デート
ジェームスが、私たちと一緒に過ごすようになってから、今までとは違った楽しみもできるようになった。
アートもエリックも大好きだけど、二人はトキ様の友人だということがあってから仲良くなったけれど、ジェームスは、最初から私を見てくれたからそう感じるのかもしれない。
もちろん、一番大切なのはトキ様であることは変わらない。
だけど、トキ様はやはり主人であるし、最近では違う関係もできているから、純粋に友情だけを感じることはできない。
ジェームスと会ってからまだそんなに経ってはいないけど、もう私にとってはジェームスは親友のように感じられた。
帰りもほとんど毎日のようにジェームスと帰っている。
エリックやアートとは残念ながら途中から方向が分かれているから、トキ様がウェストファリア嬢と一緒に行ってしまった後、一人で寂しく歩いていた道が、今では楽しみに溢れている。
自分のことで頭がいっぱいでそのことをトキ様がどう思っているかだなんて全く考えていなかった。
だから、トキ様にジェームスへと心変わりしたことを疑われた時はただ驚いた。
ジェームスは親友だけれどそれ以上でもそれ以下でもない。
お慕いしているのはトキ様だけだという気持ちは態度で示してきたつもりだった。
誕生日のことだってジェームスに教えたのも話の流れで言っただけだし、トキ様には言わなかったのは、自分から言うとなんだか催促しているようで嫌だったし、お優しいトキ様ならきっと気を遣われるだろうと思うと言いだせなかっただけで、決してジェームスの方がトキ様よりも大切だという気持ちはなかった。
どうしてトキ様がそういう結論に至ったのか理解できないうちに押し倒され、とっさに抵抗してしまったが、そんなときでも優しい口付けと、瞳に映る焦燥と愛情に抵抗をやめた。
私はトキ様をお慕いしていて、トキ様も私を思ってくださっている。
ならば何も問題はないじゃないか。
一瞬そう思ってしまった。
それから我に返ったのはトキ様の指が上着のボタンにかかった時だった。
問題は大ありだ。
素性を隠して性別を偽っている私が、服を脱いでしまったら全てがばれてしまう。
いくら女性らしさがないことがコンプレックスな身体とはいえ、男の子のものとは明らかに違う。
ばれてしまったその時は、トキ様をずっと欺き続けていたこともまたばれるということであり、それはすなわちこの穏やかな関係の終焉を表していた。
だから私は、トキ様を拒む。そして傷つける。
本当の私を知らないトキ様にとっては単に私が拒んでいるようにしか思えない。
それでも、少しでも長くトキ様と一緒に居るためにはだまし続けるしかない。
少しでも長く・・・
トキ様と揉めるきっかけともなった私の誕生日。
今日は学校が休みだからトキ様を起こしに行く必要はないし、おそらく今日も一日ウェストファリア嬢とトキ様は過ごされるのだろう。
そう思っていたのに、部屋のドアがノックされ、トキ様がいらっしゃった。
「トキ様、どうされたのですか。」
「今日はユーリと出かけようと思って誘いに来たんだ。
もしかして何か用事があった?」
「私は特にありませんが、今日はウェストファリア様とお出かけにならないのですか?」
「今日は、仮病使っちゃった。せっかく昨日、今日はユーリの誕生日だってしれたんだから、一緒に過ごそうと思って。
迷惑じゃなかったら一緒に出かけよう。」
今年は学校が休みの日だったから、トキ様と一緒に過ごすことはできないと思ってたのに、思いがけないお誘いがやってきた。
「よろしいんですか。すぐに支度いたします。」
「ゆっくりでいいよ。僕が急に誘ったんだから。
そうだね、30分後にしようか。」
そう言い残して、トキ様は部屋を立ち去った。
誕生日にトキ様とデート・・・
姿を偽ってはいるけれど、これ以上ないほどのプレゼントをもらえた気がする。
身支度を整えながら時間がたつのをわくわくしながら待っていると、約束の30分が経過した。
トキ様をお待たせするわけにはいかないので今度は私からトキ様を訪ねるとトキ様も準備が整ったようで、早速出かけることになった。
「今日はどちらに行くのですか?」
「それは付いてからのお楽しみだよ。きっとユーリも気に居ると思うんだ。」
それ以上は教えてくださる気はないらしく、いつものようにたわいもない話をしながら1時間ほど歩くと、目の前には美しい湖が広がっていた。
「綺麗・・・」
まさにそれとしか表現できないぐらい、ただただ美しい光景。
湖には日が差し込みそれがキラキラと水面で反射し、湖の周りの花は色とりどりに咲き誇り、それが済んだ湖に映り、まるで絵を見ているかのような光景があった。
「そうでしょう?少し遠いけどとってもお気に入りの場所なんだ。
一度ユーリと一緒に来てみたいと思ってたけど、今日来ることができてよかったよ。」
「トキ様、こんな素敵なところに連れてきてくださってありがとうございます。」
「どういたしまして。でも、プレゼントはこれだけじゃないよ。
見て、お昼を作ってきたんだ。
ユーリほど上手には作れなかったけど、一緒に食べよう。」
そう言ってトキ様が取りだしたランチはサンドイッチを中心として、サラダやメインなど、多岐にわたっていて、とてもおいしそうだった。
「本当にありがとうございます。
本来、私が用意すべきだったのにトキ様にここまでしていただけるだなんて。」
「喜んでもらえてよかった。でも今日はそういう固いことはなしだよ。
今日はユーリの誕生日で、恋人としてデートしているんだから、僕の方が尽くすのが当然なんだから。
むしろ僕としてはいつでも対等でいたいんだけど、それはユーリが認めてくれないから・・・
せめて今日はゆっくりしようね。」
トキ様が作ってくださったランチは見た目だけでなく味も本当に美味しくて、少し多く感じた量も二人で綺麗に間食することができた。
食後はトキ様の言葉に甘えて、本当にこの時だけは対等になったかのように、一緒に湖の周りを散策しながら、ふざけあったり、甘えてみたり、と素敵な一時を過ごすことができた。
楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎていく。
町が近付くと、それまで組んでいた腕もそっと解き、家に帰りつく頃には完全にいつもの二人に戻っていた。
それでも、本物の恋人同士のように過ごすことができたあの一時は、私にとって忘れられない誕生日プレゼントとなった。




