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神童  作者: クロ
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嫉妬


トキ様の誕生日から一週間後、トキ様が正式に御婚約されたことを知らされた。


相手はあのウェストファリア家の御令嬢、私がトリアノン家令嬢として生活していたころから評判になっていた淑女で、家柄も、本人の評判も何一つとして敵わない、そんなはるか上の御令嬢だった。



トキ様がしかるべき家柄の御令嬢と結婚することは前から分かっていたことだし、それがウェストファリア家の御令嬢ならば、トキ様のお相手として申し分ない。



分かっていたはずなのに、分かっているはずなのに、トキ様からそのことを聞かされた時、大きな衝撃を受けた。


あの微笑みが自分だけのものではなくなるのだ


もちろん、今までだってエリックや、アートといつも一緒にいたけれど、畏れ多いことにいつだってトキ様は、ユーリが一番大切だと、言葉で、態度で示してくださっていた。

事実、家に居る時はほとんど一緒に過ごしていたし、けがをして起き上がれなかった時も、ずっと付き添ってくださっていた。


これは、単なるトキ様の優しさだ、自分の代わりにけがをしたと思って申し訳なさから一緒に居てくれるのだ、と自分に言い聞かせながらも、期待せずにはいられなかった。


トキ様は心から私を一番大切に思ってくださっているのだ、と。


そんなトキ様を心から尊敬し、忠誠を誓い、大切に思って、この方の幸せのためなら何でもできると思いながら過ごしてきた。


そのはずだったのにどうだろう、トキ様からご婚約の話を聞いた時、一番最初に思ったのは、祝福ではなく、トキ様を奪われるという哀しみだった。


もちろん、自分でもよく分かっている、トキ様は本来ならば関わることもない高貴な方であり、たとえ一時であっても、自分を大切にしてくださったことが幸運だったのだということは。


それに、トキ様も婚約してから私に冷たくなったとかそういうことは一切ない。

使用人である私に対して、今でも友人として優しく接してくださっている。


トキ様の幸せが何よりも大切だ、という気持ちに偽りはないし、御婚約者様と時間を過ごし、お互いをよく知りあっていくことが、将来トキ様が幸せな家庭を築くためには必要なことも、たとえ、誰とご結婚されようとも、その言葉通り、トキ様は変わらず私を友達だと言って大切にしてくださるだろうということは分かっているのだ。


分かっている、分かっている、だけど、トキ様の一番があの方になってしまい、私と過ごす時間も減ってしまったことが、寂しくて、悲しくてしょうがない。



最近は、学校を出ると、あの方がトキ様を迎えに来られて、トキ様もそれを笑顔で迎えて2人でどこかへ行ってしまう。


それを引き留めることもできない。

もちろん立場上というのもあるが、私の視線に何か感じるものがあったのだろう。ウェストファリア様から直接に使用人はその立場を弁える態度でいるべきだと釘をさされてしまった。



戻ってくるのは大抵が夕食の時間で、時には夕食もサンジェルマン家で一緒に食べて行かれることもある。


夕食後は今までと同じように、学校の宿題と次の日の予習をトキ様の部屋で一緒に行う。


でも今までとは違う。

今まではたとえやっている内容は勉強であったとしても、いつもトキ様は楽しそうにしていたのに、今ではあの方と一緒に居る時は笑顔でも、私と過ごしている時間はいつも苦しそうにしている。

そのことに気付いていながらも、トキ様と一緒に勉強することはやめない。

2人でやることはお互いの刺激になっていいことなのだから、と自分に必死に言い訳をしながら。


だけど、さすがに勉強が終わったあともいつまでもトキ様の部屋に居座ることはできない。

だから、最近トキ様とまともな会話はしていない。


勉強をしている時はお互いに黙々とやっているし、話すとしても必要なことだけだ。

登校は変わらず一緒にしているけれど、夜の気まずさが残っていて、それから気分を変えきる前に、アートやエリックたちと一緒になってしまう。


2人が加わると、いつもの4人に戻る。明るく、にぎやかに、楽しい雰囲気で。

ただ、私とトキ様の会話の掛け合いになりそうになると一瞬空気が止まることをのぞいて。





そんなことが一カ月も続き、私はもう耐えられなくなってきていた。


私がトキ様と一緒に居ることを諦めきれなかったがために、今まで、トキ様には気まずい思いをさせてきてしまった。

だけど、もうこれ以上私のわがままでトキ様を苦しめるわけにはいかなかった。


一緒に居るのが苦しい自分と、トキ様と一緒に居たい自分の葛藤を全てトキ様のせいにして、私は全てを片付ける決意をした。





一度決意してしまえば早かった、その日のうちに旦那様にお時間をいただき、一人旦那様の部屋に来ていた。



「旦那様、ひとつお願いがあるのですがよろしいでしょうか。」


「ユーリから頼みとは珍しいね、言ってごらん。」


「私を、トキ様の専属からはずし、下働きの使用人として扱ってほしいのです。」


理由は言わず、ただ自分の希望だけを述べた。


「そろそろ言いだすのではないかと思っていた。

もちろん、構わないよ。嫌になったらいつでも配属は変えるという約束だったからね。


明日からの仕事は執事長のリーマスに聞くと良い。」


「ありがとうございます。」


「明日から大変だと思うが、変わらず夢に向かって頑張ってくれ。」


わがままを言った私に旦那様は優しくそう告げると、ふんわりと頭をなでてくださった。

本当に、旦那様はお優しい方だ。

このサンジェルマン家の人々はみんな優しい。旦那様も、トキ様も、他の使用人もみんな。




翌日からトキ様の担当を変えてもらい、朝は厨房で働き、普段トキ様が出かける時間に洗濯を手伝い、学校にはぎりぎりで到着した。


遅れてきた私をトキ様たちは不審に思ったらしいけど、実際に聞いてきたアートにだけ、担当が変わったことを教えた。


夕食の給仕ももちろん別の人で、その間も厨房で働き、一日の仕事が終わった後も、トキ様の部屋にはいかず、自分の部屋で宿題と予習を行っていた。


全てが終わり、寝る前にお茶でもいただこうかと思った時、私の部屋をノックする音が聞こえ、返事をする前に、トキ様が入ってきた。










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