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神童  作者: クロ
20/45

オリヴィア



朝起きると、さっそくトキ様に余興のことを聞かれた。


「おはよう、ユーリ。

余興の劇の内容は決まった?」


「はい、決まりました。昔読んでいたオリ・・・」


「待って、まだ言わないで。どうせならエリックたちと聞きたいな。」


「そうですか。じゃあ、楽しみにしていてくださいね。」



最初はめんどくさいと思っていたけど、楽しみなってきた。






学校に着くと、早速、アートに詰め寄られた。


「ユーリ、決まった?!」


「決まったよ。

”オリヴィア”にしようと思うんだ。」


「聞いたことないな。トキは?」


「いや、僕もないな。」


「ユーリ、どんな話なんだ?」



三人とも聞いたこともないようだったので、簡単にストーリーを説明することになった。











シルヴィア王国にはそれはそれは美しい一人の王女がいた。


彼女、オリヴィアは、唯一の王の子として、唯一の王位継承者として、それはそれは大切に、そして厳しく育てられてきた。


そんな彼女の傍にいつもいたのが、レクシール侯爵の次男、シリウスだった。

シリウスは、侯爵筆頭とも噂される名門貴族の子息ではあったが、彼には3つ年上の、兄がいて、彼も健康には何も問題がなかったので、彼が家を継ぐことはないとされていた。


そのため、調度彼が5歳の頃に生まれたオリヴィアの学友、後々は側近となるべく、彼女が生まれた時からずっと、傍にいた。


唯一の王位継承権者として、厳しい教育を受けて、育てられてきたオリヴィアも、いつも優しく包み込んでくれるシリウスといる時だけは心は安らぎ、その安らぎの時のおかげで、彼女はその自らの重荷につぶされることなく健やかに育ったと言ってもよかった。


幼いころから常に傍にいた存在。


そして、お互いの間にあるのは、いつも穏やかな安らぎの時。


2人がお互いに惹かれあっていくのはある種必然のことだったのかもしれない。



いつも傍に居てくれる優しく、時に間違いそうな時は導いてくれるシリウスに惹かれていったオリヴィアは、5歳年上の彼に少しでも追いつこうと、与えられる教育はもちろん、自らも貪欲に学んでいき、マナー、ダンス、楽器全てを真剣に身につけて行こうとしていた。



自らの傍で成長するごとに美しくなっていく姫君。

自らを信用して自分にだけ花が咲くように微笑んでくれるオリヴィアに惹かれて行ったシリウスだったが、彼には兄がいて、侯爵家の二男といえども、彼女の傍に居続けるにはそのままではいられなかった。


彼女の傍に居るために、そのために、騎士を志し、厳しい鍛錬にも耐え抜き、さらに自身での鍛錬も怠らず、見習いから、従騎士、正騎士へと、家の力に頼ることなく、自らの力だけで駆け上っていき、18になるころには、近衛騎士にも抜擢され、21の時にはついには、最年少近衛騎士団長にも選ばれた。


その出世には、少なからず、侯爵家の出身であったことが役に立ったことは確かだが、それ以上に、群を抜いた才能、身に付けた技術があったからこそ、周囲も認めてくれたと言ってもよかった。



お互いが、お互いに相応しくあろうと、成長していき、誰もが見てわかるほどお互いに惹かれあっていた彼らは、唯一の王位継承権者であるために他国へと嫁ぐことのできない姫の事情もあって、誰もが身分も年頃も何もかもが相応しいと思える2人へとなっていた。



だが、シリウスが近衛騎士団長となり、誰もが二人の結婚も真近だと思っていた、オリヴィアが18になる直前、王と正妃の間に男の子が誕生してしまった。


オリヴィアが18となると同時に結婚するだろうと思われていたにもかかわらず、その直前まで婚約すらされていなかったのは、正妃が懐妊した為に、生まれてくるまで様子を見ようということになっていたからであった。


当然、生まれてきた子が男の子であるならば王位継承権第一位はその子であり、オリヴィアは国に残る必要はない。

むしろ、国に残るよりは、近隣諸国へと嫁いでいき、その関係を良好にすることこそが求められていると言ってもよい。


オリヴィアに弟が誕生した。

その意味が分からない二人ではなかった。


それでもシリウスはオリヴィアに永遠の忠誠と愛を捧げ、どのような結論になろうとも最後までついていくことを誓う。


だがそんな二人に無情にも別れはすぐにやってきた。


オリヴィアの弟、ルータスの誕生からわずか一週間後にまるで待ち構えていたかのように、隣国の大国エストーヴァからオリヴィアを皇太子の正妃にと話がもちかけられたのだ。


後宮にはすでに何人もの側室がいるとはいえ大国のエストーヴァからシルヴィアの姫を正妃に、と言っているのだ、シルヴィアの王が断わることができるはずもなかったし、また断るつもりもなかった。


