新友
とうとう、トキ様に出会って1年がたち、私たちも2年生へと進んでいた。
いつもの4人は離れることなく、幸運なことに同じクラスだった。
まぁ、後から聞くと、サンジェルマン家ぐらいの家になると、ある程度の希望を通すことができるらしかった。
また、4人で1年一緒に過ごせることを喜んでいると、先生が入ってきて、転校生がいることを伝えた。
新学期に合わせて転校してくることは、普通なら珍しいことでもないかもしれないが、このエトワール学園に至っては本当に難しい。何より、入学試験もとても難しいし、入学金だって驚くほど高い。
多少なら、成績の方は寄付金を積めばごまかせるらしいが、それだって多少なら、の話しだし、そうするための寄付金なんて、この学園のレベルで、普通の家には出せない。
そんな中、転校することができたのだから、よっぽど成績がいい上、名家であることは間違いない。
好奇心で、いっぱいになりながら、扉を見つめていると、入ってきたのは、トキ様と張るぐらい美しい男の子だった。
綺麗なブラウンの髪に、漆黒の瞳、トキ様に中性的な美しさがあるとすれば、彼にあるのは、男性らしい美しさだった。
その姿が登場した瞬間から、クラスの雰囲気がざわめきだす。
そして、先生がその名”ジェームス・ワーテルロー”を紹介した時、そのざわめきは一瞬にして収まり、逆に張りつめたような緊張感が漂う、静かな雰囲気になった。
どういうことだろう?彼には何かあるのだろうか?
ぐるぐると思い悩んでいると、どうやら紹介も終わったらしく、その気になる彼は私の隣の席に来た。
「さっき、先生に紹介してもらったジェームス・ワーテルローだ。
君は?」
「ユーリ・トリアノンです。」
「よろしく、ユーリって呼んでもいいかな?
僕のことは、ジェームスって呼んでくれる?」
そう言って優しく笑いかける姿は、まるで初めて会った時のトキ様のようだった。
「はい、宜しくお願いいたします。」
「敬語じゃなくていいよ。僕たち同い年だろう?」
「ですが、僕は奨学生ですし、お見受けしたところジェームス様はとても高貴な御身分の方では?」
「家柄で言ったらそうかもしれないけど、僕は君の主人と言うわけではないし、ユーリが許してくれるなら、君と友達になりたいんだ。だめかな。」
この言葉といい、ジェームスは本当にトキ様に似ている。
初対面から私のことを対等に扱おうとしてくれているだなんて、きっと彼も心優しい人なんだろうな。
「もちろんです・・・じゃなかった、もちろんだよジェームス。よろしく。」
「これからよろしくね、ユーリ。」
一時間目が終わると、すかさずトキ様がいらっしゃった。
「ユーリ、あいつに何か変なこと言われなかった?」
「あいつってジェームスのことですか?
