表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神童  作者: クロ
25/45

約束



劇で女装した途端に、たくさんの生徒に告白され、正直辟易していたが、なぜか、僕のユーリへの気持ちを知っていた2人に、窘められはしたが、知っていた上で、僕たちのことを認めてくれた2人に感謝の気持ちでいっぱいだった。


ユーリには本当の意味で受け入れてもらい、親友にもその関係を認められ、まさに僕は幸せで一杯だった。


が、それに水を差したのが、ウェストファリア嬢だった。


ここ一カ月全く会っていなかったのでその存在をすっかり忘れていただけに邪魔されたことへの苛立ちはかなりのものだった。


しかも、ここしばらく会っていなかったからということで、さんざん連れまわされた揚句、夕食まで共に取ることになってしまった。



ようやく、ウェストファリア嬢に解放されて家に戻ると、ユーリの様子がおかしかった。


どこか疲れきったような顔をしていたので、部屋に戻るように言ったが、ユーリは部屋に戻ることはなかった。


僕としてはウェストファリア嬢と過ごしてきて心が疲れきっているので、ユーリと一緒に過ごせることはとても嬉しかったが、ユーリの様子が心配だった。


二度目に部屋に戻るように促した時、いつものユーリとは全く違う反応を見せてきた。


どこか僕に甘えるようで、しかも、ユーリの方から抱きしめてほしい、好きだと言ってほしいと言ってきたのだ。


普段のユーリではありえない言動の数々に驚きはしたが、嬉しくないはずがなかった。


いつも、どれだけ言っても決してその一線を越えようとしないユーリが、僕に甘えてくれるのだ。


嬉しくないはずがなかった。



求められて、抱きしめて、好きだと告げて、気持ちを返される。


本当に幸せな夜だった。




でも次の日にはいつものユーリに戻っていた。


たった一言だけ、昨夜のことを詫びるとあとは、全ていつも通りだった。

別に避けられることもなく、よそよそしいわけでもなく、適度に親しげで、適度に距離をもつ。


まったくもっていつものユーリだった。










「ということなんだけど、ユーリに何があったと思う?」


調度ユーリが先生の手伝いでいない時に、2人に相談してみることにした。

成績優秀な奨学生のユーリはよく先生の手伝いを頼まれる。

先生も生徒は平等とは思っていても、どこぞの家の子息たちに雑用は頼みにくいらしい。


「俺、何となくわかるかも。」


「えっ、何なんだ。」


「ユーリはきっと寂しいんだと思うよ。」


「どういうことだ?」


はっきり言って僕たちは、ほとんどの時間を一緒に過ごしていると言ってもいい。

これはそう言う関係になる前からずっと続いてきたことだし、寂しいと思う暇もないと思うんだけど。


「どういうことって言われてもな・・・エリックの方がこういうことは得意じゃないか?」


「簡単に言えば心の距離の問題だな。


僕は、距離なんか感じさせないくらい、ユーリにべったりだ。なんて言うなよ。そう言う問題じゃないんだ。

おそらく、ユーリはお前が思っている以上にトキのことが好きだ。」


「あっ、ありがとう。」


「それで、だ。昨日と今までの最大の違いはなんだと思う?」


「最大の違い?」


「それは、お前の婚約者の存在だ。

ここ1ヶ月、忙しかったこともあって、彼女とは全く会わなかっただろう。

でも昨日になって久しぶりにトキの婚約者が現れた。

ユーリにとっては衝撃だったと思う。1ヶ月ずっとそばにいたせいで、ユーリもトキと過ごすことが当たり前になってきていた。しかも、お前とは思いを伝えあって、言ってみれば幸せの絶頂ってとこだ。

そこに来て現れたトキの婚約者。ユーリにしてみれば急に現実を突きつけられたような気分だっただろうな。

お前とユーリじゃ元から立場が違う。それを忘れかけていたところに急にその差を思い知らされたんだ。


そんな時、ユーリが唯一自分が持っていると自覚できたのは何だと思う?

トキの気持ちそのものだ。

だから不安で仕方なかったユーリはお前の愛情を求めた、ってとこだろうな。」


「なるほど・・・じゃあさっそくユーリに・・」


その納得できる仮説を聞いて、早速ユーリのもとに行こうとしたところで、エリックに引きとめられた。


「何を言うつもりだ?