誰もが結婚して幸せになるはずだと思われていた2人に訪れたあっけない終わり。


しかし、それでも、近衛騎士隊長の位を捨ててでも、シリウスは、オリヴィアについていった。

誰の妻になろうとも、自分の主であり、自分が愛を捧げるのはオリヴィアだけである、と。


しかし、いざエストーヴァの後宮で暮らしてみると、オリヴィアが大切にされているとは言い難かった。

そして耳にした不穏な噂。

お互いのために自分を磨いてきた二人には噂から真実を導き出すのは容易いことであった。


エストーヴァの真の狙いは、シルヴィアへの侵攻と、その豊富な鉱山であり、オリヴィアを正妃としたのも、油断を誘うためだったということに。


それに気付いた2人の行動は素早かった。

普段から気にもかけられていなかった二人は、シルヴィア王に報告し、一方で2人は内側からエストーヴァの弱体化を図り、いざエストーヴァがシルヴィアに侵攻してきた時には返り討ちにし、王を討ち、属国とまでしてしまったのであった。


事前にその侵攻を知っていたとはいえ、何の変哲もない国が、大国を打倒したのは、他でもないシリウスの活躍があってこそだった。


その活躍を認めた王は、シリウスをエストーヴァの王とし、属国ではなく、独立公国として、オリヴィアにをその妃とした。


そしてようやく、2人は結ばれることとなったのであった。







話し終えると、しばらく茫然としていたアートがいきなり抱きついてきた。


「めちゃくちゃいい話じゃねえか。

単なるラブストーリーかと思いきや、国家を巻き込む陰謀をくぐりぬけて結ばれるだなんてかっこよすぎるよ。なあ。」


「そうだな、それでいいと思うよ。トキは?」


「僕も賛成だよ。ユーリもいいものを探してきたね。」


「それで、配役は?」


「アート、お前、トキ様がうらやましいっていつも言ってたよな。」


「ああ、ユーリは何を差し置いてもトキ様、トキ様だし、それだけ忠誠を誓ってくれる人がいるなんてうらやましい・・ってまさか!?」


「喜べアート、アートがオリヴィアで、僕がシリウス。エリックはエストーヴァの皇子で、トキ様がシルヴィアの国王です。

トキ様は、出番が少なくなってしまって申し訳ありませんが、お忙しいと思ったので、この配役にさせていただきました。

異議のある人はいますか。」


「「絶対に嫌だ」」


「アート、それにトキ様まで。

どこが不満なんですか?」


「決まっているだろう。どうして俺だけが女役で犠牲にならなくちゃいけないんだ!」


「まあ、それは言うと思っていたけど。

トキ様は王様では嫌ですか?」


「いや、別に王の役が嫌というわけではないけど・・・」


「ユーリ、トキはお前が忠誠も愛も誓う相手が俺なのが気に食わないんだよ。

な、トキ?」


「・・・」


「だからさ、俺とトキの配役を入れ替えれば完璧だ。」


「待って、僕も女装は嫌だ。

だったら、ユーリがオリヴィアで僕がシリウスをやる。」


「トキ様に、忠誠を誓わせる役なんてできません。」


トキ様が私の下?たとえ劇中で会ってもあり得ない!


「いや、劇ぐらいいいだろう?それにユーリならきっと似合うさ。

それともユーリ、僕の・・・」


「トキ、そういう時だけ、権力使うのはなしだ。

それに、よく考えてみろ、ユーリは普段から、女みたいな顔だ、女みたいに華奢な体つきをしているだとか言われているんだ。今さら女装したところでやっぱり、という感想しか得られず面白みがない。

ここは、一見女装するとは思ってもみなかった人がするからこそ面白みがあるんだ。」


「でもエリック、そこまで面白みにこだわらなくても・・・」


「トキ、いいのか。ただでさえ、男子しかいない学園の中で、女の子みたいだ、かわいい、とか言われているユーリが女装なんかしたら大変なことになるぞ。

きっと、禁断の恋ってやつに目覚めてしまうやつも出てきてしまうだろうな。

思ってるだけならともかく、強引な手段にでる奴まで出てきてしまったりして。」


「分かったよ。僕がやるよ。その配役で文句はない!」


「トキ様、無理を言ってしまって申し訳ありません。

それじゃあ、明日から練習宜しくお願いします。」



こうして、紆余曲折の末、卒業生のための余興の準備がスタートしたのだった。







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