特に変なことは言われませんでしたよ。あっ、友達になってほしいって言われました。
初対面から私のようなものを対等に扱おうとするなんて心優しい方ですよね。」
私がそう言うと、トキ様は苦々しい表情をして応えた。
「あいつが心優しいだって?ユーリ、だまされてるんだよ。あいつはそんないいやつじゃない。
いいから、あいつには気を付けておけよ。」
それだけ言うと、トキ様は自分の席に戻って行かれた。
いつもは次の授業が始まるまで話していることがほとんどのことなのに、その前に居なくなってしまうのはとても珍しいことだった。その珍しさが、トキ様にとって私がジェームスと仲良くすることがよくないことであることを強調しているように感じられた。
席について次の授業が始まるのを待っていると、隣から話しかけられた。
「ユーリ、さっきトキが来ていたけど、もしかして僕のことで何か言われた?」
「いや・・・その・・・。」
「僕とは仲良くしない方がいいとでも言われた?」
「そこまでは言われてないよ。ジェームスはトキ様のことを知っているの?」
「うん、というかこのクラスのほとんどを知ってるよ。
僕、中等部まではエトワール学園に居たんだ。だけど、トキと揉めちゃって、あの時は僕が全面的に悪かったから、高等部から他の学校に通ってたんだ。だけど今年からここにまた戻ってこれることになったんだけど、やっぱりトキは許してくれないみたいだな。トキがそう思うのも無理はないよ、本当に僕は彼にひどいことをしてしまったんだから。」
「ジェームスはその時の事を後悔しているの?」
聞きながらも、後悔しているのは間違いないだろうと思えた。
話している時のジェームスはとても苦しそうな顔をしていたのだから。
「もちろんしているよ。だけど今さらだよな。」
「そんなことないよ。後でトキ様に謝ってきなよ。トキ様はお優しい方だから、きっと許してくれるよ。」
「そうかな・・・、じゃあそうするよ。
ところでさっきから気になってたけど、ユーリってトキと何か関係があるの?さっきからずっとトキ様、って言ってるよね。」
「僕が、奨学生だってことは言ったよね。僕がお世話になっているのがサンジェルマン家なんだ。」
そう言った瞬間、一瞬ジェームスの目に何かが宿ったような気がしたが、もう一度確かめるように見た時には、さっきまでの優しいジェームスだった。
昼休みは、いつも4人で取っているので、そこに、トキ様に謝ることを決意したジェームスを連れていくことにした。
「ユーリ、どうして彼が?」
私の後ろに立っているジェームスを不審そうに見ながら、トキ様に聞かれた。
「ジェームスは、トキ様に伝えたいことがあるそうなので、連れてきました。
今少しいいですか?」
「構わないけど。何の用だ、ジェームス。」
しばらく、言うのをためらっていたジェームスだったが、やがて決意したように、トキ様に話しだした。
「トキ、3年前のことは、本当に申し訳なかったと思う。あの頃は、全然周りが見れていなくて、トキのこともたくさん傷つけた。
今さら何だ、って思うかもしれないけど、一応伝えたくて、ユーリに頼んだんだ。
本当にごめん。」
「別に、お前が本心からそう思ってるなら、済んだことだし構わない。」
「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ。
ユーリも、こんな機会を作ってくれてありがとう。」
そう言うと、ジェームスは、感極まったかのように私に抱きついてきた。
突然のことで困るが、まさか、感動している友人を突き放すわけにはいかない。
恐る恐るトキ様の方を見てみると、案の定、先ほど和解したはずのジェームスをものすごい勢いで睨みつけていた。
とにかく、トキ様とジェームスもなんとか和解できたわけだが、さすがにすぐに仲良く、とはいかず、5人で取った昼食も、ぎこちない雰囲気が漂うものとなった。
そんな昼食も終わり、あっという間に午後の授業も終了し、帰る段階になって、ジェームスに引きとめられた。
「ユーリ、今日のことのお礼もしたいし、この後、一緒に出かけないか。」
「悪いけど、僕はすぐに家に帰らなきゃいけないんだ。」
「どうして、どうせトキは、婚約者と出かけるんだろう?だったらユーリは別に構わないじゃないか。」
一瞬、何かに違和感を感じたような気がしたが、それが何なのかはわからなかった。
「空いている時間は、サンジェルマン家の仕事を行うことになっているんだ。ごめんね。」
「それなら、一緒に帰ろうよ。僕の家は、ちょうどサンジェルマン家より少し先に行ったところだからさ。」
「分かった。なんだか嬉しいな。トキ様たち以外と一緒に帰るのは初めてだ。」
今までクラスの他の子たちとも、当たり障りなく過ごしていたけど、一緒に帰ったり、遊びに行くことを考えるほど、親しくなったのは、トキ様たち以外で初めてだった。
これまではそのことに不満はなかったし、4人で過ごすことが楽しかったから何とも思わなかったけど、ジェームスは初めて自力で作った友達と言ってもいい。
そんな存在ができたことに、少し、浮かれ過ぎていたのかもしれなかった。