ユーリに確認なんてするなよ。そんなことしたら、あのユーリのことだから、ひたすらトキ様に気を遣わせて申し訳ない、って謝るだけだぞ。下手したら、こんな気持ちになるのはいけないことだ、とせっかく両想いになったのにそれすら台無しになる。

こういうことはトキが分かっていればいいんだ。それで、ユーリが不安になった時に好きだと言ってやれ。

お前に出来るのはそれだけだ。」


その言葉にハッとした。エリックの言う通りだ。ユーリなら、僕が気を遣えば遣うほど、かえって遠のいてしまうに違いない。



その後しばらくして戻ってきたユーリには何も言うことなく、いつも通り、学校は終わった。





今日は・・・・・

やっぱり、ウェストファリア嬢は待っていた。

毎日毎日会っていたら、かえって嫌になるかもしれない、という発想はないのだろうか。


ユーリも、エリックの説によれば、ウェストファリア嬢と過ごしていることが嫌なはずなのに、今日も明るく送りだしてくれる。

本当にエリックの言う通りなのだろうか?と思わず疑ってしまいたくなるほどだ。


でも、僕に言わせれば、ユーリの方が僕よりよっぽどましだと思う。

僕は好きでもない、むしろ嫌いだとすら思っているウェストファリア嬢の相手をしなければならないのに、ユーリは家に帰ることができるのだ。ユーリが別に遊んでいるわけではないことは分かっているが、家の仕事をするのと、ウェストファリア嬢の相手をするのだったら、僕は間違いなく家の仕事を選ぶだろう。



こんなことを考えているうちに、気付けば町中で、横ではウェストファリア嬢は絶え間なく話しかけてくる。

ほとんどまともな返事はしていないのに、よくもここまで話せるものだ、と逆に感心してしまう。


これでも、彼女の相手は大分なれてきたと思う。

適当に相槌を打ちながら、引かれるままについていけば、なんとなく時間は過ぎて行ってくれるのだ。



今日も何となくでやり過ごし、ようやく家に帰りついた。

今日は夕食の前にウェストファリア嬢を帰すことができたので、さすがに一緒にとはいかないが、ユーリの給仕で夕食をとることができた。



全てが終わってからの、課題と、その後のくつろぎの時間。

ユーリと過ごすこの時間を支えに、例の時間を我慢していると言っても過言ではない。



課題が終わっても、今日は案の定昨夜のようなユーリの影はどこにもなく、まったくいつも通りのユーリだった。


「今日は、昨日みたいに、甘えてこないんだね。」


「昨日は申し訳ありませんでした。」


「だから、怒ってないって。それに、そんなに遠慮しなくてもいいんだよ。」


「でしたら、お願いですから昨日のことは忘れてください。

でないと、もう申し訳なくて遠慮なしではいられません。」


「分かった。昨日のことはもう言わないよ。

だから、ユーリこっちへおいで。」


そう言って、腕を広げて、待って見せた。

思った通りユーリは困ったような表情をしている。


「えっと、どこがどうつながるとそうなるのですか。」


「だって、ユーリはもう二度と僕を求めてくれないってことだろう。

だったら、僕の方から行かなくちゃ。」


その言葉に、ハッとしたように、ユーリはこちらに近づいてきた。

それでも、僕の腕の中に入るまでの勇気は持てなかったらしく、その場で留まっている。

そんなユーリの腕を引っ張り、反動で僕の方に倒れこんできたのを利用してそのまま抱きしめた。


「好きだよ、ユーリ。君が何よりも大切だ。」


「トキ様・・・」


「僕には、婚約者がいるし、おそらくそれを解消することもできないと思う。

だけど、僕にはユーリが一番大切で、誰よりも愛おしいんだ。

それだけは、信じてほしい。」


「私も、トキ様を誰よりもお慕いしております。」


「ありがとう、今までずっと一方通行だと思っていたから、嬉しいよ。

でもユーリ、一つだけ約束してほしい。」


「何ですか?」


「僕がユーリの意にそぐわないことをしたら、拒否してほしいんだ。」


「それは・・・。」


「できないって言うのは分かってる。でも、僕はもう一方通行な思いはしたくない。

ユーリの意に沿わないことを押し付けて、ユーリの気持ちが離れて行くなんて嫌なんだ。

だから、せめて言葉で伝えてほしい。」


「分かりました。そのように致します。」


「僕のわがままを聞いてくれてありがとう。好きだよ。ずっと一緒にいようね。」


抱きしめた手を緩めることなくユーリの方を見つけると、それに気付いたかのようにユーリも顔をあげ、そのままそっと口付けを交わした。

それは、お互いの思いを誓いあうかのような穏やかな口付けだった。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