疑惑
ユーリとエリック、アートと今年も同じクラスになり、再び、いや、去年以上に楽しい一年になると思っていた。
しかし、そこに現れたのは、ジェームスだった。
しかも、こともあろうに、2年前のことを謝罪してきた。
二年前、学校で孤立する原因になったことを。
ユーリが来るまでは、ジェームスと競ってはいたものの、あいつに負けたことは一度もなかったし、はっきり言って、僕の主席は揺るぎないものだった。
そんな中、漂った噂
いつもトキ・サンジェルマンが成績がいいのは、裏から手をまわしてカンニングしているからだ・・・
下手に家が大きかったこともあり、その噂にも信憑性が出て、いつしか学校中に広がっていた。
もちろん僕はカンニングをしたことなど一度もない。
サンジェルマンの一人息子として、両親の期待を一身に背負っていたし、自分自身、家に恥ずかしくない自分でいたかったから、それこそ努力して培ってきたものだった。
だけど、そんなこと他の人が知るはずもない、信じてくれたのはエリックと、アートだけだった。
先生たちですら疑う人もいて、話を聞かれたのも一度や二度ではない。
もちろん、サンジェルマン家の一人息子に、確たる証拠もないのにやったと決めつけて処分が下されたり、先生に叱られるようなこともなかった。
だが態度で視線で、伝わってくるものもあった、本当はやったのではないか、と。
周りの生徒たちも似たようなものだった。
さすがに僕を表だっていじめたり、無視したりするような度胸のある奴はいなかった。
だけど、今まで普通に話していたような子たちも、僕が話しかけると怯えるように答えてすぐにどこかに行ってしまう。
もちろん話しかけてくる人もいなかったし、グループを組まなければいけなかった時に、誘ってくれる人もいなかった。
本当に、エリックやアートがいなかったら、学園など辞めてさっさと他のところに転校していたと思う。
孤独を分かち合ってくれたのが二人なら、そこから救い出してくれたのも二人だった。
エリックが機転を利かせ、代表生徒十人とともに僕を一週間、学校の部屋に軟禁し、その後で、他の生徒が自らの家の家庭教師に問題を作成させ、十一人一斉に解かせたのだった。
そんな極限状態の中、十一人の中の誰よりも高得点を叩き出し、ようやく信じさせることができたのだった。
今思い返してもかなり強引だし、無茶苦茶な作戦だったと思う。
それでも、信じさせるには十分なインパクトがあった。
気まずそうに謝罪してくる生徒たちに、気にするな、と伝えるとさすがに最初はぎこちなかったが、徐々にいつもの関係を取り戻していった。
僕の周囲の関係が修復されるにつれて、次に噂になったのは、そもそも誰がそんな噂を流したのか、ということだった。
そこでようやく知った犯人、ジェームス。
彼もまさか僕の無実が証明されるとは思っていなかったらしく、隠れることなく、噂を流していたため、すぐに判明した。
僕のことが嘘だったとわかると、僕たちの立場は逆転した。
しかも、今回は無実の罪などではない、言い逃れのしようもなかったのだ。
それに耐えきれなかったのか、ジェームスは親の都合で、という理由で転校していった。
そのジェームスが、帰ってきて、僕に謝罪した。
驚いたが、今さら二年前のことを恨んではいない。
あの時は確かに苦しかったが、解決した後はそのまま日常を送れたし、むしろ転校する羽目になってしまった彼に少し同情していたくらいだ。
だから、特にこだわりもなく許した。
だけど、今になってようやくエリックの気持ちがわかる。
許す、と信用する、は違う。
エリックも当初ユーリのことを全く信用していなかった。
特に冷たくあたり散らすこともなかったが、心を開くこともなかった。
今でこそ仲の良い二人だけど、それはユーリの実力が明らかになったからだ
僕も正直ジェームスのことが信用できない。
そもそも戻ってきたことも妙に引っ掛かるし、あいつの性格ならむしろ僕のことを逆恨みしていてもいいはずなのに。
しかも、ジェームスは信用できないことを差し引いても気に入らない。
ユーリに僕たち以外の友達ができるのはいいことだと思う。
だけど、妙にユーリに親しげな様子が気になる。
アートがユーリにまとわりついていた時も気になったが、今回はそれ以上だ。
僕の前で平気で抱きつくし、僕が一緒に帰れないから、ユーリと2人で帰るだなんて。
目の前で抱きつかれた時はさすがにいらっとして、ジェームスを睨みつけてしまった。
それに気付いたユーリが一瞬怯えたような表情をしていたのが気にかかった。
だけど、許さないよ、ユーリ。
君は僕のものなんだから、他の男と仲良くするにも限度ってものがあるだろう?
このもてあました気持ちを、どうユーリに落ち着かせてもらおうか、と考えると少しだけ胸がすっとして、ウェストファリア嬢とのデートもさほど不快にならずに済ませることができた。
家に帰ってからは、何事もなかったように、ユーリに微笑む。
表情にはあまりでないが、ユーリがほっとしたのが、そのわずかに緩んだ空気から分かる。
僕だって成長した。二人きりになるまで、周りの視線が気にならなくなるまで自分の気持ちをコントロールできる程度には。
夕食も終わり、課題も終わり、ようやく二人のくつろいだ時間になる頃には、ユーリもすっかり安心しきっていた。
「そういえばユーリ、今日はジェームスに抱き着かれていたよね。僕の目の前で。」
「トキ様、やっぱり気になさっていたのですか?」
「当たり前だろ。何か、言い訳ある?」
「不可効力って言ってもいいですか?」
「駄目に決まっているだろう?」
笑いながら、そう言ってユーリを引き寄せると、言葉とは裏腹に笑っている僕に安心したかのように微笑んだ。
「だから、キスして、ユーリ。」
「えっ私からですか?!」
「もちろん、ユーリは僕のものなのに、ジェームスなんかに抱きつかせるのが悪い。
それとも、やっぱり僕のことは主人や友達としか思っていない?」
その言葉とともに悲しそうな表情をして見せれば、ユーリは案の定焦ったように続けてくれた。
「そんなことないです。ちゃんと、その、お慕い申し上げております。」
ちょっと悲しそうにしただけで、そう言ってくれるのはとても嬉しいけれど、言ったきり、なかなか行動には移してくれなかった。
やっぱり無理かな、そう思い、その言葉を訂正しようとした時、唇に暖かい感触が広がった。
「誰よりも、お慕い申し上げております。」
僕が何かを言う前に、そう言い残してユーリは去っていった。




