく、彼女と面と向かって延々と話し続けるなんて苦痛以外の何物でもないではないか。
「いえ、御心配は無用です。
では早速まいりましょう。皆様御機嫌よう。」
言いたいことを言いきって、彼女は僕の手を引っ張ってユーリたちの前から連れ出した。
彼女の家への3時間にも及ぶ滞在は、やはり今までの比ではない苦痛だった。
令嬢らしい対して中身のない話を、近い距離で聞き続ける。
それでも父さんとの約束があるから無碍にはできないし、聞いているふりをしながら時折相槌を打つ。
家に帰る頃にはもうくたくただった。
この疲れを癒す方法は一つしかない。
早く、彼に会いたかった。
ようやくやってきたユーリとの時間。
いつもだと始めは課題や予習をやるところだけど、今日はさっきから彼を腕に抱いたままただ時を過ごしている。
ユーリも何かを感じたのか、何も言わずに身を委ねてくれていたが、ついに口を開いた。
「トキ様、今日はどうかなさったのですか。」
「ねぇ、ユーリ。
ユーリは僕のこと嫌いじゃないよね?」
彼女と話していて思ったのはユーリのことだった。
苦手な相手と目的もなく時を過ごしていることほど苦痛なことはない。
一時は無理にでも手に入れようとしたこともあった。
だけど、今日初めてただ会話をしながら彼女と過ごしておもったのだ、もしユーリが断れないだけだったら、と。
「正直に言ってもいいんだよ。
何と答えても、君への援助は変わらないと約束するよ。」
「トキ様、私はトキ様のことを心からお慕いしております。
今日トキ様に何があったのかは私にはわかりません。
しかし、この気持ちは嘘偽りない真実の私の気持ちです。」
その言葉とともに、ユーリは体の向きを変えると僕を抱きしめた。
「ありがとう。」
苛立ち、不安で溢れていた心はユーリの言葉、行動によって癒された。
そのままの姿勢のまま、今日あったことを話した。
話し終わり、ユーリの顔を見ると、何かを堪えるような表情をしていた。
「ユーリどうしたの?」
「ウェストファリア様が羨ましい・・・」
「え?」
思わず聞き返すと、ユーリは慌てたように言葉を返した。
「すみません。なんでもありません。忘れてください。」
「どうして?
羨ましいって本当?
いつも僕ばかり嫉妬してると思ってたけど、そうではないって思ってもいい?」
ユーリは忘れて欲しいといったけど、とても忘れることなどできない。
いつもいつも僕ばかり、エリックやアート、ジェームスと仲がいいことに嫉妬してはユーリを困らせてばかりいた。
でも、その気持ちは僕だけじゃなかったとしたら・・・
まだ決定的な言葉をもらったわけではないけれど、僕の胸は期待でいっぱいだった。
期待を込めてユーリを見つめていると、観念したようにようやく口を開いた。
「そうです。
おこがましいことですが、ウェストファリア様に嫉妬しております。
私のような身分の者がトキ様のお側において頂いているだけでも大変なことだということも、トキ様が婚約者であるウェストファリア様と親交を深めていく必要があることも、それが望ましいことも分かっています。
それでも、分かっていても、正当な立場でトキ様と一緒に過ごし、そして未来すらも約束されているウェストファリア様が羨ましくて堪らないのです。」
「ユーリ・・・」
初めて聞いたユーリの激しいまでの想いに胸が熱くなり、彼の名前以外何も言うことができない。
その間にユーリは我に返ったようで、顔が青ざめていく。
「私としたことが、申し訳ありませんでした。
今更ですが、トキ様の将来の幸福のためにも、ウェストファリア様とわかりあえるよう祈っております。
先程は行き過ぎた発言をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
今日はもう失礼致します。」
僕が幸せの余韻に浸っている間にユーリを傷付け、留める間もなく出ていってしまった。
あぁ僕は本当に馬鹿だ。




